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四章 -近づく関係-
幕間:続・氷室家の人々(表)
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途中、家族のメッセージで透が落ち着いたこと、もう一度彼女を連れて帰ることだけを送っておく。
ポケットにしまったスマホが連続で揺れるのが分かる。
恐らく、簡潔な母さんの返事の後に早希と親父のスタンプ爆弾が続いているのだろう。
「とりあえず、一緒に帰ることは伝えといたから」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫かな」
弱気な声が後ろから響く。振り返ることはダメらしいので、独り言のように誰もいない空に向けて言葉を伝える。
「大丈夫だって」
「…………うん」
透は容姿も整ってるし、頭も良いし、運動もできる。何をやらせても器用にこなす彼女は、その能力で致命的な衝突を回避できることもあって、障害を乗り越えてきた経験があまり無いのかもしれない。
「大丈夫だ。それに最悪、逃げちまえばいい」
「逃げる?」
「ああ。透は真正面から受け止めようとし過ぎなんだと思うよ。避けるのは上手いはずなのに、何故かそれにぶつかっていく」
「…………色々なものから逃げてきた気がするけど」
「逃げたつもりでも、胸に抱えてちゃ意味ないだろ?」
色々なものを遠ざけてきたはずの彼女は、何故か楽しい部分や、面白い部分は置いて、辛い部分だけを大事に胸に抱え込んできたんだろう。
さっきの涙ながらの告白を聞いて、なんとなくそう思った。
「…………なら、どうやって逃げればいいの?」
「色々方法はあるだろうけど、そうだな。もしそうなったら今回はバイクで逃げちまおう」
「え?」
「ははっ。そしたら、逆に家に匿ってくれよ?」
少しの沈黙の後、透の声が再び響く。
「………………うん、ずっと面倒見るから。何なら今からでも、ずっと」
「おい、今すぐじゃ意味ないだろ」
「え、あ、そうだね。でも、それなら、うん。なんか勇気出てきた」
素っ頓狂なことを言う透はやはり緊張しているのだろうか。
まぁ、勇気が出てきたならそれでいい。
「なら、よかったよ」
「うん。本当にありがとう」
そして、俺達はそんなことを話しながら家に戻った。
◆◆◆◆◆
玄関を開け、待っていたらしい母さんと透が二、三言話した後、何故か俺は少しの間外に出され続けた。
やがて、許可が出ると再び家に入り、透が頷いたのを見ると話があることを皆に伝えた。
目の前では、リビングに全員が集まり、透の話を聞こうとしていた。
長話になるかもしれないと言うと、母さんがそれぞれに麦茶を配ってくれた。
「親父は明日も仕事だろ?最悪母さんが送ってくれるらしいから別に違う日に聞いてもいいんだけど」
「嫌だ!なんか仲間外れみたいじゃないか」
「仲間外れって、大の大人が言う言葉じゃないだろ」
「少年の心を忘れない大人に、俺はなる」
「はぁ、漫画の台詞みたいに言うなよな」
朝日が昇ってきてしまいそうなので、適当に切り上げ、透に話すよう促す。
「あの、今日は色々とご迷惑かけて本当にごめんなさい。それと、今も夜遅いのに聞いてくれるって言ってくれて本当にありがとうございます」
何か言おうとする家族を制しつつ、とりあえず話を聞いて欲しいことを暗に伝える。
「とっても非現実的で、面白くもない、むしろ気分の悪い話かもしれないんですけど、どうしても聞いて欲しいことがあって、今日はお時間を頂きました」
緊張からか、唾を飲み込む音が隣に座る俺に聞こえてくる。
そして、机の下にある俺の手を不意に握ってきた彼女は、ゆっくりと自分の秘密を話していった。
生まれた時から人の心が読めること、家族の心も読んでいたこと、好意を抱いて貰えたのもそれに起因する部分が大きいこと。
言葉を詰まらせながら、震える手をこれ以上無いほど力強く握りしめ、色々なことを、ゆっくりと。
◆◆◆◆◆
麦茶の中の氷が解け、少し色を薄めた頃、最後の方は俯きながら声を出していた透の話が終わる。
