人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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六章 -交わる関係-

蓮見 透 六章:序幕

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 まだ朝日も差し込まぬ早い時間に目覚めると、まだぼんやりとした頭で周りを見渡した。


「……誰もいない、よね」


 誰もおらず、物もほとんど無い空虚な空間。
 楽しいことに目を向けていられた昨日まではあまり気にならなかったその寂しさは、改めて気づくと胸を締め付けてくるような感覚さえあった。


「また、慣れないとな」


 元々自分でそうしようと思って形作った部屋だ。
 きっと温かい世界だけにいれば、そうではない大多数の人達と関わる外に耐え切れなくなってしまうと不安に思っていたから。 

 それに、ずっと考えてきた。
 すぐにでは無かったとしてもハル姉なら、茜ちゃんなら、伊織ちゃんなら、きっと大事な人を見つける。
 そして、唯一家族と呼べるおばあちゃんも自分と同じ時間をこのまま歩いていくことはできない。

 それならば、私はいつか一人で歩いていける方法を探さなくてはいけないと。


「ふふっ。少なくとも、今はまだね」


 でも、今は違う。
 ようやくと言っていいのかは分からないけど、私にも好きな人ができた。
 全てをさらけ出せる、どんな時でもそばにいてくれる人が。

 家族になって、最後まで共に寄り添ってくれる人が。
 

「誠君なら、人生も半分こしてくれるよね?」


 少しずつ日が出て明るくなる部屋の中。
 里帰りの初日に撮った、自分の膝に頭をのせて眠る彼の寝顔の写真を見ながら、私はそんなことを呟いた。












◆◆◆◆◆









 待ち合わせの場所に近づいて行くと、大きな車の前に桐谷千佳ちゃんと見知らぬ男性が一人立っているのが見える。
 
 恐らく、あれが今日の保護者役でついてきてくれることになっていた大学生のお兄さんだろう。


「透ちゃん。おはよー」(めちゃくちゃ眠い)

「おはよう。眠そうだね」

「予定無いとほとんど昼まで寝てるんだよねー」(ほんと、ずっと夏休み続いて欲しい)

 
 無意識に気を張ってしまっているのだろう。
 体に染みついた癖で自然と相手の心を読んでしまい、少しだけ自己嫌悪する。
 全員は無理だったとしても、それでもできる限り頑張ると瑛里華さんに言われて決めていたのに。


「ふふっ。夏休み堪能してるね、髪もすごく明るくなってるし」

 
 笑い声に合わせて息を吐きだし、頭を切り替える。
 ほんのちょっとでも誠君に、誠君の家族に見合える自分になるために努力したいから。
 

「似合うっしょ?お兄ちゃんは固いから文句しか言ってこないんだけどさ」

「うん。すごく千佳ちゃんの雰囲気に合ってるよ」

「だよねだよねっ!ほら、お兄ちゃんが固いだけなんだって」
 

 彼女が後ろを振り返ると、似通った顔立ちながらも雰囲気の大きく異なる男性が肩を竦めて首を横に振っていた。


「はぁ。あんまり、妹を甘やかさなくていいからね?」(すぐ調子乗るからなー)

「……はは、そんなつもりは無いんですけどね。それと、自己紹介が遅れました。蓮見 透です。今日はよろしくお願いします」
 
「これはご丁寧に。桐谷 和斗(かずと)です。よろしくね」(礼儀正しい子だなー。これで千佳と同い年とか恥ずかしくなってくる)


 派手めな妹とは違ってとても落ち着いていて、優し気な人に見える。
 でも、やはり男性相手に無防備でいることは今の私には難しいようでどうしても内面を覗いてしまう。
 こればかりは、仕方が無い部分もあるので多少は諦めるほかないだろう。


「お兄ちゃんは放っといていいから。ほら、みんな来たみたいだし」

「お前な。大事な夏休み使ってまでついてきてやったのに」

「はいはい。どうも」

「はぁ。本当に、可愛げのない妹だ」

「うるさいなー。ほら、友達来たから黙ってて」

「はいはい」


 仲の良い兄妹なのだろう。まるでじゃれつくような会話に思わず口元が緩む。
 それに、知佳ちゃんとは踏み込んだ話をあまりしてこなかったのでこんな彼女を見るのは少し新鮮だった。


「「ごめん、遅れたー」」

「ほんと、遅すぎ。時間通りなの透ちゃんだけとかあり得なくない?」

「ごめんって。電車組は丁度会って話してたら乗り過ごしちゃってさ~」

「ふーん。雄哉くんは?電車じゃ無いよね」

「俺は、自転車乗り過ごした」

「「あははっ。それは違くない?」」

 
 千佳ちゃんの想い人の一言でみんなが笑うのに合わせて笑う。
 純粋に楽しめたらいいとは思いつつも、さり気なくこちらに向けられる視線にどうにも心が落ち着かない。 
 好意を抱かれているのはなんとなくわかるも、正直今の私にとっては重荷でしかなかったから。








 そして、そのまま和斗さんと全員が自己紹介をした後、男女三名ずつ計六名分の荷物を順番に詰め込んでいった。


「みんな積み込めた?」

「はい」

「じゃあ、出発しよっか」   

「「よろしくお願いしまーす」」

  
 順番に車に乗り込み、扉が閉まると徐々に住んでいた街が遠ざかっていくのを何となく見つめる。

 雲一つない快晴、明るい声、これ以上無いほどの楽しそうな旅行ムード。
 それに最近は一切片頭痛に苛まれることもなくて体調も絶好調だ。

 きっと、不満なんて言っていたら罰が当たるようなコンディション。

 だけど…………それでも私は、誠君に今すぐ会いに行きたいと思った。
 
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