人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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二章 -席替え-

蓮見 透 二章②

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 席替えが始まり、それぞれがくじを引いていく。

 そして、自分の順番になると席を立ち、くじを引きに前へと向かう


 まだ、希望は残っている。それこそ、限りなく可能性は低いけれど。

 深呼吸をした後、目の前にある箱に手を入れて一枚の紙を抜き取った。









「よかったな。また最高の立地だ」


 席に戻ると彼が声をかけてくる。くじの結果は、今と同じ席。でも、別に場所はどうでもいいのだ。彼が隣にいなければそんなの何も意味を為さない。


「そうかもしれないね、まだわからないけど」


「悪い、最後聞こえなかった。なんだ?」


 伝えるわけにもいかなくて曖昧に笑う。


「ごめんね。運がいいねって言ったんだ」
 

「ああ、なるほど。二回連続同じ席って確かに奇跡的なくじ運だよな」 


 まだ、結果は分からない。期待し過ぎないようにと心を凍らせつつ、早く結末が知りたくて彼の番を促した。


「ほら、氷室君の番だよ」


「ほんとだ。じゃあ、いってくるよ」

  
 彼が前に向かうのを固唾を飲んで見守る。手には汗をかき、喉が渇く。

 不思議な緊張感の中、その手が箱の中に入り、紙を引き抜いた。








「残念だったね」


 自分に言い聞かせる意味も込めてそう言葉を絞り出す。

 
「ああ。今は、世界を滅ぼして欲しいと神に祈ってるよ」


 なるほど、それなら、私もそうしよう。滅ぼして、やり直してくれるなら、それもいいかもしれない。
 

「そっか。じゃあ、私も祈るの手伝ってあげようかな」


「知ってるか?恵まれた奴からの憐れみは火種を生むんだぜ?」 


 彼は、小学生のように輪ゴムをこちらに向けてくる。

 明日からはこの光景も見れなくなってしまうのだと考えるととても寂しい。


「ごめんごめん。でも、氷室君と話せなくなるのちょっと寂しいなって思って」


「まあ、俺も蓮見さんと話すの楽しかったからそれは思うよ。でも、別のクラスになるわけでもないんだし、一切話さなくなるわけでもないさ」


「そうなんだけどさ。だって氷室君って自分から話しかけてくるわけでもないでしょ?」

 
 彼の性格的に積極的にこちらに話しかけてくることは無いだろう。

 それに、私から話しかけるのも不用意にはできない。隣の席という関係性の無い状態でそれをすることで無駄な諍いを生みかねないのもわかっているから。


「それはそうだな。休憩時間もトイレ行く以外で席立つのめんどくさがるくらいだしな」


「でしょ?だから、ほとんど話す機会も無くなっちゃうよね」

 
 自分で言った言葉に自分が傷つく。なんて馬鹿な女だろうと自嘲の笑みが浮かぶ。


「確かにそうかもな。まあ、機会があったらまたよろしく頼むよ」


「……うん。また、いつかね」


 周りが移動を始め、彼の背中も離れていく。

 
 
 そのいつかを期待するには私の心は弱すぎるのだ。だから、もう忘れよう。

 期待しない方が傷つかなくて済むのは知っているから。





◆◆◆◆◆



 
 テスト週間が始まり、勉強を手伝って欲しいのか私の周りに人が増える。

 そして、それにつられて更に人が増えていく中で、それらの心の声を吟味しながら対応していった。

 特に悪意の芽は早めに摘む必要があるため、表情に出さないまま頭をフル回転させ対処する。

 
 皆が部活に行くことが無くなり、放課後の時間が増えたこともあるだろう。

 たった数日のはずなのに、心休まる時間は極端に少なくなり、ここ一ヶ月は収まっていた片頭痛が戻りつつある。

 そして、夏休みに近づく中で面倒なやり取りも増えていく。


「透ちゃんは夏休み何して過ごすの?」(雄哉君とどこか行きたいなー)


 隣の席の桐谷 千佳ちゃんに話しかけられる。近くには彼女の仲のいいメンバー達も集まっているのでどうやらそこに繋げたいようだ。


「中学時代の友達と会ったり、地元に帰ったりかな」


 無難な回答をして様子を伺う。


「そっか、地元遠いって言ってたもんね!どんなところなの?」


「ド田舎の村なんだ。何も見るところは無いよ」


 あまり興味を示されても困るのでそう伝わるような言葉を選んで話す。


「村なの?行ったことない!海とか山近いの?」(村ってほんとにあるんだ)


 どうやら、相手の捉え方は違ったようで興味を引いてしまう。


「遠くは無いかな」


「えー!じゃあみんなで行ってみたい。ダメ?」(夏にみんなで旅行とか最高じゃん)


「いいな!旅行。めっちゃ楽しそう」


 周りも興味津々な様子で少し選択を誤ったことを悟る。良いとは言っていないにも関わらず、かなり気分が盛り上がってしまっているようだ。
 

「ほんとに何もないし、つまらないよ」


「いいじゃん!みんなで行けばなんでも楽しいって」(これはチャンスだな。海行っていいムードを作ればワンチャンいけるかも)


 背の高い男の子、桐谷 千佳の思い人らしい彼がそう言うと皆のテンションは最高潮になり、最早止められる空気感では無くなってしまった。

 ここで強引に断ることはできる。だが、それによる心象はかなり悪いものになるだろう。

 学年でも影響力のある彼ら彼女らにここでそうするのは悪手かもしれない。


「…………一度、みんなで行っていいか聞いてみるね」


「やった!でも、ダメでもみんなでどっか行こうよ。せっかくの高校生の夏、楽しまなきゃ損でしょ!!」(別に狩谷君達とどっか行ければばいいし。なんなら違うとこのが楽しいかも)

 
 満面の笑みで桐谷 千佳ちゃんがそう言う。どうやら、逃げ道は無いらしい。
 
 地元に連れて行くのは個人的には嫌なので、とりあえず時間を稼ぎ、早く帰れるような場所に誘導するしかない。


「……そうだね。また、聞いたら教えるよ」


「ありがとう!ほんと透ちゃん大好き!!」(ノートも貸してくれるし、ほんと最高の友達。あとは、狩谷君が諦めてくれれば完璧なのに)


 周りは夏休みに意識を向けたようで会話が盛り上がっていった。

 私は笑顔を貼り付け、適当に相槌を打ちつつ時間が過ぎるのを待つ。時たま、助けを求めるように氷室君の方に目をやりながら。





◆◆◆◆◆




 以前のように眠りが浅くなり、目元には徐々に隈が戻り始める。

 それに伴い、片頭痛も毎日のように続き始めたため生理の薬を飲んで痛みを誤魔化す。


「ひどい顔」


 慣れた手つきでメイクを施し、覆い隠していく。心配した風でアプローチされることは断りづらいこともあって殊更面倒くさいからだ。
 
 元々器用なことに加え、中学二年の時、仲の良い友達の全くいないクラスになった時にこの技術を学び始めたこともあって大人にも負けない技術レベルだと思っている。
  
 少なくとも、まだ経験の少ない高校生の男の子達にはバレないだろう。 


「明日から夏休みか……」


 あまり気の進まない予定も入ってしまった。まあ、遠くの高校に行った仲の良い友達や、祖母との予定もあるからそれだけが救いだろう。

 



 凍える冬のように冷たく、色の無い日常に、マッチの火ほどの微かな幸せを手繰り寄せて生きる。

 彼と以前話した、自分がやりたいことを考える余裕は正直無かった。
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