人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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二章 -席替え-

氷室 誠 二章②

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 席替えが始まり、それぞれがくじを引いていく。

 そして、蓮見さんの順番になると今まで騒いでいた男達が固唾をのんで見守り出す。

 ゆっくりと綺麗な姿勢で歩く彼女は、教卓の前で一度立ち止まると深呼吸する。

 白魚のような指が紙を一枚引き抜き、担任に渡すとその席の位置が黒板に刻まれた。

 
 どうやら、また彼女は窓際最後尾の席を引き当てたようだ。運命の神様とやらも彼女には贔屓しているらしい。


 だが、隣の席はまだ埋まっていない。続く男達が気合を入れてくじを引きに行く中、彼女は特に喜ぶでも無く感情を窺わせない顔で戻ってきた。


「よかったな。また最高の立地だ」


 席替えが始まる前していた、悲しそうな表情が頭から離れないこともあり話しかけた。
 これからは、離れた席で話す機会もほとんど無くなるだろうしな。


「そうかもしれないね。…………」

 
「悪い、最後聞こえなかった。なんだ?」


 最後の部分だけが聞こえず聞き返すと彼女は曖昧な笑顔を浮かべた。


「ごめんね。運がいいねって言ったんだ」


「ああ、なるほど。二回連続同じ席って確かに奇跡的なくじ運だよな」


 正直凄い確率だろう。宝くじでも買ったら一山当てれるんじゃないだろうか。


「ほら、氷室君の番だよ」


「ほんとだ。じゃあ、いってくるよ」


 どうやら、自分の番が来ていたらしい。席を立つと、くじを引きに前へと向かう。

 別に、目立つような人物でも無いので、友達だけがニヤニヤとこちらを見ているのが分かった。

 空いている席はほとんど最前列か最後列のみ。奴らは俺が最前列を引くことを期待しているのだろう。

 だが、残念だったな。俺は昔から大吉しか引いたことが無いのだ。








「残念だったね」
 
 
 肩を落として席に戻ると蓮見さんが声をかけてくる。

 
「ああ。今は、世界を滅ぼして欲しいと神に祈ってるよ」
  
 
 決まった席は一番前の中央列、教室の中で金を払ってでも移動したいような場所だった。


「そっか。じゃあ、私も祈るの手伝ってあげようかな」


「知ってるか?恵まれた奴からの憐れみは火種を生むんだぜ?」 


 机の中にあった輪ゴムをピストルのようにしつつ、揶揄ってくる彼女に向ける。

 座席ヒエラルキー的には頂点と最下層くらいの差があるのに何をとち狂ったことを言ってるのだろうか。


「ごめんごめん。でも、氷室君と話せなくなるのちょっと寂しいなって思って」


「まあ、俺も蓮見さんと話すの楽しかったからそれは思うよ。でも、別のクラスになるわけでもないんだし、一切話さなくなるわけでもないさ」


「そうなんだけどさ。だって氷室君って自分から話しかけてくるわけでもないでしょ?」


「それはそうだな。休憩時間もトイレ行く以外で席立つのめんどくさがるくらいだしな」


「でしょ?だから、ほとんど話す機会も無くなっちゃうよね」


 正直そうだろう。共通の友達は一切いないし、お互い本好きなのは知ってるが、別に貸し借りをするほどでも無い。

 彼女も本に関しては自分が好きなだけで特に薦めるタイプじゃないみたいだし。


「確かにそうかもな。まあ、機会があったらまたよろしく頼むよ」


 そんなことを話していると、全てのくじが引き終わったようだ。周りが移動を始め出した。


「……うん。また、いつかね」

 
 俺も移動を始め、一ヶ月間で随分と慣れつつあった彼女の席を離れる。

 そして、それとともに背後がにわかに騒がしくなっていく。

 どうやら、新しく彼女の周りの席になった人達から話しかけられているようだった。




◆◆◆◆◆




 テスト週間が始まり、いつも以上にだるい毎日が始まる。

 だが、教師の目の前ということもあってサボるわけにも行かず、真面目そうに見える顔で授業を受け続ける。

 

 授業を受け、友達と昼食を取り、眠くなった頭で再び授業を受ける。

 そして、放課後は車校に通ってバイクの講習をこなしていく。

 
 帰ると親父からのバイク談議を聞かされ、妹のわがままに付きあいつつ、特にだらしない親父や妹にに母さんの小言が降り注ぐ。

 
 新しい毎日が始まる中で、以前の習慣は確実に薄れていく。



 最初は、時たま蓮見さんに話しに行こうと思ったこともあるが、だいたいは隣の席の明るい女子、桐谷 千佳だったか?達と会話をしているので断念した。


 まあ、元々立ち位置の異なる二人だ。席が隣という条件が無ければこうなることは分かっていたことだ。
 
 彼女との話すことが楽しかったこともあって、珍しく寂しさを感じてはいるが仕方が無い。

 こちらが目線を向けた時に目が合うのも今だけだろうしな。

 
 俺はそう思って彼女へ向けていた意識を徐々に薄れさせていった。
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