人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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六章 -交わる関係-

氷室 誠 六章:序幕

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 まだ朝日も差し込まぬ早い時間に目覚めると、まだぼんやりとした頭で周りを見渡した。
 ゲームに漫画、バイク用品など見慣れたもの。

 そして、昨日から加わった色んな参考書が机の上に置かれている。


「………………よし、やるか」


 今までは、こんな早い時間に起きて何かをやることはあまり無かった。
 徹夜でゲームをしていることはあっても、予定が無ければ昼まで寝てばかりいた気がする。
 

「実際のところ、これが正解なのかはわからないけど」


 勉強は別に好きでも、嫌いでも無かった。
 当然、テスト前はそれなりにやるし、思う存分遊ぶために夏休みの宿題も始まる前にだいたい終えてしまうタイプではあるが、それでも好きかと言われると違うと断言できる。

 だけど、今は何となく何もせず時間を過ごしていたくはない。
 少しでも前に、ちょっとでも先に進みたいとこれ以上無いほどに心が高ぶっているから。


「まぁ、何もしないよりはいいだろ」

 
 守るために何をすべきかはまだわからない。
 もしかしたら、他の奴がしているようにもっと社交的にしたり、女の子とのかかわり方を覚えたりする方が早道なのかもしれない。

 それでも俺は、やっぱり今の自分も好きだ。 
 それに、一切気が向かないことに手を出してもうまくいかないのは経験則でわかってる。
  
 だったら俺は自分なりの答えを出していくだけだ。
 そして、最後に透に答え合わせをしてもらえばいい。


「意外に、寂しいもんだな」


 メッセージも返し合っているのに、たった一日会わなかっただけで何を言ってるんだと我ながら思う。
 

「本当に、人は変わるもんだ」


 今までそういった寂しさとは無縁だったし、周りにもそう言ってきた。
 きっと、友達が今の俺を見たら揶揄ってくるだろう。

 だけど、それでも俺は無性に透と話したいと、そう思った。






◆◆◆◆◆





 
 朝日が登り、さすがに集中力も切れてきたのでコーヒーを飲みに降りるとリビングに母さんがいた。


「あら、今日も早いのね」

「ああ」

「…………透ちゃんとの旅行で何か心境の変化があったのかしら」

「まぁ、そんなとこだ」

「ふふっ。ほんと、そういうところは隼人さんに似てるわよね」

「そうか?」


 親父と早希はよく似ている。でも、自分の方はかなり母さん似でそれほど似通っているところは無いと思っていた。


「ええ。私にはそう見えるわ」

「ふーん。どこらへんが?」

「やると決めたら、真っ直ぐなところとか」

「そう、なのかな」 

「ええ」

「……そっか」


 親父は思い付きで行動することも多いが、確かに絶対にやると決めたことは必ずやり切っていたように感じる。

 親子イベントには全て出ると言ったら周りに父親一人でも必ず出ていたし、母さんとの結婚記念日は欠かさず何かしらのサプライズイベントを企画する。
 それに、意外にマメで母さんの写真集に加えて、俺達の成長アルバムもきちんと作っているらしい。


「まぁ、あの人ほど極端じゃないかもしれないけどね」

「そりゃそうだ」

「ふふっ。そう言えば、隼人さんが学生の時に言ったプロポーズの言葉知ってる?」

「いや、知らない。なんて言ったんだ?」


 それは聞いたことが無い。
 というより、これまではけっこー聞き流すことも多かったから忘れてしまっていただけかもしれない。


「あの人ね、『できるだけ男に会わせたくないから将来専業主婦になって俺を待っていて欲しい』、そう言ったの」

「なんだそりゃ」

「ふふっ。ほんと、あの人らしい変な台詞よね」

「……だな」


 自分の欲望丸出しのカッコいいプロポーズじゃない。
 でも、何となく俺はそれが親父らしくていいなと思った。


「それに、隼人さんもあの頃は誠と似たようなことしてたのよ?」

「ん?例えば?」

「私が専業主婦でいられて、それでいて拘束時間も少なくて済むような仕事を目指し始めたの。レースとかで表彰されてたからスカウトの話も来てたし、本人も乗り気だったらしいんだけど。全部断って」

 
 確かに、親父の趣味への熱の入れようを見ると、なぜ今の仕事に就いたんだろうと思ったことがある。
 その時は、やっぱり仕事と好きなことは違うんだなと思っていたがそれもまた話が違うらしい。


「そんなことがあったんだな」

「あったのよ。私に説得して欲しいって頼んでくる人もいたわ」

「で、母さんは親父になんか言ったのか?」

「いちおーね。でも、『俺の一番の趣味は君だ』なんて言うのよ?呆れてそれ以来何も言わなくなった」

「ははっ。親父らしいな」

「ほんとよね」


 実にアホみたいな発言ではあるが、そこにどれだけの意志が込められていたなんてのは母さんの少し嬉しそうな顔を見ればわかった。
 どうせきっと、大真面目な顔してそんなことを恥ずかしげもなく言ったのだろうし。


「あら、もうこんな時間。そろそろ洗濯でも干そうかしら」

「暇だし、手伝うよ」

「今日は、いいわ。誠にも、目標ができたんでしょう?」

「……そうだな」

「じゃあ、そっちを頑張りなさい。無理し過ぎない程度に」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 そう言ってリビングを出ていった母さんの背中を見ながらコーヒーをグラスに注ぎ、口に含む。
 すると、ひんやりとした冷たさと、独特の苦みがぼんやりとした頭を覚醒させてくれた。
 

「まぁ、ほどほどに頑張るかな」


 将来がどうとか、未来がどうとか、そんな大層なことはあまり考えられていない。
 それでも俺は、肩を回して強張った体をほぐしながら、階段を一段ずつ登っていった。 
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