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一章 -出会い-
幕間:地味な男と華やかな少女【改】
しおりを挟む「ただいま」
いつもよりも遅い時間に帰宅すると、電気の付いているリビングの方に向けて声を出す。
(しかし、今日の蓮見さんは、なんか様子が変だったな)
昼以降、それほど話したいことがあったのかやたらと口数が多かったような気がする。
それにまさか、放課後まで話しかけられるとは思わなかった。
一ヶ月程度の付き合いとはいえ、今まではそんなこと一度も無かったのに。
そして、そんなことを考えながらリビングに入ると、何故かそこには親父が胡坐をかいて座っており、不思議に思う。
「あれ?親父?」
「おう誠。遅かったな、話があるからそこに座れ」
多少遅かったとはいえ、それでもまだ夕方。
さすがに、帰ってくるには早すぎる時間だ。
「なんだよ、急に。母さんは買い物か?」
「そうだ。それこそ、母さんが帰ってくるまでがタイムリミットなんだ」
明らかに怪しさ満点の口ぶりは、恐らくまた下らないことでも考えているのだろう。
これは、巻き込まれないように注意しなくてはいけない。
さすがに、とばっちりで怒られるのは御免だ。
「…………なんだよ?」
「お前、バイクを夏休みまでに取りたいだろ?だから、ほら、車校の入校書類。金も振り込んでおくから後でちゃんと返せよ?」
差し出された書類を見ると、確かにそれは言った通りの書類だった。
しかも、記入欄も全て埋まっているという親切ぶりだ。
思ったよりは普通のことに少し肩透かしをくらうものの、やはり不思議に思う気持ちはある。
それに、夏休みまでとは特に伝えていなかった気がするのだが。
「なんで?別に夏休みにバイトして金貯めるからそれでいいぞ?」
「いいや、ダメだ!絶対、ダメ!!」
「……はぁ。なんでだよ?」
免許を取るのは俺なのに、何故か親父が被せるように拒否してくる。
その姿は、頑固おやじというよりも、まるで子どもの駄々っこのようで俺は呆れながら続きを促した。
「俺が、夏のツーリングシーズンまでに新しいバイクが欲しいからだ」
「は?それとこれにどんな関係があるんだ?」
「お前にバイクあげたことを口実に母さんを説得する。良い作戦だろ?名付けて、『良い親父作戦』だ」
「……まさかとは思うが。この話するために早く帰って来たのか?」
新しいバイクを強請りまくっていた親父の意見が全てバッサリ切り捨てられたのは知ってる。
しかし、母さんが少し夕食が遅くなると言っていたとはいえ、こんなくだらないことを話すために早く帰ってきたのだろうか。
「当たり前だろう。母さんは専業主婦だからこの時間しかお前と二人で話せないし。それに、丁度ボーナスの支給日だったからダッシュで金下ろして来た」
そう言って向けられる満面の笑みに俺は何と反応すればいいのだろうか。
あまりに軽いノリに一瞬対応を悩んでしまう。
(相変わらず、アホだ。この人)
そして、ジト目で俺が睨んでいることに気づいたのだろう。
親父は急に後ろに回ると、肩をもみながらお願いをし始めた。
「頼むよー、誠。一生のお願いだ。それに、そろそろテスト週間だろ?それ口実にして夜通えるしさー。一ヶ月もあれば余裕で取れるから」
「テストよりバイクを取れと?親のセリフとしてどうなんだそれは」
「バカ野郎!どっちもやるんだよ。じゃなきゃ母さんに逆に怒られるだろうが」
当然だろとでもいうような声。
(いや、バカはどっちだよ)
呆れて何も言い返すことができなくなりただただ、ため息だけを漏らすことしかできない。
しかし、逆に考えればこちらにもメリットがあることなのでそれはそれでいいのかもしれない。
どうせ、最後に得られる結果としては変わらないのだし。
「まあ、俺も欲しいっちゃ欲しいからいいけどさ」
「おお!!やってくれるか」
「とりあえず、明日書類出しに行ってくるよ」
「ああ、それがいい。ほら、このバス停に迎えに来てくれるらしいぞ?学校のすぐそばだから丁度いいだろ」
「あー、はいはい」
本当に、趣味のことになると段取りのいい人だ。
それに、即断即決、失敗したらその時考えるというのは個人的に好きな考えでもある。
(きっちり家族のイベントは、押さえてくれてるしな)
テキトーなだけではない、その性格のおかげで家族がまとまっているという部分もある。
きっと、今回のことも最終的には母さんが折れる形になるのだろう。
「よし、母さんが帰ってくる前に話がまとまってよかった。じゃあ、頑張れよ。俺も新しいバイク探し始めるから」
そして、鼻歌を歌いながら親父がリビングを出て行くと、それと入れ変わるようにして妹の早希が帰ってきたらしい。
こいつも部活に入っていないから、きっとまたどこか寄り道でもしてきたのだろう。
「おかえり」
「ただいまー。お父さんなんかいいことあったの?めちゃくちゃ笑顔だったけど」
「いつもの病気だ」
「なるほどねー。ほんと自由だよね、あの人」
自由さで言えばお前もあんまり変わらないんじゃと言おうか悩み、やめる。
さっきのやり取りの後だ。さすがに、これ以上疲れることはしたくない。
「……そういえば、また徹夜したのか?隈ができてるぞ?」
「うわー、お兄ちゃん。この完璧なメイクでも気づくとか私のこと好きすぎでしょ」
「はぁ。お前が加減知らな過ぎてよくぶっ倒れるからだろうが。毎回心配する俺と母さんの身にもなってくれよ」
「あははっ。家でしか倒れないから大丈夫だよ~。それに、もうちょっとだからさ」
「お前なぁ……………………もういい。でも、ほどほどにしとけよ?」
「はいはい。また、完成したら見せてあげるからね」
ニシシっとでも言うような顔で笑うとコーヒーを一気飲みして早希が飛び出して行く。
しかし、ドタバタと階段の鳴る音は、何度注意されれば分かってくれるのだろうか。
(まぁ、アイツはアイツで、自分なりに考えているみたいだしな)
ギャルみたいな見た目はどうかと思うが、何事も全力投球で、特に漫画への情熱は本物だ。
文章力は幼稚園児レベルではあるものの、その画力だけはその努力の甲斐もあってかなりの高いレベルにあるだろう。
(いや。努力というか、好きなことしてるだけか)
要は、しっかり者の母さん以外はなんだかんだ似た者同士なのだ。
自分のしたいことをする。
俺は大きく欠伸をすると、ゲームをしに自分の部屋に戻った。
◆◆◆◆◆
「ただいま」
誰もいない部屋に自分の声だけが響く。
物もほとんど無く、生活感のないような、そんな部屋に。
(…………明日も、話しかけてみようかな)
朝話せなかった分、つい放課後まで話し込んでしまった。
しかし、時間の制約のない自由な会話は、今までとはまた違ってとても楽しかった。
(とりあえず、お風呂入ってから考えよ)
鞄を置き、シャワーを浴びる。
作業にしか過ぎないそれは、時間を置けば置くほど億劫になってしまうこともあり、できるだけすぐに入るようにしている。
いや、他のことも同じだ。
それが必要だからしているだけ。ただ、それだけなのだ。
そして、お風呂を出ると、お腹さえ満たせればいいという気持ちで簡単なものを作っていく。
(味なんて、あんま変わらないもんね)
別にまずいわけでは無いし、世間一般からすれば美味しい部類に入るだろう。
でも、淡々と作った料理を一人で食べるだけのことに、心が揺れ動くなんてことは一切ない。
だって、毎日繰り返される光景、ただそれが今日も続いたということに過ぎないのだから。
(……………でも、今日は余計に美味しく感じないな)
きっと、それは今日が楽しかったからだろう。
いつもはつけないテレビを眺めてもみるが、ちっとも面白くも無い。
「………やりたいこと、か」
液晶の向こう側から聞こえてくる笑い声が、耳を通り抜けていく。
考えても、具体的なイメージを持たないそれは、いつか思いつく日が来るのだろうか。
『大事な人達を巻き込まないように、自分だけで重いものを抱えてこの先を歩き続ける』
頭に浮かんでくるそれは――私が大事にしてきたその生き方は、きっと彼の指すものではない。
なら、自分のしたいことがなんなのか、その答えがいまいちよく分からなかった。
「でも、もうすぐ席替えか」
辛い時間は長く感じ、楽しい時間は短く感じる。
時間は平等だなんて言うけれど、そんなの嘘っぱちだ。
「……できるなら、今のままがいい」
叶わないことが分かっている想い。
自分で呟いた独り言がやけに耳にはっきりと聞こえてくる。
「………………やっぱり、私のやりたいことなんて叶わないのかな」
そして、私は浮かんできた嫌な考えを振り払うかのように自分の好きな本を一冊本棚から出すと、その止まった世界の中に逃げ込んだ。
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