転生先がドッペルゲンガーだった俺。引継ぎないのに勇者の仕事なんて務まりませんよ!?

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勝利をその手に

勇者の証

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 目覚めてから十日後、敵の散発的な抵抗はありつつも大規模な戦闘は無いまま敵の本拠地を目前にして布陣した。
 
 味方は続々と集結しつつあり、魔王の住まう城は強大ではあるが、数的優位がこちらにあるのは城壁の敵兵の数からも容易に想像できた。

 事前にこちらへ到着した伝令に寄れば、フェアリスが操作する船は味方を護衛しながら敵を空中から一方的に蹂躙していたようで逃げ遅れた敵の主力は追撃戦でそのほとんどが打ち取られたらしい。

 将軍は戦いは勢いで決まる。このままの勢いで敵の本拠地を落とせれば終戦であろうと言っていた。
 仲間の三人が船に乗ってこちらに近づいてくる光景を見つつ、激戦が目前に迫っていることを俺は肌で感じていた。

 
 船が着地すると三人が降りてくる。味方が歓声を上げてそれを出迎える。
 三人はあまりの熱量に苦笑しながらそれに応えていた。俺も出迎えなくちゃいけないなと思い、そちらに近づいた。 


「三人ともお疲れさま。すまないな、寝込んでしまってて」

「あら。寝坊助がようやく起きてきたのね。全部終わっちゃうかと思ったわ」

 フェアリスが、こちらを揶揄うような表情と声色でそう言う。

「すまんな。これからの活躍で取り返すよ」

「この借りは高くついてるからそのつもりできっちり返しなさいよ」



「もうお加減はよろしいのですか?」

 少し心配げな顔をしてサクラが問いかける。

「ああ。大丈夫だ。体は絶好調だ。心配をかけたな」

「そうですか。それはよろしかったです。あまり無茶をし過ぎないようにしてくださいね」



「もういいのか?」

 無表情ながらもこちらを気遣うような目でレイアが尋ねる。

「ああ。問題ない」

「そうか。それならばいい」



 三者三様に心配してくれる。この三人を守るためにも魔王は倒す。そう心に誓った。
 出迎えの集団の一部が割れる。どうやら将軍が近づいてきたようだ。
 頭一つ大きいその体躯が目立っている。

「皆さまお疲れさまでした。早速で悪いのですが、諸国の代表と軍議を開きたいと思っております。一度こちらへついてきて頂いてもよろしいでしょうか?」

 全員頷き、将軍の後をついていく。かなりの護衛に守られた天幕に入る。
 中には立派な鎧を身に纏った男が三人ほどおり、彼らが王国以外の軍を率いる代表のようだった。

「こちらが、帝国、共和国、連邦の軍を統括する方々です。勇者パーティ―の皆さまはお疲れと思いますので自己紹介等飛ばし、我々で既にまとめている作戦案をかいつまんでお話しします」

 将軍が敵の城と思わしき手書きの見取り図を出す。

「内部は流石にわかりませんので、外部から見て取れる部分をこちらに書き記しました。敵の城壁は堅固ですが、兵数ではこちらが大きく勝ります。ゆえに最初に勇者パーティの皆さま方に空中から攻撃、敵の抵抗力を減らしたところで破城槌により門を攻撃します」

「これまで、我々は港湾都市アクアラインを始め堅固な要塞の数々がクラウダ率いる飛行部隊により落とされてきました。その有用性は語るまでも無いでしょう。
 そして、勇者様の船はそれを凌駕する防御力を兼ね備え、まさに空飛ぶ城ほどのものです。城門の破壊は十分可能でしょう」

「ただ、一つの懸念は残りの四天王と魔王が城の内部で固まっていることです。これらの早期発見、討伐は最重要課題となります。よって、城門突破後は勇者様方には露払いの兵と共に本丸に侵攻及びそれらの対応をして頂きたいと思っております。
以上が作戦の概要ですが何かご質問はございますか?」


 そこまで言うと将軍はこちらを向き、尋ねる。

「そうだな。俺が大規模魔法を門に向けて連続で放てば破城槌じゃなくても敗れるんじゃないか?」

「はい。可能かと思われます。ですが、四天王及び魔王は強者です。できる限り万全の状態を維持する目的から、勇者様達の消耗をできる限り少なくしたいと考えております」

「わかった。素人がでしゃばって悪い。全部将軍に任せるよいつ決行だ?」

「いえ、こちらこそ頼るばかりで申し訳ありません。
 今回の作戦では夜戦に優位性はありませんので、明日朝日が出てからの決行を考えております。短い時間しかありませんが、それまでは英気を養って頂ければ幸いです」

「わかった。みんなはそれでいいか?」

 全員無言で頷く。さすがにみんなも疲れはあるだろう。だが、この戦の重要性を理解していないものなどいない。何事もなく軍議は終了した。

 
 天幕を出ると少しだけ時間を取って欲しいと三人に言われたのでついていく。あまり人の多いところでは話したくないようで、陣地から少し離れたところへ歩いていく。
 どうやら、全員でというわけではなく、一人ずつ時間を設けて欲しいようだった。




 最初はレイアかららしい。他の二人から離れると口を開いた。

「私は、貴族ではあるが平民の母を親に持つ。それも愛ゆえの子ではないようでな。周りの貴族はもちろん、父にすらも好意的に接せられた記憶が無い。
 だからだろうか、私はこれまで自分というものが無かった。ただ、言われた通りにやることが全てで、私の剣には意志というものがまるで宿っていなかった」

 彼女はいつものように無表情でそういう。いつも通り、その顔には悲しさという感情は宿らない。ただ淡々と事実を言っているように聞こえた。
 しかし、少しの沈黙の後、その声色に少し温かみがあるような声で語り出した。普段接している人でないと気づかないほどの僅かな変化だった。


「だが、貴方が来てからは、いや、貴方が別人のようになってからはそれは変わったのだ」

「貴方を知ろうと屋敷に招いた。私と違って、笑顔の人々に囲まれる理由を知りたいと思って。
 そして、私の周りにもいろいろな人との繋がりが、笑顔が増えていった。
 笑顔の理由を私も知れたのだ。だからこそ、私は今、自分の意志で剣を振っている」

 彼女は剣を高く上げた後、こちらに柄を向けるような動作をして再び剣を鞘に納めた。

「貴方には感謝している。それだけ言いたかったんだ」

「それに、本当に貴方が別人だったとしてもかまわない。勇者は象徴、その行動がそれを表す。
 私にとっての勇者は貴方しかいないのだから」

 彼女はそう言うとそれまでの無表情が嘘のように柔らかい表情をした。
 それはまるで、雪の下から新芽が顔を出すようで、とても綺麗なものだと思った。





 彼女が去っていく。続いてサクラがこちらにやってきた。





「私は、父を戦で失いました。そして、母と妹を一人で守って逃げ延びてきたんです。
 でもそれは、とても大変な旅路で、人間の悪い面を嫌なほどに見せられてきました。
 なので、これまで私は家族だけを守っていくことだけを考え、笑顔を貼り付け、誰も信じず、騙してきました」

 彼女はいつもの優し気な笑みのままそう言う。表情とは裏腹に、その顔は悲しそうな顔に俺には見えた。

「でも、貴方が来てからは、いえ、貴方が別人のようになってからはそれは変わったんです」

「貴方をずっと観察してきました。何か怪しい行動を見せればその命さえも奪うつもりでした。
 でも、貴方はどこまでいっても愚かしいほどにお人よしで、何かを守るために傷つくような人だったんです」