一瞬の静寂の中、握られた手はひどく汗ばんでいて、それが彼女の緊張をはっきりと伝えてくる。
だけど、心配する必要なんてないと思う。俯いた彼女には見えないかもしれないけど、二人の宇宙人たちは既にその目を輝かせているから。
『「すごい!!!」』
「え、あの」
大きな声が響き、親父と早希が身を乗り出していく。
「声が大きい。ご近所さんに迷惑でしょ?」
『「うっ、ごめんなさい」』
「よろしい」
母さんの眼光に怯んだ二人は、しかし声のトーンを抑えながらも透の方に身を乗り出していく。
「透ちゃんすごいね!漫画の参考にしたいからよかったら詳しく聞かせてよ!!」
「心読めるとか、麻雀勝ち放題じゃないか!お小遣い出すから、今度ついてきてよ!!」
「え?えっと、気持ち悪いとか、そういうのは」
『「なんで?そんなことより、どうなの!?いいの!?」』
「いや、あの、その」
自分の欲を前面に出して近づいてくる二人の熱量に彼女はタジタジで、困ったような顔をこちらに向けてきた。
「ほら、透が困ってるだろ。夜も遅いし、その話はまた今度にしよう」
『「えー」』
「えー、じゃない」
『「うー」』
「うー、でもない。ほら、解散」
手で追い払うように言うと、不満そうな顔をしながらも、透の困惑した顔を見た彼らは自分の席に着く。
「母さんはなんかあるか?」
何か考え事をしているようだった母さんに尋ねる。
「今はいいわ。でも、後でちょっと話したいことがあるの、いいかしら?」
「は、はい」
特に不機嫌そうでもないが、何か思うところがあるのだろう。変なことは言わないのはわかっているので、とりあえず母さんに任せることにしよう。
「心が読める人って、本当にいるんだな~。君の倍以上は生きてるけどまだ会ったことないよ。うん、すごい!」
「い、いえ、それほどすごいものでもないので」
親父が何度も頷きながらそう言う。その言葉は、これまでずっと悩んできた彼女にとっては本来辛いものなのかもしれないが、全く悪意が無さそうな親父に逆に感心したような顔をしていた。
「いや、すごいでしょ。だって、ぱっと考えただけでも、色々使い道が思いつくし。それに、隠しごとだって………………あっ!」
突如響いた、少し大きめの声に全員がそちらを向く。
面白いくらいに汗を垂らしながら、首を振る親父に母さんの目が細まっていくのが見えた。
「なんでもないから、ほんと、なんでもないから」
「隼人さん?」
「何も隠してないよ」
「………………透ちゃん。お願い」
「え、でも」
「いいのよ、どうせ下らないことなんだろうし」
明らかに何かありそうな顔をする親父が取れそうな勢いで首を振り続ける。
どうせ、すぐに母さんにバレるんだから早くゲロっちまえばいいのにと毎度のことながら呆れてしまう。
「はい、じゃあ。…………え?」
心を読んだらしい透の顔が真っ赤に染まっていく。
そして、それと反比例するかのように冷たい顔になっていく母さんの顔が対照的だった。
これは、まずそうだ。心の中で親父に向けて合掌する。
「何が見えたの?」
「あの……………です。」
それほど恥ずかしいことなのか、耳打ちするようにして、母さんに伝えている。
「は?エロ本?」
「待って!誤解だから、本当に、誤解だから!!」
わざわざ聞こえないように言ったそれを母さんが般若の顔で口に出す。
今まで以上に真っ赤になる透が少し可哀そうだった。
だが、往生際が悪いなとは思いつつも、正直母さんラブの親父がエロ本っていうのは全く想像がつかなかった。
どんなエロ本なのか、となんとなく考えていると、以前こっそりと自慢されたそれに思い当たった。
「ああ、あれのことか」
納得がいき、つい口から漏れたそれは、どうやら失言だったらしい。
先ほどまで可愛らしく恥ずかしがっていた透が、母さんと同じように軽蔑したような顔でこちらを冷たい目で見ていたから。
「いや、待ってくれ、誤解だ。本当に、誤解なんだ」
特別、悪いことをしているわけでは無いのに、親父のように言い訳をしてしまう。
「隼人さん?」
「誠君?」
そして、俺達に発言は許されず、爆笑する早希とブチ切れる二人の間に挟まれるという謎の空間の中で黙って正座させられ続けた。
