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五章 -触れ合う関係-
二人の足跡
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そのままずっと透の背中を撫で宥めているうちに、船は港に着いて乗客たちが降り始める。
微かに聞こえてくる声は、当然ながら花火の感想ばかりで自分達の様子に若干苦笑してしまった。
「俺達も、そろそろ行こうか」
「…………うん」
既に周りにはほとんど人がいない。
さすがに船の人に迷惑をかけるわけにもいかないので、透の手を引いて降りることを促すと、彼女は俯いたまま後ろをついてきた。
「お祭り、楽しかったな」
自分のものは自分で持ち帰ろうというありふれた声がスピーカー越しに呼びかけられるのが聞こえ、楽しい時の終わりに寂しさを感じる。
自分が嬉しい時ほどあっという間に過ぎてしまうのだから、本当に時間とやらは融通の利かないものだと思う。
「………………………ごめんね」
「ん?なにが?」
「…………花火、あんまり見られなかったから」
後ろを振り向くと、多少落ち着いてきたのか、若干目元を赤くした透がこちらを申し訳そうな顔で見上げていた。
まぁ、確かに花火はほとんど見ていない。それこそ、残っている記憶は、音と振動ばかりで花火を見たとは言い切れない部分もある。
「ぜんぜん気にしてないよ」
「…………ほんとに?」
「ああ。それに、その方が特別な思い出っぽいだろ?」
「ふふっ、なにそれ」
「俺達はそれでいいんだよ。どちらにしろ、俺は楽しめたんだから」
だけど、それでもいいのだ。どんな形だって、いい。周りと違っても、いい。
一番重要なのは、自分がどう感じているかということだと思うから。
「…………誠君は、ほんとに、ズルいよね」
「そうか?」
「うん」
「そっか」
「うんっ!」
楽し気な様子で頷く透を見ているとこちらまで嬉しくなる。
元気が出てきたみたいで本当によかった。
「でも、透が言ってた普通の幸せとはちょっと違ったかもな」
普通というものに憧れたことが無いからよくはわからない。
だけど、もしかしたら平均的な夏祭りとは違った楽しみ方だったのかもしれない。
ただでさえ釣り合わない容姿の二人。
女の子の方が何をするにも上手くて、一番大事な花火もほとんど見れない。
港から歩いてきたのもあるのだろうが、ゆっくりと、時々立ち止まりながら歩く俺達の周りにはほとんど人がいないこともあって、ふとそんな考えが浮かんできた。
「ごめんな。約束したのに、あんまり守れなくて」
俺は、透を『普通の女の子』にすると約束したのだ。
だったら、約束は守らなくちゃいけない。いや、なんとしてでも守りたいし、その夢を叶えてあげたい。
「………………………………わがままなこと、言ってもいい?」
「ん?おっと!」
何も言葉を返さない透を不思議に思いながら彼女が言葉を発するのを待っていると、一際強く手を引かれバランスを崩しかける。
「……………………………………」
「ははっ。どうした?別に、いいぞ」
そして、振り返って見えた真剣過ぎる表情に苦笑しながらも続きを促すと、透は自分の胸に手を当て、一度深く頷いた後、口をゆっくりと開いた。
「…………普通なんて、もういいの」
その言葉に、ちょっと驚く。
透はずっとそれを諦め、置き去りにして、何よりも、誰よりも、その曖昧なものに憧れを感じていたはずだから。
何の気なしに放った言葉に傷つき、悲しみ、喜び、はしゃいでしまうほどに。
「…………ううん、違う。私達の普通があれば、それでいいの」
「俺達の?」
「そう。それに、過去のことも、もういいの」
「…………」
当然、イジメられたとかそういうわけじゃない。でも、透は孤独に過ごした幼少期に対して、強い想いを持っていたはずだ。
「だってね。そんなのどうでもよくなるくらい、誠君は私を幸せにしてくれるから」
不意に表情を崩した透が、はにかんだような、照れたような、それでいてとても幸せそうな笑顔を作ってこちらの胸を高鳴らせる。
「………………それは、嬉しすぎる言葉だな」
直球過ぎる言葉に照れ、明後日の方向を向く俺を追い込むのが楽しいのか、笑いながら透が視線を合わせてくる。
「ふふっ。世界で一人しか聞けない、誠君だけの言葉だよ?」
「…………そっか。なら、とりあえず、一つの約束は終わったのかな」
曖昧な普通というものに憧れ、傷つき、周囲と距離を取っていた透。
だけど彼女は、どうやらそれは乗り越えられたらしい。
「うん。だけど、さっきの約束はまだ残ってるからね」
「……ああ。もちろんだ」
そうは答えるものの、今考えるとあれは約束と言うべきか悩むところがある。
だって、透を好きでいる、傍にいるということは、どちらかというと俺の願いだから。
「私が望む限り、だからね?」
「ああ」
「絶対だよ?」
「ああ、絶対だ」
「ふふっ。じゃあ、末永くよろしくお願いします」
「………………ああ、末永くよろしく」
出来ないことは出来ない。それでも、何としてでも叶えたいことがある。
