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五章 -触れ合う関係-
夏の予定
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昼食をみんなで食べた後。
母さんお手製のクッキーを摘まみながらまったりとお茶を飲んでいた時、ふと透に声をかけられた。
「そう言えば、誠君は次いつ空いてるの?また遊びたいなって思ってるんだけど」
彼女はクッキーを手で弄りつつ、上目遣いでこちらを見ながら聞いてくる。
先程からこちらをチラチラと落ち着かない様子で見てたのは、もしかしたらそれが聞きたかったのだろうか。
「ん?しばらくは無理だと思うぞ?」
自分の予定を考えた後、そう答えると、何故か彼女の持ったクッキーがはじけ飛んだ。
砕けた破片がその手からボロボロと崩れ落ち、飛んだ大きめの破片が早希の頭にこつんと当たるのが見える。
「あたっ。どうしたの、透ちゃん」
だが、その声かけに透は反応せず、今は亡きクッキーを摘まんでいるような状態で固まっている。
母さんは、理由がわかっているのか、台所で微かに笑っているようだった。
「…………なんで無理なの?私と遊びたくないの?」
まるでロボットのようなぎこちない仕草で顔をあげた彼女は、早希の方に指を一本立てて黙らせると、表情を無くした状態で静かに、それでいて有無を言わせない様子で問いかけてきた。
「いや、なんか怖いんだけど。なんかあったか?」
「答えて」
その冷たい声は最初出会った頃を思い出させるもので少し懐かしく思うも、そんなこと考えている場合じゃないかと頭を切り替える。
「俺、バイトする予定だからさ。まだわかんないけど、たぶんあんまり遊べない思う」
二輪免許を取った時のお金はまだ親父に借りたままだ。
それにもともと、この夏休みにバイトする予定だったので既にある程度目星はつけてあるのだ。
母さん達には既に説明済みで、別にいいと言われているしな。
「バイト?なんで?」
先ほどまでの無表情は姿を消し、今度は不思議そうな顔で聞いてくる。
学校では禁止されていることもあり、その考えは無かったのだろう。
「ほら、バイクの免許取っただろ。それでけっこう金がかかったからさ」
「…………そんなぁ」
とても悲しそうな顔でそう言われるのは心苦しいが、家族間のやり取りとはいえ、筋はしっかり通しておきたかったので諦めてもらうほかない。
「悪いな。空いてる時間なら別にいいからさ」
「でも、ほとんどバイトする予定なんでしょ?」
「まぁな。それなりに大きな額だったし」
後で金額を聞いて、少し驚いた。お年玉とかの蓄え分も少しはあるが、宿題とかをやる時間もあるし、夏休み中はしっかり働かないときついかもしれない。
俺がその考えを撤回することが無いのが伝わったのだろう。
彼女は、こちらを説得するのではなく、何かを考え始めている様子だ。
「…………もうバイトは決めたの?」
「いや。でも、ほぼ決まってるから今日この後すぐ電話するつもりだ。時給はあんまよくないけどどこかで妥協しないとな」
そう言って応募する予定のところに丸が付けられた冊子を見せる。時給的にはそれほど旨くないが、短期でさらに高校生ともなると選べる立場でもない。
まぁ、ほんとは、昨日には動いている予定だったのだがそれを彼女に言うのはさすがに可哀想だろう。
「じゃあ、条件がもう少しよかったら、そっちを考えるってこと?」
「ん?確かに、それならそっちを選ぶけど、なんか当てがあるのか?」
「うん。ちょっと電話してくるから少しだけ待ってて」
らしくない勢いで外に出て行く透。
頭に当たったクッキーを食べていた早希は、途中から理由がわかったようで、こちらをニヤニヤと黙って見ていて少し鬱陶しかった。
「なんだよ、さっきから変な顔して」
「別に~。透ちゃんも大変だなと思っただけ~」
「なんで?」
「透ちゃんが言わないから私も言わない。いや、捗りますわ~」
早希はそう言いながら立ち上がると自分の部屋へ向かった。
恐らく、あの様子だとまた漫画を描くのだろう。
「母さんも何か知ってるのか?」
「そうね。でも、それは誠が自分で気づいた方がいいことだと思うわ」
自分で気づいた方がいい。必要であれば教えてくれそうな母さんが言うならそうなのだろう。
「ふーん。難しいことか?」
「どうだろう。とても曖昧な上に、人によっても違うから、少し難しいのかもしれない。いつ、どうなったらそれとも言いづらいし」
「なんだそりゃ。よくわかんないな」
「何かと線引をはっきりしがちな誠には余計難しいかもね。でも、たぶんいつかわかる日が来るわ。私もそうだったから、きっとね」
どうやら、答えを教えてくれる気は無さそうなので、聞くのを諦める。
まぁ、知らなくても今生きているのだから、おいおいわかっていけばいいのだろう。
そして、お茶を啜りながらクッキーをしばらく食べていると、電話を終えたらしい透が戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、誠君。この条件でどう?」
それほど急いできたのか、息を切らせながら彼女がスマホを見せてくる。
とりあえず、それをざっと見させてもらうと、給料的にはかなりいい条件であることが分かった。
書かれている場所は、この近くでは無いのか、地名を見てもいまいちどこなのかわからなかったが。
「条件はいいが、これどこだ?」
「私の地元の近くなの。たまに手伝ってた海の家のアルバイト」
「遠いのか?」
「…………うん、少しだけ」
「そうか」
正直、遠くに行くくらいなら近場のバイトの方がいいし、良いには良いが、破格と言えるほどの条件ではない。
いつもの自分ならたぶん、それを断っていただろう。
だけど、これまで周りに流されがちだった彼女が、額に汗を滲ませながら、わざわざ頑張って持ってきたのだ。
それを断るのはちょっと可哀想だろう。
まぁ旅行ついでに行くと考えればいいか。
「わかった。いいよ、それで」
「え?ほんとにいいの!?」
俺がそう言うと、俯きながら反応を待っていた彼女が驚いた様子で大きな声を出す。
「ああ、現地までのガイド付きなんだろう?」
「っ!もちろん!!」
だったら、少しくらい遠くてもいいだろう。こんな笑顔を見れるなら、逆に安いもんだ。
「あと、私の実家に泊まってもいいから!ううん、ぜひ泊まりに来て!!ご飯もちゃんと作るし」
「そりゃ至れり尽くせりだ」
「でしょ!?言ってくれれば、何でもするから」
「いや、別にそこまでわがまま言うつもりもないから。それに、何でもなんて、あんまり簡単に言わない方がいいぞ?」
もしかしたら、彼女は、世話好きなのかもしれない。前も似たようなことを言っていた気もするし。
だが、何でもなんてのは軽々しく使うべきではないので、少し釘を刺しておく。世の中、いいやつばかりではないんだから。
「……………………簡単にじゃないよ。こんなこと誠君にしか言わないもん」
さっきまでとは打って変わって曖昧な笑みを浮かべた彼女は、聞こえないほど小さな声で何かを呟いたようだった。
「ん?ごめん、聞こえなかった。なんて言ったんだ?」
「…………本当に大事な人だけに言うねって」
「ああ、なるほど。そうした方がいいぞ。変に風に受け取るやつもいるだろうからな」
「そうだね。人によって受け取り方が違うみたいだもんね」
彼女は、何故か拗ねたような様子で俺の後ろに回ると、痛くない程度の強さで拳をぶつけてくる。
「なんだよ?」
「なんでもないよ」
「なんでもないならやめて欲しいんだけど」
「この正拳突きは、私の日課だから」
「おい、そんな簡単にバレる嘘つくな」
「ふーん」
俺の、いや、俺達の夏が始まろうとしている。
少し予定は変わったけれど、それもまたいいだろう。結局、自分たちなりに楽しめればそれでいいんだし。
そして俺は、彼女の機嫌が直るまで、背中から感じる振動を甘んじて受け続けた。
母さんお手製のクッキーを摘まみながらまったりとお茶を飲んでいた時、ふと透に声をかけられた。
「そう言えば、誠君は次いつ空いてるの?また遊びたいなって思ってるんだけど」
彼女はクッキーを手で弄りつつ、上目遣いでこちらを見ながら聞いてくる。
先程からこちらをチラチラと落ち着かない様子で見てたのは、もしかしたらそれが聞きたかったのだろうか。
「ん?しばらくは無理だと思うぞ?」
自分の予定を考えた後、そう答えると、何故か彼女の持ったクッキーがはじけ飛んだ。
砕けた破片がその手からボロボロと崩れ落ち、飛んだ大きめの破片が早希の頭にこつんと当たるのが見える。
「あたっ。どうしたの、透ちゃん」
だが、その声かけに透は反応せず、今は亡きクッキーを摘まんでいるような状態で固まっている。
母さんは、理由がわかっているのか、台所で微かに笑っているようだった。
「…………なんで無理なの?私と遊びたくないの?」
まるでロボットのようなぎこちない仕草で顔をあげた彼女は、早希の方に指を一本立てて黙らせると、表情を無くした状態で静かに、それでいて有無を言わせない様子で問いかけてきた。
「いや、なんか怖いんだけど。なんかあったか?」
「答えて」
その冷たい声は最初出会った頃を思い出させるもので少し懐かしく思うも、そんなこと考えている場合じゃないかと頭を切り替える。
「俺、バイトする予定だからさ。まだわかんないけど、たぶんあんまり遊べない思う」
二輪免許を取った時のお金はまだ親父に借りたままだ。
それにもともと、この夏休みにバイトする予定だったので既にある程度目星はつけてあるのだ。
母さん達には既に説明済みで、別にいいと言われているしな。
「バイト?なんで?」
先ほどまでの無表情は姿を消し、今度は不思議そうな顔で聞いてくる。
学校では禁止されていることもあり、その考えは無かったのだろう。
「ほら、バイクの免許取っただろ。それでけっこう金がかかったからさ」
「…………そんなぁ」
とても悲しそうな顔でそう言われるのは心苦しいが、家族間のやり取りとはいえ、筋はしっかり通しておきたかったので諦めてもらうほかない。
「悪いな。空いてる時間なら別にいいからさ」
「でも、ほとんどバイトする予定なんでしょ?」
「まぁな。それなりに大きな額だったし」
後で金額を聞いて、少し驚いた。お年玉とかの蓄え分も少しはあるが、宿題とかをやる時間もあるし、夏休み中はしっかり働かないときついかもしれない。
俺がその考えを撤回することが無いのが伝わったのだろう。
彼女は、こちらを説得するのではなく、何かを考え始めている様子だ。
「…………もうバイトは決めたの?」
「いや。でも、ほぼ決まってるから今日この後すぐ電話するつもりだ。時給はあんまよくないけどどこかで妥協しないとな」
そう言って応募する予定のところに丸が付けられた冊子を見せる。時給的にはそれほど旨くないが、短期でさらに高校生ともなると選べる立場でもない。
まぁ、ほんとは、昨日には動いている予定だったのだがそれを彼女に言うのはさすがに可哀想だろう。
「じゃあ、条件がもう少しよかったら、そっちを考えるってこと?」
「ん?確かに、それならそっちを選ぶけど、なんか当てがあるのか?」
「うん。ちょっと電話してくるから少しだけ待ってて」
らしくない勢いで外に出て行く透。
頭に当たったクッキーを食べていた早希は、途中から理由がわかったようで、こちらをニヤニヤと黙って見ていて少し鬱陶しかった。
「なんだよ、さっきから変な顔して」
「別に~。透ちゃんも大変だなと思っただけ~」
「なんで?」
「透ちゃんが言わないから私も言わない。いや、捗りますわ~」
早希はそう言いながら立ち上がると自分の部屋へ向かった。
恐らく、あの様子だとまた漫画を描くのだろう。
「母さんも何か知ってるのか?」
「そうね。でも、それは誠が自分で気づいた方がいいことだと思うわ」
自分で気づいた方がいい。必要であれば教えてくれそうな母さんが言うならそうなのだろう。
「ふーん。難しいことか?」
「どうだろう。とても曖昧な上に、人によっても違うから、少し難しいのかもしれない。いつ、どうなったらそれとも言いづらいし」
「なんだそりゃ。よくわかんないな」
「何かと線引をはっきりしがちな誠には余計難しいかもね。でも、たぶんいつかわかる日が来るわ。私もそうだったから、きっとね」
どうやら、答えを教えてくれる気は無さそうなので、聞くのを諦める。
まぁ、知らなくても今生きているのだから、おいおいわかっていけばいいのだろう。
そして、お茶を啜りながらクッキーをしばらく食べていると、電話を終えたらしい透が戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、誠君。この条件でどう?」
それほど急いできたのか、息を切らせながら彼女がスマホを見せてくる。
とりあえず、それをざっと見させてもらうと、給料的にはかなりいい条件であることが分かった。
書かれている場所は、この近くでは無いのか、地名を見てもいまいちどこなのかわからなかったが。
「条件はいいが、これどこだ?」
「私の地元の近くなの。たまに手伝ってた海の家のアルバイト」
「遠いのか?」
「…………うん、少しだけ」
「そうか」
正直、遠くに行くくらいなら近場のバイトの方がいいし、良いには良いが、破格と言えるほどの条件ではない。
いつもの自分ならたぶん、それを断っていただろう。
だけど、これまで周りに流されがちだった彼女が、額に汗を滲ませながら、わざわざ頑張って持ってきたのだ。
それを断るのはちょっと可哀想だろう。
まぁ旅行ついでに行くと考えればいいか。
「わかった。いいよ、それで」
「え?ほんとにいいの!?」
俺がそう言うと、俯きながら反応を待っていた彼女が驚いた様子で大きな声を出す。
「ああ、現地までのガイド付きなんだろう?」
「っ!もちろん!!」
だったら、少しくらい遠くてもいいだろう。こんな笑顔を見れるなら、逆に安いもんだ。
「あと、私の実家に泊まってもいいから!ううん、ぜひ泊まりに来て!!ご飯もちゃんと作るし」
「そりゃ至れり尽くせりだ」
「でしょ!?言ってくれれば、何でもするから」
「いや、別にそこまでわがまま言うつもりもないから。それに、何でもなんて、あんまり簡単に言わない方がいいぞ?」
もしかしたら、彼女は、世話好きなのかもしれない。前も似たようなことを言っていた気もするし。
だが、何でもなんてのは軽々しく使うべきではないので、少し釘を刺しておく。世の中、いいやつばかりではないんだから。
「……………………簡単にじゃないよ。こんなこと誠君にしか言わないもん」
さっきまでとは打って変わって曖昧な笑みを浮かべた彼女は、聞こえないほど小さな声で何かを呟いたようだった。
「ん?ごめん、聞こえなかった。なんて言ったんだ?」
「…………本当に大事な人だけに言うねって」
「ああ、なるほど。そうした方がいいぞ。変に風に受け取るやつもいるだろうからな」
「そうだね。人によって受け取り方が違うみたいだもんね」
彼女は、何故か拗ねたような様子で俺の後ろに回ると、痛くない程度の強さで拳をぶつけてくる。
「なんだよ?」
「なんでもないよ」
「なんでもないならやめて欲しいんだけど」
「この正拳突きは、私の日課だから」
「おい、そんな簡単にバレる嘘つくな」
「ふーん」
俺の、いや、俺達の夏が始まろうとしている。
少し予定は変わったけれど、それもまたいいだろう。結局、自分たちなりに楽しめればそれでいいんだし。
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