 笑みが少し深まる。先ほどまでの悲しさは既に感じられない。本当の笑顔のようで、俺も少しうれしくなる。

「これまで誰かを利用することだけを考えてきました。でも、貴方は放っておけない人のようです。力になってあげたいと今はそう思っています。そのために少し無茶をすることも増えてきました。誰かに弱みを握られることにも繋がるでしょう。
 でもいいんです。その分貴方が絶対に私達を守ってくれるのは知っていますから」

「恐らく、貴方は前の勇者様と別人なのだろうとは気づいています。でも、それでもかまわないんです。勇者は象徴、その行動がそれを表す。
 私にとっての勇者様は貴方しかいないのですから」

 彼女はそう言うと、ひと際優しい笑顔でほほ笑んだ。
 それはまるで、母親が子供を包み込むような笑顔で、とても優しさに溢れたものだと思った。




 彼女が去っていく。最後にフェアリスがこちらにやってきた。





「私はね、エルフを統べるハイエルフとして生を受けた。産まれた時から特別で、父以外に対等な存在はいなかった。
 知ってる?ハイエルフは、ある日森から産まれてくるらしいの。本当の意味での森の子供、交配で生まれるエルフとは厳密には同族ではないの。保護者としての意味合いから伝統的に父や母と呼ばれるらしいけど父は人間的には兄とも呼べるのかもしれないわね。
 元々周りと違った。畏怖され、崇められることはあっても対等な存在などいなかった。それは、父が死んでからは、長としての立場も加わったから尚更そうだったわ」

 彼女は最初に会った時のように鋭い、抜身の剣のような雰囲気を漂わせてそう言う。

「でも、あんたが来てからは、いえ、あんたが別人のようになってからはそれは変わった」

「あんたに負けたあの日、初めて悔しいと思ったの。そして、成立することすらなかった言い合う関係も初めて知った。
 そして、クラウダと戦った時、初めて誰かと協力して戦った。あんたには理解できないかもしれないけど、どちらが欠けても勝てなかったことがわかるからこそ、私の中ではそれは大きな意味を持ってたの。
 それに、私がこだわってた長の重責というものを笑い飛ばさせてくれたわ。
 私は認めてるのよ、あんたは私と対等な力を持つだけじゃない。寄りかからせてくれる強い奴なんだって」

 彼女がこちらを強い意志で見つめる。その目には確かに俺が映っているのが見えた。

「これまで、一人でやってくことだけを考えていたわ。でも、あんたを頼っても、誰かを頼ってもいいんだってわかった。誰かを助け、誰かに助けられる。共に歩くってことを私は知れたの」

「それに、一つだけ言っておくわ。もしあんたが実は別人だったとしてもかまわない。長に拘っていた私が言うことじゃないかもしれないけど、勇者は象徴、その行動がそれを表すんでしょ?
 人間たちの勇者なんてものは知らないわ。私にとってはあんたが勇者なのよ。
 だから……その……まあ、これからもよろしく頼むわ」

 彼女はそう言うと、少し恥ずかし気な表情で顔を逸らした。
 それはまるで、初めてできた友達を前にした子供のようで、とても微笑ましいものに感じられた。




 全員がそれぞれ言いたいことを終え陣地に帰っていく。

 俺は満点の星空を見上げて一人佇む。


 皆に本物の勇者ではないと言った記憶は無い。正直、突然彼女たちの口から別人であることに言及されたことに強い衝撃を受けている。

 
 だが、そんなことはどうでもよくなってしまった。それでもいいと彼女たちは続けて言ってくれたから。

 大事なものの多さを噛みしめながら。俺は誓った。この戦いが終わったら全てを話そう、それがどんな結末を迎えようとも自分の口で必ず。



 前世では親も彼女もいなかった。でも、今は違う。何も無かった俺には両手で抱えきれないほどたくさんの大事なものができた気がするから。自己保身でその気持ちを裏切るようなやつにはなりたくない。


≪偽物と本物、どちらがそうなのかはわからない≫
≪それでも多くの人が本物だと信じれば、それは既に本物だと言えるのではないのだろうか≫
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