人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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六章 -交わる関係-

Day1①小さき種

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 走り始めてしばらくすると、眠気よりも楽しさが優ってきたのか車内がだんだんと騒がしくなっていく。


「BTSのButter!」

「あっズルい!ちょうど私も言おうと思ってたのに」

「おいおい、雄哉早すぎだろ。早漏かよ」

「うるせぇよ」

「あははっ。でも、ほんと雄哉君すごいよね」

 
 途中から始まったイントロクイズ。そういったことにあまり詳しくないし、興味もないけれど、どうやら千佳ちゃんの想い人はそういった分野にかなり強いらしい。
 

「くそっ。次は俺達が勝つからな」

「やってみろよ。どうせ、俺が勝つだろうけど」

「「はぁ!?」」

「あはははっ。まじウケるんだけど」


 張り合う男の子達。そして、それをもう一人の女の子である佐藤葵ちゃんが指をさしながら笑っている。


「ほらほら、落ち着いて。一回トイレ休憩でサービスエリア寄るし」

「「はーい」」


 保護者役のお兄さんが宥めながら車が減速し、空いている駐車スペースに車を停めると、皆がああだこうだ言いながら降りていく。


「ほんと、雄哉くん達面白いよね~」

「わかるー。ノリも良いし」


 お手洗いに行く途中。
 笑顔を浮かべて相槌を打ちながら歩く。


「……そういえば千佳ちゃん。次乗るときに席替わって貰ってもいい?」
 
「え?なんで?」

「実は、少し酔ってきちゃって」

「そうなんだ。ぜんぜんいいよ」

 
 身長が高いこともあって二列目に座った彼女の想い人。
 そして、その隣には私の席。

 心を読まなくてもなんとなくわかる。
 お兄さんと初対面であることもあって必然的に助手席に座っていた彼女はきっと、彼の近くに座りたがっている。
  
 だって、もしそれが誠君だとしたら私はそうしたいと思うから。


「あっ!もしかして!?」

「え、なに?」

 
 急に出された大きな声に少し驚く。
 それが一番いいと思ったけれど、何か問題があったのだろうか。


「透ちゃん気を遣ってくれたんでしょ。私が雄哉くんの隣に座れるように」

「あー……うん。よくわかったね」

「やっぱり!マジ神っ、ありがとう」

「あは、はは。どういたしまして」

 
 嬉しそうな笑顔。
 心を読んでいない今は、それが本音なのかは確かめられない。
 だけど、今はなんとなく彼女のそれが嘘じゃないとわかった。
 
 きっとそれは、私が異性に恋焦がれる気持ちの強さを知ったからだと思う。


「もしかして、透ちゃんも好きな人できたんじゃない?」

「あっ!わかる!なんか、雰囲気変わったよね」

「そう?でも、あはは。実はね、そうなんだ」
 
「「やっぱりっ!」」


 自分では何も変わっていないつもりだったけど、周りから見ると何か違って見えたのかもしれない。
 驚きとともに恥ずかしさがこみ上げてくる。


「でも、意外とわかっちゃうものなんだね」

「乙女センサーが反応したんだよねー。なんか、前より絡みやすくなった感じしたし」

「わかるー。雰囲気も前より柔らかいもん」

「そうかな?」

「「うん」」


 千佳ちゃんと葵ちゃん、二人ともがそう思っていたのなら、本当にそうなのかもしれない。
 もしかしたら……いや、絶対に誠君の存在のおかげで心のゆとりが生まれたからだろう。


「とりあえず!今日の夜はその話を言うまで寝かさないからね」

「うんうん。吐くまで寝れないから」

「あはは、お手柔らかにお願いします」

「無理。恋バナにお手柔らかにとかないから」

「……名前だけは絶対言わないからね?」

「「えー」」

 
 知っている人であることが伝わるリスクを承知で今のうちにそう釘を指す。
 譲れる部分と、譲れない部分。それだけは深夜のテンションが始まっていない今のうちにはっきりさせておいた方がいいと思って。


「あれ?もしかして、私達も知ってる人だったり?」

「……二人とも顔が広いから、他校の人でも知ってるかもしれないでしょ?」 
 
「あーなるほど。そういうことね。でも、そんな言うの恥ずかしいの?」

「ううん。そうじゃなくて」

 
 彼に迷惑をかけたくない気持ちはある。
 彼女たちに心を許しきれていないという気持ちもある。
 だけど、それ以上に言いたくない理由があった。


「なら、なんで?」

「………………………………から」

「「え?なに?」」

「私の好きな人のこと、好きになって欲しくないからっ」 
 

 きっと、誠君に興味を持ってしまえば、良いところを知ってしまえば、みんな彼のことを好きになってしまう。
 なら、それだけは阻止しなくてはいけない。
 例え、それが誰であろうと、その隣だけは譲るわけにはいかない。 


「「…………あははははっ。透ちゃん面白すぎっ」」

「笑いごとじゃないよ?本気だからね?」

「「あははははっ」」


 少しの怒りを込めて伝えるが、二人にはあまり伝わっていないのか余計に笑い出してしまいムッとする。
 

「……………………」

「あーごめん。怒らないでよー」

「ごめんって。揶揄ってるわけじゃないの」

「……なら、なに?」

 
 正直なところ、真剣な想いを笑われてかなり腹が立っていた。
 私にとっては本当に大事なことなので、そんな風に扱われて欲しいものではないから。


「なんか、普段の透ちゃんと違い過ぎたからさ」

「一言で言うと別人?そんな感じだった」

「………………」

「今までの透ちゃんってなんていうか、その、あんま何考えてるのかわかんなかったし」

「うんうん。そもそも自分のことほとんど話さないしね」

「……そう、だったかな」

「うん。それと、話合わせてる感じすごかった」

「…………そっか」


 もしかしたら、私は、自分が思っていた以上に上手にできていなかったのだろうか。
 隠せているつもりで、自分の頭が良いと思い込んで、その実馴染めていなかった。
 
 
「いや、ごめん。やっぱなし、冗談」

「……ううん、ありがとう。言ってくれて」

 
 なんでもできるつもりだった。
 だけど、こんな簡単なことにも私は今まで気づけなかった。
 
 いや、むしろ、このまま一生それに気づけない未来もあり得たはずだ。


「…………前と今の私、どっちがいいと思う?」

「え?そりゃ今だけど。ねぇ?」

「あ、うん。全然今のが良いと思うよ」

「……そっか」


 戸惑いながらも、真面目に答えてくれる二人に感謝する。
 そして、今更ながら気づいた。

 私自身が歩み寄る気持ちがなければ、そんなの近づけるはずが無いということに。
 

「ふふっ。なら、今日の夜は、恋バナだね」
 
「おっ、いいね!しよしよ。好きな人の名前も言い合って盛り上がろっ」

「それはヤダ」

「チッ、この流れでもダメか」

「ダメ」


 そんなことを言い合いながらなんとなく、三人で見つめ合っていると、その雰囲気に耐え切れなくなって誰ともなく笑い始める。


「「…………あははははっ」」
 
 
 ずっと、警戒して、自分を隠して生きてきた。それが一番いい事だと思って。

 でも、あの夜、誠君が歩み寄ってくれたからこそ、今の私がある。
 それなら、私も彼と同じようにしてみようと、そう思った。
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