それなら、俺は努力するだけだ。
透のずっと傍にいるために、その場所を誰にも譲らないために、出来る限りの力で。
微かに聞こえてくる声は、当然ながら花火の感想ばかりで自分達の様子に若干苦笑してしまった。
「俺達も、そろそろ行こうか」
「…………うん」
既に周りにはほとんど人がいない。
さすがに船の人に迷惑をかけるわけにもいかないので、透の手を引いて降りることを促すと、彼女は俯いたまま後ろをついてきた。
「お祭り、楽しかったな」
自分のものは自分で持ち帰ろうというありふれた声がスピーカー越しに呼びかけられるのが聞こえ、楽しい時の終わりに寂しさを感じる。
自分が嬉しい時ほどあっという間に過ぎてしまうのだから、本当に時間とやらは融通の利かないものだと思う。
「………………………ごめんね」
「ん?なにが?」
「…………花火、あんまり見られなかったから」
後ろを振り向くと、多少落ち着いてきたのか、若干目元を赤くした透がこちらを申し訳そうな顔で見上げていた。
まぁ、確かに花火はほとんど見ていない。それこそ、残っている記憶は、音と振動ばかりで花火を見たとは言い切れない部分もある。
「ぜんぜん気にしてないよ」
「…………ほんとに?」
「ああ。それに、その方が特別な思い出っぽいだろ?」
「ふふっ、なにそれ」
「俺達はそれでいいんだよ。どちらにしろ、俺は楽しめたんだから」
だけど、それでもいいのだ。どんな形だって、いい。周りと違っても、いい。
一番重要なのは、自分がどう感じているかということだと思うから。
「…………誠君は、ほんとに、ズルいよね」
「そうか?」
「うん」
「そっか」
「うんっ!」
楽し気な様子で頷く透を見ているとこちらまで嬉しくなる。
元気が出てきたみたいで本当によかった。
「でも、透が言ってた普通の幸せとはちょっと違ったかもな」
普通というものに憧れたことが無いからよくはわからない。
だけど、もしかしたら平均的な夏祭りとは違った楽しみ方だったのかもしれない。
ただでさえ釣り合わない容姿の二人。
女の子の方が何をするにも上手くて、一番大事な花火もほとんど見れない。
港から歩いてきたのもあるのだろうが、ゆっくりと、時々立ち止まりながら歩く俺達の周りにはほとんど人がいないこともあって、ふとそんな考えが浮かんできた。
「ごめんな。約束したのに、あんまり守れなくて」
俺は、透を『普通の女の子』にすると約束したのだ。
だったら、約束は守らなくちゃいけない。いや、なんとしてでも守りたいし、その夢を叶えてあげたい。
「………………………………わがままなこと、言ってもいい?」
「ん?おっと!」
何も言葉を返さない透を不思議に思いながら彼女が言葉を発するのを待っていると、一際強く手を引かれバランスを崩しかける。
「……………………………………」
「ははっ。どうした?別に、いいぞ」
そして、振り返って見えた真剣過ぎる表情に苦笑しながらも続きを促すと、透は自分の胸に手を当て、一度深く頷いた後、口をゆっくりと開いた。
「…………普通なんて、もういいの」
その言葉に、ちょっと驚く。
透はずっとそれを諦め、置き去りにして、何よりも、誰よりも、その曖昧なものに憧れを感じていたはずだから。
何の気なしに放った言葉に傷つき、悲しみ、喜び、はしゃいでしまうほどに。
「…………ううん、違う。私達の普通があれば、それでいいの」
「俺達の?」
「そう。それに、過去のことも、もういいの」
「…………」
当然、イジメられたとかそういうわけじゃない。でも、透は孤独に過ごした幼少期に対して、強い想いを持っていたはずだ。
「だってね。そんなのどうでもよくなるくらい、誠君は私を幸せにしてくれるから」
不意に表情を崩した透が、はにかんだような、照れたような、それでいてとても幸せそうな笑顔を作ってこちらの胸を高鳴らせる。
「………………それは、嬉しすぎる言葉だな」
直球過ぎる言葉に照れ、明後日の方向を向く俺を追い込むのが楽しいのか、笑いながら透が視線を合わせてくる。
「ふふっ。世界で一人しか聞けない、誠君だけの言葉だよ?」
「…………そっか。なら、とりあえず、一つの約束は終わったのかな」
曖昧な普通というものに憧れ、傷つき、周囲と距離を取っていた透。
だけど彼女は、どうやらそれは乗り越えられたらしい。
「うん。だけど、さっきの約束はまだ残ってるからね」
「……ああ。もちろんだ」
そうは答えるものの、今考えるとあれは約束と言うべきか悩むところがある。
だって、透を好きでいる、傍にいるということは、どちらかというと俺の願いだから。
「私が望む限り、だからね?」
「ああ」
「絶対だよ?」
「ああ、絶対だ」
「ふふっ。じゃあ、末永くよろしくお願いします」
「………………ああ、末永くよろしく」
出来ないことは出来ない。それでも、何としてでも叶えたいことがある。
それなら、俺は努力するだけだ。
透のずっと傍にいるために、その場所を誰にも譲らないために、出来る限りの力で。
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