学生時代からの親父の宝物。
≪瑛里華の≫、≪露出度の高い写真を≫、≪集めた本≫、通称エロ本という下らない真実がわかるまで。
ポケットにしまったスマホが連続で揺れるのが分かる。
恐らく、簡潔な母さんの返事の後に早希と親父のスタンプ爆弾が続いているのだろう。
「とりあえず、一緒に帰ることは伝えといたから」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫かな」
弱気な声が後ろから響く。振り返ることはダメらしいので、独り言のように誰もいない空に向けて言葉を伝える。
「大丈夫だって」
「…………うん」
透は容姿も整ってるし、頭も良いし、運動もできる。何をやらせても器用にこなす彼女は、その能力で致命的な衝突を回避できることもあって、障害を乗り越えてきた経験があまり無いのかもしれない。
「大丈夫だ。それに最悪、逃げちまえばいい」
「逃げる?」
「ああ。透は真正面から受け止めようとし過ぎなんだと思うよ。避けるのは上手いはずなのに、何故かそれにぶつかっていく」
「…………色々なものから逃げてきた気がするけど」
「逃げたつもりでも、胸に抱えてちゃ意味ないだろ?」
色々なものを遠ざけてきたはずの彼女は、何故か楽しい部分や、面白い部分は置いて、辛い部分だけを大事に胸に抱え込んできたんだろう。
さっきの涙ながらの告白を聞いて、なんとなくそう思った。
「…………なら、どうやって逃げればいいの?」
「色々方法はあるだろうけど、そうだな。もしそうなったら今回はバイクで逃げちまおう」
「え?」
「ははっ。そしたら、逆に家に匿ってくれよ?」
少しの沈黙の後、透の声が再び響く。
「………………うん、ずっと面倒見るから。何なら今からでも、ずっと」
「おい、今すぐじゃ意味ないだろ」
「え、あ、そうだね。でも、それなら、うん。なんか勇気出てきた」
素っ頓狂なことを言う透はやはり緊張しているのだろうか。
まぁ、勇気が出てきたならそれでいい。
「なら、よかったよ」
「うん。本当にありがとう」
そして、俺達はそんなことを話しながら家に戻った。
◆◆◆◆◆
玄関を開け、待っていたらしい母さんと透が二、三言話した後、何故か俺は少しの間外に出され続けた。
やがて、許可が出ると再び家に入り、透が頷いたのを見ると話があることを皆に伝えた。
目の前では、リビングに全員が集まり、透の話を聞こうとしていた。
長話になるかもしれないと言うと、母さんがそれぞれに麦茶を配ってくれた。
「親父は明日も仕事だろ?最悪母さんが送ってくれるらしいから別に違う日に聞いてもいいんだけど」
「嫌だ!なんか仲間外れみたいじゃないか」
「仲間外れって、大の大人が言う言葉じゃないだろ」
「少年の心を忘れない大人に、俺はなる」
「はぁ、漫画の台詞みたいに言うなよな」
朝日が昇ってきてしまいそうなので、適当に切り上げ、透に話すよう促す。
「あの、今日は色々とご迷惑かけて本当にごめんなさい。それと、今も夜遅いのに聞いてくれるって言ってくれて本当にありがとうございます」
何か言おうとする家族を制しつつ、とりあえず話を聞いて欲しいことを暗に伝える。
「とっても非現実的で、面白くもない、むしろ気分の悪い話かもしれないんですけど、どうしても聞いて欲しいことがあって、今日はお時間を頂きました」
緊張からか、唾を飲み込む音が隣に座る俺に聞こえてくる。
そして、机の下にある俺の手を不意に握ってきた彼女は、ゆっくりと自分の秘密を話していった。
生まれた時から人の心が読めること、家族の心も読んでいたこと、好意を抱いて貰えたのもそれに起因する部分が大きいこと。
言葉を詰まらせながら、震える手をこれ以上無いほど力強く握りしめ、色々なことを、ゆっくりと。
◆◆◆◆◆
麦茶の中の氷が解け、少し色を薄めた頃、最後の方は俯きながら声を出していた透の話が終わる。
一瞬の静寂の中、握られた手はひどく汗ばんでいて、それが彼女の緊張をはっきりと伝えてくる。
だけど、心配する必要なんてないと思う。俯いた彼女には見えないかもしれないけど、二人の宇宙人たちは既にその目を輝かせているから。
『「すごい!!!」』
