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勇者開始

混血の姉妹

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 宴の翌日。

 既に村長との話し合いは終わっているようで氷室の作成に取り掛かる。



 サクラの指示のもと、レイアが土魔法で穴を、俺が倒した木材で小屋を建て、そして、最後に氷魔法が唱えられた。



 あっという間に簡易の氷室が出来上がったため、食料を運び入れると村長が村を代表して感謝の言葉を伝えてくる。



「勇者様、本当に何から何までありがとうございます」



「いいさ。そんな手間じゃなかったしな」



「しかし、勇者様はもちろん、お仲間の方も強大さが分かりますな。

 私も一時期学生として王都におりましたが、ここまで洗練され、そして強力な魔法を扱える魔法使いを私は見たことがありません」



「そうなのか?」



「ええ。して、勇者様はこれからどちらに?」



「もともと王都に向かう予定だったからな。そこへ向かうよ」





 村長は少し思い出すような表情を浮かべると、



「そうですか。どうやら最近盗賊による被害が増えているようです。

 噂では、魔王軍との戦いで滅んだ国の兵隊崩れのようで、魔王との戦線に兵の多くが取られている現状では、領主も迂闊に手を出せないとか。」



「勇者様達は、一見見た目目麗しい女性ばかりの襲いやすい一団にも見えます。

 この国では、勇者様の強さは知れ渡っておりますので、馬車に書かれた紋章を見て襲うような馬鹿者はいないでしょうが、他国出身で知らずに襲いかかるような輩がいるやもしれません。

 無駄な気遣いかとは思いますが、どうか道中お気を付けください。」



 そう言って心配してくれた。





「情報ありがとう。気を付けるよ」



 しかし、兵隊崩れの盗賊か。領主も迂闊に手を出せないとなるとそれこそ普通の集落では蹂躙されるがままだろう。

 見かけたらにはなるが、片付けられるようならやってみるか。





 村人総出で送り出されながら王都へと足を進める。まあ俺とアインだけ馬車の中だが。

 ちなみに、アインというのは銀狼の子の名前だ。



 名前をまだつけていないと知った子供たちは我先にと名前をつけたがり、様々な案が出るも最終的には有名な童話に出てくるらしい英雄の名がつけられた。



 そして、英雄の名と聞いたこいつもまんざらではないのかその名前以外では反応しなくなったので俺も諦めてその名前で呼ぶようになった。



 しかし、こいつ心なしか体がでかくなっているような……。いや、食い過ぎで体が膨らんでるだけか?一日でそう育つとは思えんし。



 何故か馬車が止まり、ノックの音が響いた。



「勇者様。どうやら橋が落ちており、迂回するしかないようです。地図を見るとこの近くに林道がございますのでそちらを使わせて頂きます。

これまでの違い、均されていない道なので多少揺れるかとは思いますがお許しください」



「いや、気にしないでくれ。ぜんぜん大丈夫だから」



 移動を再開し、しばらくすると馬車が森の中に入っていく。ふと遠くの空を見ると分厚い雲がかかっており、一雨きそうな雰囲気だ。



 案の定、それから少しして雨が強く降ってきた。地面がぬかるんできたようで目に見えて馬車の移動速度が落ちる。





 するとアインが唐突に唸り、同時に聖剣も顕現。敵性反応があることを伝えてくる。

 雨避けのための外蓑を掴んで羽織ると馬車を飛び出した。



 そして、気配を探る。雨音に紛れて騎馬の集団が近づいてくるのが分かった。



 仲間の3人に声をかけようとするが、彼女たちも気づいているようで既に臨戦態勢を整えている。



 敵の一団が弓矢を放つ。それらを全て叩き落すと馬車の護衛をレイアに任せ、俺とアインが駆けだした。



 弓矢が叩き落されたことに驚愕する敵。すれ違いざま、俺は敵を一人残して切り捨てた。

 そして、逃げようとする相手の馬にアインが喰らいつき、落馬した相手に剣と突きつけ捕虜とする。





 最初、相手はこちらを無言で睨みつけていたが、俺が相手の剣を手に取り、素手でへし折るのを見せると命乞いと共にいろいろとしゃべりだした。



 どうやら村長に言っていた盗賊のようだ。話を聞くと近くの村を襲ってはさんざん殺し奪い尽くしてきたらしい。

 怒りを感じつつもさらに聞き出すと近くに隠れ家があるとのこと。案内させると周囲に溶け込むように巧妙に隠された隠れ家を見つけた。





 捕虜を殴って気絶させ、一人で隠れ家に突入するので皆に馬車の周囲にいるよう伝える。

 すると、サクラは万が一もあるので回復役としてついていくと言ってこちらをじっと見つめてきた。その瞳は強い意志を宿しているようで説得は難しそうだ。



 それでも難色を示す俺に対して、勇者やレイアには及ばないがそこら辺の相手に後れを取ることは無いと手慣れた動きで刀を振って見せたため渋々それを認めた。















 隠れ家に近づくと入口らしき場所に見張りが二人立っているのが見えたため、瞬時に近づき一刀で二つの首を刎ねた。



 現代日本人として殺しに抵抗があるかと思ったが全くそういう感覚は無い。



 魔物に転生したからなのか、元から俺という人間がそうだったのか、理由はわからない。しかし、それでも今は弱者をいたぶってきたこいつらに怒りを感じるのみで、躊躇は微塵も感じない。







 中に入るとそこには通路が広がっていた。



 感覚を研ぎ澄ますと見えない敵の位置も手に取るようにわかるので、気配を消しながら歩き、盗賊達に声を上げさせないよう一太刀で片付けながら進んでいく。



 その途中、微かに叫び声が聞こえた。サクラを見ると頷いてくれたためそちらへ向かう。



 奥にたくさんの気配を感じる。そして、近づくにつれて嫌がるような女性の叫び声がはっきりと聞こえてくる。



 岩で出来た床に足跡が付くほどの力を込めて駆けだす。

視界の先に裸になった男達に組み伏せられ、服を脱がされている少女が見えた。



 少女が抵抗するのもむなしく、男たちはその顔に下卑た笑み浮かべながら下半身を近づけていく。



 怒りが更にこみ上げ。少女を掴む大柄な男を蹴り飛ばすと背に庇うように立った。

 そして、一閃。



 突然目の前の人間が吹き飛ばされ、ポカンとした表情のまま男達の首が体から離れる。

 彼らは、自分の死を理解する間もなくその命を刈り取られた。







「大丈夫か?」



 頭に獣の耳がついている。サクラと同じように獣人のようだ。



 少女は、ポカンとした表情でしばらくこちらを見上げていたが、理解が追い付くと、自分の体を掻き抱くように隠しながら怯えた表情で距離を取った。





 まあ怯えられても仕方がないよな。と考えているとサクラが追い付いてきたようだ。



「勇者様。遅れて申し訳ありません。しかし、これは…………」





 サクラの目が少女に向き、破られた服や首を切り離された裸の男達を見て一瞬険しい顔つきになる。



 しかし、いつも浮かべている穏やかな笑みを浮かべると後ずさりながら距離を取ろうとする少女に近づき自分の外蓑を少女に羽織らせた。





 近づいてきたのが女性であること、そしてその行動と穏やかな表情に少女の警戒感が薄れていく。

 そして、意を決したようにこちらを見ると、こちらに話しかけてきた。



「まだ、妹が捕まっているんです。私は何でもします。どうか、妹を助けてください。」



「そうなのか。場所は……わからないよな。サクラ、この子を頼んでもいいか」



「かしこまりました。本来は2人で行動すべきですが、この状況では仕方がありませんね」



「ありがとう。すぐ戻るよ」





 その言葉を放つと、俺は再び駆け出す。そして、壁を飛び跳ねるようにして風のようにな速さで移動していく。















 すれ違いざまに盗賊を切り捨てていき、最奥に頭目らしき男を見つけた。

 部下を呼ぶが誰も来ない。



 腰に差した剣を掴んで放り投げ、丸腰になったそいつの首を掴んで持ち上げた。



「ここに少女が二人囚われているはずだ。一人はここに来る途中で見つけたが、もう一人が見当たらない。どこにいる?」



 男の顔は振りほどこうと暴れるが、力は少しも緩まず、むしろだんだんと強くなっていく。

 だんだん青くなる顔。しばらくして、かすれた声で男が叫んだ。



「言う。言うから手を放してくれ。」



 手を離すと男は失った空気を取り戻すかのように荒い呼吸を繰り返していたが、こちらが再び力を込めたのを見るとすぐに案内を始めた。





 床の一部が持ち上がる。そして、下に降りるための階段が現れた。



 先を進ませ、しばらくすると先ほどの少女と似た顔をした小さい女の子が柵の中に囚われているのが見えてきた。

 安堵のため息をつく。



 すると男が懐に隠したナイフ片手に突っ込んできたので胸に聖剣を突き刺し絶命させる。



 鍵の場所が聞けなくなってしまったので、柵を掴むと強引に力でへし曲げた。





 女の子はこちらを見ると、隅っこに立って最大限距離を取りつつ、石の破片のようなものをこちらに向けて威嚇してきた。

 やはり顔はそっくりだ。姉と違い、耳が獣の形をしていないのは気になるが。





「お姉さんに言われて助けに来たんだ。武器を持ったままでいいからついてきてくれないか?」



「お姉ちゃんに?…………わかった。でもあなたが前を歩いて」



「ああ。それでいい」





 男の落としたナイフを拾うと、女の子はこちらの背中に向けてそれを構えながらついてくる。















「お姉ちゃん!!」



「アオイ!!!よかった無事で」





 二人は抱き合うとお互いの身を案じあう。家族と再会できたことで少し余裕がうまれたのだろう。

姉の方がこちらを見て話しかけてきた。



「妹を助けて頂いてありがとうございました。私の名はカエデ、この子は妹のアオイです。お約束通り私にできることならば何でもします」



「お姉ちゃん!?」



 キッと妹の方が俺を睨みつけてくる。



 待て待て、俺はエロ代官プレイをする気は全くないから。冤罪だから勘弁してくれ。





「いや、お礼はいらない。俺が勝手にやったことだ」



「でも……」



「実は俺。勇者なんだ。だから、賊つぶしも人助けもどっちも仕事みたいなもんさ」



「勇者様、ですか。……それなら、お言葉に甘えます。ありがとうございました」



 言葉通り、何でもする覚悟を決めていたのだろう。

 そう答えると獣人の少女、カエデから少し体の力が抜けたようだった。



 しかし、やはり姉には獣耳があるのに妹には無い。

 思ったよりしっかりと見てしまっていたのだろう。視線の向けられた場所に気づくと、理解の色を浮かべてカエデが口を開く。



「私たちはヒューマンと獣人のハーフなんです。血は繋がっていますが、私は獣人、妹はヒューマンの特徴がそれぞれ強く現れたのだと思います」



「じろじろと見てしまってすまない。ただ気になってしまっただけで、他意はないんだ。すまない」



「いえ。気にしないでください」



「とりあえず、賊の気配はもうないみたいだしここを出よう」



 そう言って俺が前に、サクラが後ろに立ち、姉妹を守るようにして移動を始めた。

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