60 / 106
五章 -触れ合う関係-
鈍感な彼
しおりを挟む
朝食を食べ遥さんも家に帰った後、今日は何をするかを透と話し合う。
「どこか、行きたいところあるか?」
「うーん、そうだなぁ………………あっ、川にでも行こうか」
「川か、涼しそうでいいな。近いのか?」
「そんなに遠くないよ。歩いて三十分くらい」
「え?それは、遠くないのか?」
この炎天下の中、歩くにはなかなか遠く感じる距離だ。
部屋の中は空調が効いてるからまだいいが、たぶん昼間は猛暑日の暑さだろう。
「そう?ここらへんじゃ、どこ行くのにもそれくらいかかるけど」
「あー、確かに。コンビニも無いくらいだもんな」
そう言われてみると、この家は村の中心部からも離れているので一番近い家でも、十分くらいかかるだろう。
それに、個人の趣味かと思えるほど小さい商店のようなものはあるものの、コンビニなんてもちろん無かった。
「ふふっ。町に行かないと何も買えないくらいだからね」
「田舎なめてたわ」
「あははっ。早く、慣れられるといいね」
「いや、そんなに…………そうだな。前向きに努力するよ。斜め前くらいで」
そんなに長くいるわけではないと言おうとして、言葉を止める。
もしかしたら、今回だけじゃなくて何度もここに来ることになるかもしれないと思ったから。
いや、違うか。たぶん、そうなることを俺自身が願っているのだろう。
隣にいることを、一緒に歩き続けられることを。
「あはははっ。ちょっと、遠回りしてる」
「俺は、シティボーイだからな。猶予期間をくれ」
「ふふっ。じゃあ、私はビレッジガール?」
「透はどっちにも住んでるからハーフなんじゃないか」
「えー、ハーフガールってなんか違う意味に聞こえない?」
アホみたいなことを話しながら居間で二人寝転がっていると廊下を通りかかったおばあさんが呆れた目でこちらを見てきた。
「はぁ、聞きなれない横文字をダラダラと。行くんならさっさとお行き。日が暮れちまうよ」
「「はーい」」
そして、俺達は準備をするためゆっくりと立ち上がった。
◆◆◆◆◆
玄関を出ると、うだるような暑さが俺に襲い掛かる。
上を見上げると、雲一つ無い空の中で、太陽が満面の笑みを見せているのがわかった。
「暑い」
「あははっ、渋い顔」
横では透が、太陽に負けないくらいの笑顔を見せているが、暑くないのだろうか。
「……透は、すごい元気そうだなぁ」
「うん。誠君と一緒にいるからね」
あまりにも真っ直ぐな言葉に、揶揄(からか)われていることがわかっていても動揺してしまう。
「……そりゃ、何というべきか迷うな」
「ふふっ。何も言わなくてもいいよ?どぎまぎさせるのが私の作戦だから」
「勘弁してくれ」
「やだ」
「頼むよ」
半分、諦めながらそう頼むと、何故か透は少し思案気な顔をした後、何かを思いついたようにさらに笑顔を深めた。
どうせまたいたずらを思いついたんだろうと、俺はため息が漏れそうになる。
「じゃあ、代わりに手繋ごうよ」
「それはさすがに暑いだろ」
「なら、小指だけ。ね?」
「まぁ、それならいいか」
「やった!」
俺がそういうや否や、透はそれがわかっていたとでもいうようにするりと指を絡めてくる。
ふんわりと優しく、それでいて決して離れないような力加減で。
「明日の花火大会、楽しみだね」
「そうだな」
「明後日は、何しようか」
「また、なんか考えるか」
「うん、考えよう。次の日も、そのまた次の日も、そのまたまた次の日も、二人で」
「はは、いつまで夏休み続けるつもりなんだよ」
誰もいないあぜ道をのんびりと歩く。
邪魔するものがないからか、吹き抜ける風は街のものよりも涼しく感じた。
「誠君は、最後まで付き合ってくれるんでしょ?私が普通の女の子になれるまで」
「まぁな」
「どんな普通もいいんだよね?」
「ん?例えば?」
話すことに集中しているからだろうか、少しだけ小指を握る透の力が強くなる。
ぎゅっと、まるであの日指切りをした日のように。
「楽しい普通は?」
「大丈夫だな」
「嬉しい普通は?」
「それも、問題ない」
何をもってそうなのかはよくわからないけど、最高の楽しさや幸せではなく、普通に楽しいことや嬉しいことを叶えるだけなら俺でもできる。
「悲しい普通は?」
「別にいいけど」
「辛い普通は?」
「ははっ、物好きだな。まぁ、別にいいが」
透は、それほど悪い部分を体験したいのだろうか。
あえて辛い思いをする必要もないと思うが、そうしたいのならば、それでもいい。
「ふふっ。そんなに簡単に言っちゃっていいの?」
「すごいことは無理だぞ?」
「ううん。ほんとに、普通なものだけ」
「なら、問題ない」
それこそ、十五年ほど普通を生きてきたのだ。
それに、俺はおばあさんと約束した。
透が望む限りはそばにいるって。
だったらそれがどんなものであろうが関係はない。
そこに彼女の意志さえあれば、それで。
「時間、たくさん使っちゃうよ?」
「俺にできる範囲ならな。最後までちゃんと付き合うさ」
「そっか。なら、末永くよろしくね?」
「ん?あ、ああ。よろしくな」
あまり日常では多用しない言葉に思わず隣を見ると、今まで見たことがないほど蕩けるような笑顔に一瞬虚を突かれる。
本当に、嬉しそうだ。特に変わった会話では無かったはずだが、それほど、彼女の琴線に触れるところがあったのだろうか。
「あはっ、どうしたの?なんか、驚いてるけど」
「いや、すごい笑顔だったからさ。ちょっとびっくりした。そんなに嬉しかったのか?」
「うん、とっても。誠君にはあんまりわからなかったかな?」
「あー、まぁ、そうだな。それこそ、俺には普通の会話に思えたんだが」
思い返してみるが、やはりよくわからない。
正直に伝えるも、透は笑みを深めるだけで、説明する気は無いようだった。
「なら、そうなのかもね」
「説明してくれないのか?」
「うん。とりあえず、今はね」
「いつかは教えてくれるってことか?」
思わせぶりな態度ではあるが、こういう時の透は意外に頑固なので恐らく聞いても教えてくれないだろう。
「うん。きっと、いつか同じような会話をするよ。きっとね」
「ふーん、そういうものなのか」
俺よりも、頭の良い彼女がそう言うのであればたぶん、そうなのだろうと何となく思わされる。
「ふふっ、そういうものなんだよ」
暑さを忘れたような、嬉しそうな笑みの中で、痛みの境界線ぎりぎりまで強く結ばれた彼女の小指だけが、熱を放っていた。
「どこか、行きたいところあるか?」
「うーん、そうだなぁ………………あっ、川にでも行こうか」
「川か、涼しそうでいいな。近いのか?」
「そんなに遠くないよ。歩いて三十分くらい」
「え?それは、遠くないのか?」
この炎天下の中、歩くにはなかなか遠く感じる距離だ。
部屋の中は空調が効いてるからまだいいが、たぶん昼間は猛暑日の暑さだろう。
「そう?ここらへんじゃ、どこ行くのにもそれくらいかかるけど」
「あー、確かに。コンビニも無いくらいだもんな」
そう言われてみると、この家は村の中心部からも離れているので一番近い家でも、十分くらいかかるだろう。
それに、個人の趣味かと思えるほど小さい商店のようなものはあるものの、コンビニなんてもちろん無かった。
「ふふっ。町に行かないと何も買えないくらいだからね」
「田舎なめてたわ」
「あははっ。早く、慣れられるといいね」
「いや、そんなに…………そうだな。前向きに努力するよ。斜め前くらいで」
そんなに長くいるわけではないと言おうとして、言葉を止める。
もしかしたら、今回だけじゃなくて何度もここに来ることになるかもしれないと思ったから。
いや、違うか。たぶん、そうなることを俺自身が願っているのだろう。
隣にいることを、一緒に歩き続けられることを。
「あはははっ。ちょっと、遠回りしてる」
「俺は、シティボーイだからな。猶予期間をくれ」
「ふふっ。じゃあ、私はビレッジガール?」
「透はどっちにも住んでるからハーフなんじゃないか」
「えー、ハーフガールってなんか違う意味に聞こえない?」
アホみたいなことを話しながら居間で二人寝転がっていると廊下を通りかかったおばあさんが呆れた目でこちらを見てきた。
「はぁ、聞きなれない横文字をダラダラと。行くんならさっさとお行き。日が暮れちまうよ」
「「はーい」」
そして、俺達は準備をするためゆっくりと立ち上がった。
◆◆◆◆◆
玄関を出ると、うだるような暑さが俺に襲い掛かる。
上を見上げると、雲一つ無い空の中で、太陽が満面の笑みを見せているのがわかった。
「暑い」
「あははっ、渋い顔」
横では透が、太陽に負けないくらいの笑顔を見せているが、暑くないのだろうか。
「……透は、すごい元気そうだなぁ」
「うん。誠君と一緒にいるからね」
あまりにも真っ直ぐな言葉に、揶揄(からか)われていることがわかっていても動揺してしまう。
「……そりゃ、何というべきか迷うな」
「ふふっ。何も言わなくてもいいよ?どぎまぎさせるのが私の作戦だから」
「勘弁してくれ」
「やだ」
「頼むよ」
半分、諦めながらそう頼むと、何故か透は少し思案気な顔をした後、何かを思いついたようにさらに笑顔を深めた。
どうせまたいたずらを思いついたんだろうと、俺はため息が漏れそうになる。
「じゃあ、代わりに手繋ごうよ」
「それはさすがに暑いだろ」
「なら、小指だけ。ね?」
「まぁ、それならいいか」
「やった!」
俺がそういうや否や、透はそれがわかっていたとでもいうようにするりと指を絡めてくる。
ふんわりと優しく、それでいて決して離れないような力加減で。
「明日の花火大会、楽しみだね」
「そうだな」
「明後日は、何しようか」
「また、なんか考えるか」
「うん、考えよう。次の日も、そのまた次の日も、そのまたまた次の日も、二人で」
「はは、いつまで夏休み続けるつもりなんだよ」
誰もいないあぜ道をのんびりと歩く。
邪魔するものがないからか、吹き抜ける風は街のものよりも涼しく感じた。
「誠君は、最後まで付き合ってくれるんでしょ?私が普通の女の子になれるまで」
「まぁな」
「どんな普通もいいんだよね?」
「ん?例えば?」
話すことに集中しているからだろうか、少しだけ小指を握る透の力が強くなる。
ぎゅっと、まるであの日指切りをした日のように。
「楽しい普通は?」
「大丈夫だな」
「嬉しい普通は?」
「それも、問題ない」
何をもってそうなのかはよくわからないけど、最高の楽しさや幸せではなく、普通に楽しいことや嬉しいことを叶えるだけなら俺でもできる。
「悲しい普通は?」
「別にいいけど」
「辛い普通は?」
「ははっ、物好きだな。まぁ、別にいいが」
透は、それほど悪い部分を体験したいのだろうか。
あえて辛い思いをする必要もないと思うが、そうしたいのならば、それでもいい。
「ふふっ。そんなに簡単に言っちゃっていいの?」
「すごいことは無理だぞ?」
「ううん。ほんとに、普通なものだけ」
「なら、問題ない」
それこそ、十五年ほど普通を生きてきたのだ。
それに、俺はおばあさんと約束した。
透が望む限りはそばにいるって。
だったらそれがどんなものであろうが関係はない。
そこに彼女の意志さえあれば、それで。
「時間、たくさん使っちゃうよ?」
「俺にできる範囲ならな。最後までちゃんと付き合うさ」
「そっか。なら、末永くよろしくね?」
「ん?あ、ああ。よろしくな」
あまり日常では多用しない言葉に思わず隣を見ると、今まで見たことがないほど蕩けるような笑顔に一瞬虚を突かれる。
本当に、嬉しそうだ。特に変わった会話では無かったはずだが、それほど、彼女の琴線に触れるところがあったのだろうか。
「あはっ、どうしたの?なんか、驚いてるけど」
「いや、すごい笑顔だったからさ。ちょっとびっくりした。そんなに嬉しかったのか?」
「うん、とっても。誠君にはあんまりわからなかったかな?」
「あー、まぁ、そうだな。それこそ、俺には普通の会話に思えたんだが」
思い返してみるが、やはりよくわからない。
正直に伝えるも、透は笑みを深めるだけで、説明する気は無いようだった。
「なら、そうなのかもね」
「説明してくれないのか?」
「うん。とりあえず、今はね」
「いつかは教えてくれるってことか?」
思わせぶりな態度ではあるが、こういう時の透は意外に頑固なので恐らく聞いても教えてくれないだろう。
「うん。きっと、いつか同じような会話をするよ。きっとね」
「ふーん、そういうものなのか」
俺よりも、頭の良い彼女がそう言うのであればたぶん、そうなのだろうと何となく思わされる。
「ふふっ、そういうものなんだよ」
暑さを忘れたような、嬉しそうな笑みの中で、痛みの境界線ぎりぎりまで強く結ばれた彼女の小指だけが、熱を放っていた。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※恋愛大賞ラストスパートなので24日火曜~27日金曜日まで連日投稿予定!
参加してるみんな!あと少しだよ頑張ろう!(>▽<)/作者ブル
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた
ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」
三十二歳、独身同士。
幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。
付き合ってもないのに。
夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。
断る理由が、ない。
こうして、交際0日で結婚することが決まった。
「とりあえず同棲すっか」
軽いノリで決まってゆく未来。
ゆるっとだらっと流れていく物語。
※本編は全7話。
※スパダリは一人もいません笑
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる