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第13話 5年後
しおりを挟む「リゼル、もうすぐお昼になるわ。起きなさい」
「いいじゃないかぁ~今日くらい」
カーテンを開けると、眩しそうにベッドの中のリゼルが目を擦る。ベッドサイドに置いた眼鏡ケースを開け、銀のフレームの眼鏡を掛けた。
あれから5年が経った。
ベッドから降り、窓際の私の隣に立ったリゼルはもう少しで私の身長を超えそうだ。流れるような美しい銀髪は後ろ髪を少し伸ばしている。まだ幼さは残しているものの、徐々に私の知っている原作のリゼルに近づいている。
だけど、心配はいらない。リゼルは優しい良い子に成長した。このままなら大丈夫だ。
「おはよう、母上」
「おはよう、リゼル。もう13歳になったのだから、朝はちゃんと起きられるようにしないと」
「今日だけだよ。昨日は誕生日パーティーで夜更かししたんだからしょうがない。これからはちゃんと起きられるさ。もう子供じゃないんだからな」
リゼルは昨日13歳の誕生日を迎え、盛大に誕生日パーティーを開いた。といっても、参加したのは使用人や家庭教師、それからアンブローズさんとヴェインだけだ。
眼鏡を掛けるようになってから、リゼルの勉強はぐんぐん進み、さすがに私では教えられなくなった。今のリゼルならば家庭教師とも上手くやれるだろうと思ってはいたが、ツテがない。
どうしたものかと悩んでいると、アンブローズさんが薬師としていろいろな人脈があるらしく、腕の良い家庭教師を紹介してくれた。リゼルは最初警戒したが、すぐに家庭教師と打ち解け勉強に励むようになった。
アンブローズさんは時折リゼルに会いに来てくれ、ヴェインも眼鏡の調整や新調をするために何度も屋敷に顔を出してくれた。今では2人はすっかり親戚のようなものだ。
「ね、母上。だから俺の社交界デビュー、許してくれるだろ?」
リゼルが強請るように小首を傾げる。私がこの仕草と表情に弱いのをすっかり知られている。
私が社交界に嫌気がさしてパーティーに出なくなってから、すっかり貴族社会とは疎遠になってしまった。そのせいでリゼルは同年代の友達を作ることができなかった。それについて私に不満は漏らさなかったが、やはり外に出たい気持ちはあったのだろう。
社交界に正式デビューするのは16歳からだが、13歳からプレデビューといって早い時間帯だけパーティーに参加することができる。どうしてもそれに出たいとリゼルに前々からお願いされていた。誕生日プレゼントはいらないから、社交界に出させてくれと。
「俺ももう子供じゃないんだ。癇癪も起こさないし、周りとケンカだってしない。嫌なことを言ってくるやつがいても我慢できるさ」
「でも、リゼルと同年代の子はまだいないかもしれないわよ」
「アルフレッドがいるじゃないか。あいつは俺より3ヶ月も前に13になっているんだから」
サイラスともあれからすっかり疎遠になっている。しかし親戚付き合いを完全に断つわけにはいかない。お互い形式上、毎年誕生日カードを贈り合っていた。
いつも定型文のような挨拶しか書かれていなかったが、今年は「これでリゼルも13歳だ。社交界で会えるのを楽しみにしているよ」とアルフレッドの言葉が添えられていた。
「あいつは誕生日のその日にプレデビューしたと書いてあったぞ。社交界デビューは貴族の通過儀礼だ。将来は俺が伯爵になるんだから、他の貴族に顔見世をしておく必要があるだろ」
「それはそうなのだけど……」
「どうして俺を社交界に出したがらないんだ」
怒っているのかと思ったが、リゼルの目を見ると悲し気に眉を下げている。
「俺は母上に信用されていないのか? 俺がまだ分別のないバカな子供だから」
「そんなことはないわ!」
思わず否定してしまった。本当にリゼルは賢い良い子になった。それは私が1番よくわかっている。
でも、原作ではリゼルが正真正銘の悪役令息になったのはこのプレデビューがスタートだ。そこでヒロインであるステラ・デ・ウィンスロップに一目惚れする。
嫌がる彼女に執着し、16歳になった頃には誘拐事件を起こす。そこへアルフレッドが助けにやってきて2人は結ばれ、リゼルはステラの誘拐監禁、並びにそれまで行ってきた悪逆非道が表に出て処刑される。
今のリゼルは何も悪いことをしていないので、もし原作通りになったとしても誘拐監禁だけだ。処刑は免れるかもしれない。しかし、だとしても貴族の令嬢を誘拐監禁した罪は重い。リゼルを悪役令息として断罪させるわけにはいかないのだ。
「いいだろう、母上?」
今のリゼルは原作のリゼルと違う。悪役令息へのフラグはもうへし折られているはずだ。
でも、もうひとつ懸念材料がある。
「お母様と一緒になら出席してもいいわ」
「母上と!? 社交界デビューに母親同伴なんて聞いたことがない! 親離れできていないと笑われるじゃないか!」
この世界では社交界デビュー時には父親が同伴して皆に挨拶するのが通例だ。しかし、うちには父親がいない。その場合は、一番近しい親族の男性が同伴することになっている。つまり、サイラスだ。
「叔父上に頼んでみてよ」
「……お母様は、叔父様とあまり仲が良くないのよ。だからリゼルのことも」
「俺が叔父上に嫌われていることくらい、昔からよーく知ってる。でもパーティーにはアルフレッドだっているんだ。叔父上だって悪いようにはしないさ」
確かに目に見えて悪いようにはしないかもしれない。ただ、良いようにもしないだろう。
しかし、いつまでもリゼルを屋敷に閉じ込めて貴族社会から隔離し続けるわけにもいかないことはわかっている。遅かれ早かれ出て行かなければならない。
私は息を吐き出して、期待に満ちたリゼルの顔を見つめた。
「わかったわ。叔父様に聞いてみましょう」
「やったー!」
はしゃぎまわるリゼルは、それこそ8歳の子供の頃と変わらないように見える。でももう13歳、少しは社会に出て親離れ子離れをしていく時期なのだ。
でも、やはりサイラスが断わってくれればいいのに……と心の片隅で願ってしまった。
後日、サイラスから「ぜひ我が甥を皆に紹介しよう」と返事が届いた。リゼルは喜び跳びまわったが、私は何も起きないことを神に祈るしかなかった。
だが、当日サイラスは完全にリゼルに気を取られているだろう。これは絶好のチャンスなのかもしれない。
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