90 / 111
第二章
第90話 カレー
しおりを挟むナーガさんを引っ張ってハドリーさんのお店に戻った。
お昼のピークタイムは過ぎたのか、さっきと打って変わって静かにお茶を飲むお客さんが数人しかいない。
「ハドリーさん! ナーガさんを連れて来たよ」
「おっ、やっぱりアリシアちゃんに頼んで正解だったな」
明らかに不機嫌そうなナーガさんを気にせず、ハドリーさんは「よう」とカウンターの中から身を乗り出す。
「久しぶりだな。たまにはメシ食いに来いって行ってるだろ」
「この前食べた」
サディさんと一緒に杖を買って来てくれたときのこと?
デザート用のチョコやクッキーをいくつか口に放り込んで、「甘くなった」とか言ってポテトをちょっと食べてたっけ。
あれは食事にカウントしないでしょ。
「ナーガさん、もしかして偏食?」
「そうそう、こいつ野菜も肉もロクに食わないからな。ミートソースのスパゲッティくらいいけるだろと思ったのに、ネズミが盗み食いした程度で残しやがって」
「フォークにグルグル巻きつけるのが面倒。手が痛くなる」
そんな理由なのか……。
とにかく、ただ食べるのが面倒なんだな。
「そんなお前でも食える料理、開発してやったぞ」
ハドリーさんがニヤッと笑う。
大きな銀色のお鍋の蓋を開けると、馴染みのある匂いが流れてきた。
これは……カレーだ!
ハドリーさんがお皿にライスを乗せて、その上に茶色いカレールーを掛ける。「はいよ」とカウンターテーブルに置かれたそれは、野菜がみじん切りのように小さく入っていた。
「なにこれ」
「シチューを改造した俺のオリジナルメニューだ。野菜も肉もたっぷり入ってるが、スプーンだけで食えるぞ」
食欲のそそる匂いのそれを一瞥すると、ナーガさんはズズズッとお皿を私の方に寄せてきた。
「食べないの?」
「僕、シチューは嫌いなんだ」
「これはシチューとはまた違うから。絶対おいしいから食べてみて!」
「食べたことないくせに……あるのか?」
ナーガさんが勘付いたらしい。そう、カレーは前の世界で超有名な食べ物!
とはハドリーさんの前で言えないから、無言で小さく頷く。
異世界の食べ物ということで興味が湧いてくれたのか、ナーガさんが無言で銀のスプーンを取った。
恐る恐るというくらい慎重に、カレーを掬って一口。
「どう?」
「どうだ?」
私とハドリーさんに詰め寄られても、ナーガさんは無言。
でも、また一口。食べ続けてる。
思わずハドリーさんとハイタッチ!
「やったね、ハドリーさん! ナーガさん、カレーなら食べられるみたい」
「大成功だ! ……ん? カレー?」
しまった! ハドリーさんのオリジナルメニューなのに、うっかり名前を!
「あー……えーっと、辛そうな匂いがしたから『カレー』なんて名前どうかなぁと思って」
「そりゃいいな。よし、この改造シチューは『カレー』にしよう。アリシアちゃんも食うか?」
「食べるー!」
久しぶりのカレーは、それはそれはおいしかった。
寝込んでるお母さんに代わって、初めてちゃんと作ったのがカレーだったっけ。
おっと、懐かしい味を堪能して忘れそうになってたけど、本題はここから。
「あのね、2人にお願いがあるの」
「へえ、話ってのはそのお願いのことか。言ってみな」
「面倒事なら僕はご免だ」
話はもちろん、アステリの収穫祭でお父さんたちのサプライズ結婚式のこと。
その料理をハドリーさんにお願いした。
「はー、結婚式か。そういや、旅立った記念日だとか言ってたな」
「お父さんたち、きっと喜んでくれると思うんだけど……どうかな?」
「そりゃ喜ぶに決まってる。わかった、式のご馳走は負かしとけ」
「ありがとう! それで、ナーガさんは」
『面倒なこと頼むなよ』って顔してる。
大丈夫、そんなの重々承知。
「当日、寝てないでちゃんと出席してね。できれば式に相応しい格好で」
「まあ……出るだけなら出てやるよ」
「それから、魔法でフラワーシャワーをしてくれると嬉しいな。花びらを撒いて祝福するの」
ものすっごい顔をしかめられた。
なるべく手間じゃないものを選んだつもりだったんだけど。
「弟子が師匠に命令するなんて、立場をわかってるのか」
「ご、ごめんなさい。でも、お父さんとサディさんのために……」
「それくらい気持ち良くやってやればいいだろ、ナーガ。お前だって、アルとサディには散々世話になってるんだから」
「別になってない」
ナーガさんがガタッと音を立てて立ち上がった。そして、指を鳴らそうとしてる。
「ナ、ナーガさん!」
機嫌を損ねたままじゃ、式に出てくれなくなるかも!
慌てて呼び止めると、ナーガさんは中指と親指をくっつけたまま、ままジロリとこちらを見た。
「杖の礼だけはしてやる」
パチンと指を鳴らした瞬間、ナーガさんは青い炎に包まれて消えてしまった。
と、とりあえずこれで大丈夫……だよね。
8
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる