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王都への帰還

幕間 ―巫女の手記―

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 獣人の巫女、サクラは暗闇の中ロウソクの火だけを灯しながら自分の作成した報告書を読み返していた。

 そして、最後の部分に目を通す。

 『……以上が今回の旅の経過である。今回も叛意の兆候は無し。引き続き調査を行う。』





 嘘ではない。だが、勇者の行動の変化については正直自分でも判断に迷っており、詳細に記載を行っていないのも事実だ。







 貧しい村を救い、報酬を要求しない。



 いや、それどころか自分のものを分け与えたうえ、氷室を作るために自ら動く。

 それに、村の子供が無礼な態度をとってもまるで怒った様子もなかった。









 加えて、あの混血の姉妹への対応だ。



 当然、これまでにも賊を討伐することはあった。 

 だが、そこに女性の捕虜がいればその恩を押し付けつつ、欲情に駆られた視線で口にするのも憚られるような要求を伝えることがほとんどだった。



 ましてや、あの姉妹は混血児である。

 これまでどのように生活を送ってきたかは知らないが、少なくとも獣人の性質が現れている姉の方は、獣人と同じとみなされるため、その社会的地位はかなり低い。

 それをあの勇者も知っているはず。



 しかし、盗賊の住処ではその待遇に怒りを抱き突撃、救った後は優しい眼差しを向けつつ、自分は馬車に乗らずに走る等、明らかに気遣うような態度で紳士的に接していた。



 



 その損なほどのお人好しさはまるで生前の父を思い出させるようで……いや、やめよう。

 頭を振り気持ちを切り替える。







 いつもの気まぐれだと思っていた。けれど、気まぐれではすまされないほどにその行動の在り方が変わってきている。

 そして、それはあの騎士の行動にも影響を与えつつある。







 少なくともその真意を探る必要がある。

 これからは、王都の中でも関わりを持ちつつ、その行動を観察することになるだろう。







 それに、あの姉妹は故郷が無くなった後、身一つで逃げてきた私たちの姿に重なる。

 幸せな生活を保障することは到底できない、だが勇者の行動を探る中で助けられることがあるのならば、可能な範囲で手を貸してあげよう。





 ロウソクを吹き消す。自分も家族に会うため部屋を出た。
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