人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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五章 -触れ合う関係-

姉と祖母

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 翌日、朝起きると案の定胃が重かった。
 それに、布団に入ってしばらく寝れなかったせいで少しだけ寝坊してしまったようだ。 
 時計を見るとそろそろ、料理が出来てしまっていてもおかしくない時間になっていた。
 

「しまったな」 


 昨日は、余裕があまりなくて風呂に入ってすぐに布団に直行したし、これほど腹が空かないものだとも思っていなかったから朝食が必要ないことは当然伝えていない。


「まぁ、仕方ない。自業自得だ」

 
 俺は、ため息をつき立ち上がると、せめてご飯の量だけは減らさせてもらおうと台所へ向かった。

 




「おはようございます」

「ああ」 

「おはよう!お腹大丈夫?」


 いつものように挨拶をすると、丁度料理を運ぶところだったらしい透がこちらに近づいてくる。


「さすがに、ちょっとしんどいな」

「ふふっ。そうだと思った。ヨーグルトと果物用意したんだけどそっちでいい?」

「マジか。すごい助かる。ほんと、気が利くな」

「ふふふっ。いつも、誠君のこと考えてるからね」


 言われてその手元のお盆を見ると、俺がいつも使っている箸と茶碗だけが置いてなかった。
 見慣れないものが一つあるが、それは恐らく遥さん用のものなんだろう。


「本当にありがとう」

「えへへへへ」


 出来る限りの感謝の気持ちを込めて礼を伝えると、透は、蕩けたような笑みを浮かべ、まるでスキップでもするかのように鼻歌を歌いながら居間の方へ歩いていった。
 

「はぁ。お供え物用に量を調整しているところが、なんとも、かゆいところに手が届くというのか、あの子らしいねぇ」

 
 そして、俺もその後を追いかけようとした時、おばあさんがそうぼやきながらこちらに近づいてくる。


「すいません。そんなものを使わせてしまって」
 
「まぁ、いいさ。聞いたところによれば、あんたのせいじゃないんだろ?その分、遥は叱っといたけどね」

「はは、ありがとうございます」


 どうやら、この様子だと遥さんはこってり絞られたのだろう。
 自分の蒔いた種ではあるが、厳しいおばあさんの性格を考慮すると、少し同情する気持ちもあった。


「ほら、あんたもぼさっとしてないでさっさと行くよ」

「はい」






◆◆◆◆◆






『「いただきます」』

「かーっ!相変わらずマジで美味い!!これならいくらでも食べれるわ」


 朝食の挨拶をした後、それぞれが朝食に手を付けていく。
 しかし、遥さんは昨日もかなり飲み食いしていたように見えたが、全く影響が無いらしい。
 満面の笑顔で次々に食事を口に運んでいた。


「すごい食欲ですね。俺は、見ているだけでもうお腹いっぱいです」

「あははっ。ほんと、バカだよな。さすがにお前は無茶し過ぎなんだって」

 
 叱られて涙目で三角座りをしていた遥さんは、朝食を食べ始めるとそんなことは記憶の彼方にいってしまったようで、今はもう楽しそうに笑っていた。


「まぁ、後悔は無いですけどね。たぶん、同じ状況なら、また同じことをすると思うので」

「いいね~。そういうところ、私は好きだぞ。おっと、待て透、そういう意味じゃないから」


 箸を口元に入れながらジト目でそちらを睨む透がこちらにぐっと席を近づけてくる。
 正直、あまり近づかれると食べづらいのだが、今日の気遣いには本当に感謝してるので俺は何も言わずに食事を続けることにした。


「あっ、そういや昨日の詫びにこれやるよ」

「なんですか、これ?チケット?」

「明日、町の方で花火大会があるんだよ。で、それは屋形船の特別チケット」

「屋形船ですか?」

「ああ、知り合いの伝手でな。花火の日のやつは、ある意味幻級のレアチケットなんだぜ?」


 遥さんは、得意げにそう言ってくるが、確かにそれは貴重そうだ。
 それに、今まで乗ったこともないのでとても心惹かれる。


「そんな、貴重なものを貰ってしまってもいいんですか?」
 
「ああ、二人で楽しんで来いよ」

「気を回してもらっちゃってすいません。ありがとうございます」

「ハル姉!ありがとう」
 
「おお、ちゃんと崇(あが)め奉(たてまつ)れよ」


 詫びだなんだと言っていたが、二枚分が既に用意されていたところを見るに、もとから渡すつもりだったんだろう。本当に、面倒見のいい人だと改めて思う。


「すまないね。お代は私が払うよ」

「いや、いいんだって。ばあさんの遺産で返してくれりゃいいからさ」

「何言ってるんだい。まだまだ私は死ぬつもりはないよ」

「あははははっ。しぶといな」

「全く、小憎らしいやつだね」


 二人はお互いを邪険にするようなことを言い合っているが、本当にそう思っていないのは付き合いの短い俺でも手に取るようにわかった。
 たぶん、これが二人の関わり方なんだろう。

 もとから遥さんは楽しそうだし、おばあさんもため息をつきながらも何となく楽しそうに見えた。


「だけど、屋形船なんて乗ったこと無いしすごい楽しみだな」

「うん。すごい楽しみ!それに、せっかく行くなら浴衣着ていこうよ」

「いや、さすがに浴衣は持ってきてないぞ?」

「爺さんのを貸してやるよ。たぶん、背丈はちょうどいいくらいだろうからね」


 そんなものは持ってきていないので透だけ着てくれていいと言おうとした時、おばあさんが先に口を開き、会話を差し込んでくる。


「いいんですか?それって、大事なものなんじゃ」

「物は物だ。あんたになら貸してやってもいいよ」

「やった!ありがとう、おばあちゃん!!」

 
 透は既にその気になっているようだが、本当にいいのだろうか。
 
 恐らく、それは遺品と呼べるもののはずだ。
 それに、無駄を好まないこの人がわざわざ取って置いてあるものが大事なものでないはずが無い。

 
「本当に、いいんですか?」

「いいんだよ。むしろ、今が使うべき時ってもんさ」


 彼女は、透の方を見て目を細めた後、ゆっくりとこちらに頷きかけてくる。
 そこにどれほどの想いが宿っているのかはわからない。

 だけど、本人がそういうなら、貸してもらうべきなのだろう。


「………………大事に使います」

「あんたってやつはほんとに……まぁ、そうしておくれ」


 そして、俺がその好意を噛みしめるように言葉を伝えると、おばあさんは苦笑いのような表情をしてこちらにそう返した。
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