「え、あの」
大きな声が響き、親父と早希が身を乗り出していく。
「声が大きい。ご近所さんに迷惑でしょ?」
『「うっ、ごめんなさい」』
「よろしい」
母さんの眼光に怯んだ二人は、しかし声のトーンを抑えながらも透の方に身を乗り出していく。
「透ちゃんすごいね!漫画の参考にしたいからよかったら詳しく聞かせてよ!!」
「心読めるとか、麻雀勝ち放題じゃないか!お小遣い出すから、今度ついてきてよ!!」
「え?えっと、気持ち悪いとか、そういうのは」
『「なんで?そんなことより、どうなの!?いいの!?」』
「いや、あの、その」
自分の欲を前面に出して近づいてくる二人の熱量に彼女はタジタジで、困ったような顔をこちらに向けてきた。
「ほら、透が困ってるだろ。夜も遅いし、その話はまた今度にしよう」
『「えー」』
「えー、じゃない」
『「うー」』
「うー、でもない。ほら、解散」
手で追い払うように言うと、不満そうな顔をしながらも、透の困惑した顔を見た彼らは自分の席に着く。
「母さんはなんかあるか?」
何か考え事をしているようだった母さんに尋ねる。
「今はいいわ。でも、後でちょっと話したいことがあるの、いいかしら?」
「は、はい」
特に不機嫌そうでもないが、何か思うところがあるのだろう。変なことは言わないのはわかっているので、とりあえず母さんに任せることにしよう。
「心が読める人って、本当にいるんだな~。君の倍以上は生きてるけどまだ会ったことないよ。うん、すごい!」
「い、いえ、それほどすごいものでもないので」
親父が何度も頷きながらそう言う。その言葉は、これまでずっと悩んできた彼女にとっては本来辛いものなのかもしれないが、全く悪意が無さそうな親父に逆に感心したような顔をしていた。
「いや、すごいでしょ。だって、ぱっと考えただけでも、色々使い道が思いつくし。それに、隠しごとだって………………あっ!」
突如響いた、少し大きめの声に全員がそちらを向く。
面白いくらいに汗を垂らしながら、首を振る親父に母さんの目が細まっていくのが見えた。
「なんでもないから、ほんと、なんでもないから」
「隼人さん?」
「何も隠してないよ」
「………………透ちゃん。お願い」
「え、でも」
「いいのよ、どうせ下らないことなんだろうし」
明らかに何かありそうな顔をする親父が取れそうな勢いで首を振り続ける。
どうせ、すぐに母さんにバレるんだから早くゲロっちまえばいいのにと毎度のことながら呆れてしまう。
「はい、じゃあ。…………え?」
心を読んだらしい透の顔が真っ赤に染まっていく。
そして、それと反比例するかのように冷たい顔になっていく母さんの顔が対照的だった。
これは、まずそうだ。心の中で親父に向けて合掌する。
「何が見えたの?」
「あの……………です。」
それほど恥ずかしいことなのか、耳打ちするようにして、母さんに伝えている。
「は?エロ本?」
「待って!誤解だから、本当に、誤解だから!!」
わざわざ聞こえないように言ったそれを母さんが般若の顔で口に出す。
今まで以上に真っ赤になる透が少し可哀そうだった。
だが、往生際が悪いなとは思いつつも、正直母さんラブの親父がエロ本っていうのは全く想像がつかなかった。
どんなエロ本なのか、となんとなく考えていると、以前こっそりと自慢されたそれに思い当たった。
「ああ、あれのことか」
納得がいき、つい口から漏れたそれは、どうやら失言だったらしい。
先ほどまで可愛らしく恥ずかしがっていた透が、母さんと同じように軽蔑したような顔でこちらを冷たい目で見ていたから。
「いや、待ってくれ、誤解だ。本当に、誤解なんだ」
特別、悪いことをしているわけでは無いのに、親父のように言い訳をしてしまう。
「隼人さん?」
「誠君?」
そして、俺達に発言は許されず、爆笑する早希とブチ切れる二人の間に挟まれるという謎の空間の中で黙って正座させられ続けた。
学生時代からの親父の宝物。
≪瑛里華の≫、≪露出度の高い写真を≫、≪集めた本≫、通称エロ本という下らない真実がわかるまで。
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