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二章 -席替え-
蓮見 透 二章①
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温かく、優しい光が離れていく。でも、私の手足は何かに繋がれているようで動かせない。
体をがむしゃらに動かす中で確実にそれは遠ざかり、悲しさに涙がこぼれる。
「嫌だ!」
空虚な部屋に響く自分の声が聞こえ覚醒する。
嫌な汗が全身を濡らし、気持ちが悪い。どうやら、昨日は本を読んだまま寝入ってしまったようだ。
とりあえず、凝り固まった体をほぐしつつシャワーを浴びに浴室に向かう。
「変な夢だったな。早くシャワー浴びて切り替えよう」
久しぶりに見た夢は何故かはっきりと記憶に残っていて暗い感情を形作る。
だが、服を脱ぎ、お湯を出す寸前、鏡を見て気づいた。
「私、泣いてたんだ」
目元に手を添わせ涙の痕をなぞった後、全てを洗い流すように頭からお湯をかぶった。
◆◆◆◆◆
周囲の人が私に抱く好ましくない心の内に顔を顰めながら登校する。
だが、彼らには私が不機嫌だろうが関係ないのだろう。
特に、夏休みが近づいているということもあってか同年代の男の子達に話しかけられることが増えてきた。それこそ、私の通う時間に合わせてきている人すら現れ始める始末だ。
やはり、男の子は好きではない。外に現れるカッコよさだけ取り繕っても、結局中身が伴っていない。いつも、こちらの気分なんてお構いなしだ。
何も音の流れていないイヤホンを耳に付け、早歩きで神社へと向かう。
階段を登るだけで汗が滲む。だが、人の気持ちに晒されるよりははるかにましだった。
それに、境内は木々に囲まれていることもあってとても涼しい。
梅雨の憂鬱さを感じさせないほど楽しく過ぎた一ヶ月が過ぎ、本格的な夏が始まろうとしている。
希望を感じさせる晴れ渡った青空の下で私は一人本を読み始めた。
今出れば彼が登校する時間に合わせられるだろうという時間に神社を出発する。
学校に着くと、たくさんの人と挨拶を交わしつつ、不用意な好意や悪意を持たれないように気を張りながら席へと向かった。
いた。眠そうな地味な顔は安心感を感じさせる。でも、元々の顔の作りは悪くないんだからもう少し気にすればいいのにとも思う。
同時に、彼の魅力に気づく人が増えて欲しくないという勝手な想いを抱いてしまうけれど。
「おはよう、氷室君。昨日はごめんね、遅くまで話しちゃって」
楽しい時間の始まりに、自然と笑顔が漏れでる。それに、彼が同じような気持ちになってくれていることが尚更嬉しい。
「おはよう、蓮見さん。ぜんぜんいいよ。俺は暇人界でも屈指の実力者だからね」
何故かボディビルダーのようなポージングをしつつ彼がそう言う。
「そうなんだ。確かにあふれ出るオーラがただ者でない感じを醸し出してるわ」
無表情な上に全く隆起していない筋肉がシュールで笑えてくる。
「だろ?今のところ負け知らずさ」
「じゃあ、その座から引き下ろすためにまた話しかけちゃおうかな」
「それは勘弁してくれ。この地位を手放したくないんだ」
つい意地悪をしたくなっていうと彼は大体瞬く間に降伏のポーズを取る。
それこそ、そんな時だけ表情豊かになるのだからとてもズルい。
だが、そのことに笑っていると、彼氏ができたのか?という疑問を抱いた心の声が見えてきた。
何故かはわからないが、イライラとさせられてしまう。
「…………」
「どうした?」
「……なんでもない」
話せないし、話したくもないので、低い声でそう伝える。
「いや、何でもない顔じゃないだろ」
「なんでもないったら」
自分で思った以上に強い声が出てしまい、若干の自己嫌悪に陥る。
だが、放ってしまった声を戻すこともできないのでそっぽを向いて逃げる。
「なんか気に障ったなら悪かったって。ほら、この通りだ」
もしかしたら、気を悪くさせてしまったかもしれない。
嫌われてしまったのではという不安から彼の方を見られずにいると、優しい声がこちらにかけられる。そして、こちらの心を解すように歩み寄ってくれた。
「ふふっ。まあ、許してあげる」
「計画通り」
「いや、それ口に出して言っちゃダメなやつだから」
先ほどまでのイライラや不安は吹き飛び、いつものように穏やかな気持ちにしてくれる。相変わらず彼は優しい。
私に対する好感度稼ぎでは無い。純粋に相手を思いやり、それに寄り添う。
それは、友人との付き合い方もそうで、だからこそ信頼がおける。
朝の憂鬱な記憶を彼方に追いやるほどの心地よさを感じていると一限目のチャイムの音が聞こえてきた。
◆◆◆◆◆
一日の終わり、帰りのホームルームの時間。私にとって望まない声が聞こえてくる。
「お前ら―。今日はみんな大好き席替えだぞー。テスト週間前にやってくれたら頑張れるとか言ってたんだからちゃんと頑張れよ」
周囲の楽しそうな声と反比例して、気持ちは沈んでいく。それこそ、事前に予想していたのにも関わらず、その言葉は私の心を切り刻んだ。
自分の心が揺らめき、呆然とする中、隣から彼の声が聞こえてくる。
「いい席だったのに残念だな」
正直、その言葉に返せるような余裕は無かった。
「大丈夫か?」
だが、心配させてはいけないと思い平気なふりをしつつ何とか口を開く。
「……大丈夫。また、近くになれるといいね」
「あ、ああ。そうだな」
私の声は全く取り繕えていなかったのだろう。珍しく動揺する彼の顔が見えてた。
ダメだな、私。頑張らなきゃ。
全身の意識を顔に向け、彼にほとんど向けたことの無い作り笑いを浮かべる。
「本当に大丈夫。少しの間だったけどありがとう」
恐らく、このまま彼と話していると私は一切取り繕うことができなくなるだろう。
だから、それだけ言うと前の席に座る女の子達と話し始めた。
体をがむしゃらに動かす中で確実にそれは遠ざかり、悲しさに涙がこぼれる。
「嫌だ!」
空虚な部屋に響く自分の声が聞こえ覚醒する。
嫌な汗が全身を濡らし、気持ちが悪い。どうやら、昨日は本を読んだまま寝入ってしまったようだ。
とりあえず、凝り固まった体をほぐしつつシャワーを浴びに浴室に向かう。
「変な夢だったな。早くシャワー浴びて切り替えよう」
久しぶりに見た夢は何故かはっきりと記憶に残っていて暗い感情を形作る。
だが、服を脱ぎ、お湯を出す寸前、鏡を見て気づいた。
「私、泣いてたんだ」
目元に手を添わせ涙の痕をなぞった後、全てを洗い流すように頭からお湯をかぶった。
◆◆◆◆◆
周囲の人が私に抱く好ましくない心の内に顔を顰めながら登校する。
だが、彼らには私が不機嫌だろうが関係ないのだろう。
特に、夏休みが近づいているということもあってか同年代の男の子達に話しかけられることが増えてきた。それこそ、私の通う時間に合わせてきている人すら現れ始める始末だ。
やはり、男の子は好きではない。外に現れるカッコよさだけ取り繕っても、結局中身が伴っていない。いつも、こちらの気分なんてお構いなしだ。
何も音の流れていないイヤホンを耳に付け、早歩きで神社へと向かう。
階段を登るだけで汗が滲む。だが、人の気持ちに晒されるよりははるかにましだった。
それに、境内は木々に囲まれていることもあってとても涼しい。
梅雨の憂鬱さを感じさせないほど楽しく過ぎた一ヶ月が過ぎ、本格的な夏が始まろうとしている。
希望を感じさせる晴れ渡った青空の下で私は一人本を読み始めた。
今出れば彼が登校する時間に合わせられるだろうという時間に神社を出発する。
学校に着くと、たくさんの人と挨拶を交わしつつ、不用意な好意や悪意を持たれないように気を張りながら席へと向かった。
いた。眠そうな地味な顔は安心感を感じさせる。でも、元々の顔の作りは悪くないんだからもう少し気にすればいいのにとも思う。
同時に、彼の魅力に気づく人が増えて欲しくないという勝手な想いを抱いてしまうけれど。
「おはよう、氷室君。昨日はごめんね、遅くまで話しちゃって」
楽しい時間の始まりに、自然と笑顔が漏れでる。それに、彼が同じような気持ちになってくれていることが尚更嬉しい。
「おはよう、蓮見さん。ぜんぜんいいよ。俺は暇人界でも屈指の実力者だからね」
何故かボディビルダーのようなポージングをしつつ彼がそう言う。
「そうなんだ。確かにあふれ出るオーラがただ者でない感じを醸し出してるわ」
無表情な上に全く隆起していない筋肉がシュールで笑えてくる。
「だろ?今のところ負け知らずさ」
「じゃあ、その座から引き下ろすためにまた話しかけちゃおうかな」
「それは勘弁してくれ。この地位を手放したくないんだ」
つい意地悪をしたくなっていうと彼は大体瞬く間に降伏のポーズを取る。
それこそ、そんな時だけ表情豊かになるのだからとてもズルい。
だが、そのことに笑っていると、彼氏ができたのか?という疑問を抱いた心の声が見えてきた。
何故かはわからないが、イライラとさせられてしまう。
「…………」
「どうした?」
「……なんでもない」
話せないし、話したくもないので、低い声でそう伝える。
「いや、何でもない顔じゃないだろ」
「なんでもないったら」
自分で思った以上に強い声が出てしまい、若干の自己嫌悪に陥る。
だが、放ってしまった声を戻すこともできないのでそっぽを向いて逃げる。
「なんか気に障ったなら悪かったって。ほら、この通りだ」
もしかしたら、気を悪くさせてしまったかもしれない。
嫌われてしまったのではという不安から彼の方を見られずにいると、優しい声がこちらにかけられる。そして、こちらの心を解すように歩み寄ってくれた。
「ふふっ。まあ、許してあげる」
「計画通り」
「いや、それ口に出して言っちゃダメなやつだから」
先ほどまでのイライラや不安は吹き飛び、いつものように穏やかな気持ちにしてくれる。相変わらず彼は優しい。
私に対する好感度稼ぎでは無い。純粋に相手を思いやり、それに寄り添う。
それは、友人との付き合い方もそうで、だからこそ信頼がおける。
朝の憂鬱な記憶を彼方に追いやるほどの心地よさを感じていると一限目のチャイムの音が聞こえてきた。
◆◆◆◆◆
一日の終わり、帰りのホームルームの時間。私にとって望まない声が聞こえてくる。
「お前ら―。今日はみんな大好き席替えだぞー。テスト週間前にやってくれたら頑張れるとか言ってたんだからちゃんと頑張れよ」
周囲の楽しそうな声と反比例して、気持ちは沈んでいく。それこそ、事前に予想していたのにも関わらず、その言葉は私の心を切り刻んだ。
自分の心が揺らめき、呆然とする中、隣から彼の声が聞こえてくる。
「いい席だったのに残念だな」
正直、その言葉に返せるような余裕は無かった。
「大丈夫か?」
だが、心配させてはいけないと思い平気なふりをしつつ何とか口を開く。
「……大丈夫。また、近くになれるといいね」
「あ、ああ。そうだな」
私の声は全く取り繕えていなかったのだろう。珍しく動揺する彼の顔が見えてた。
ダメだな、私。頑張らなきゃ。
全身の意識を顔に向け、彼にほとんど向けたことの無い作り笑いを浮かべる。
「本当に大丈夫。少しの間だったけどありがとう」
恐らく、このまま彼と話していると私は一切取り繕うことができなくなるだろう。
だから、それだけ言うと前の席に座る女の子達と話し始めた。
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ありがとうございました!
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