人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

A

文字の大きさ
79 / 106
六章 -交わる関係-

Day1③緩やかな芽吹き

しおりを挟む
 ホテルからすぐの場所にあるビーチに到着し、バーベキュー場が併設された更衣室で着替えると海に向かう。


「うおー、めっちゃ海って感じする!」

「あははっ、何それ?バカ丸出しじゃん」


 そして、開始早々に千佳ちゃんが水に飛び込んでワカメを被りながら言った台詞に、葵ちゃんではないけど、少し笑えてきてしまう。


「桐谷って頭悪いもんな」

「確かに!テストの度にレッドカーペット作ってるし」

「もうっ!雄哉くん達まで止めてよ。私もやればできるんだから!ね?透ちゃん?」

 
 毎回、私のノートでギリギリ何とかなっているのを知っているので思わず苦笑する。
 それに思い返すと、授業中に起きているところをあまり見たこともない気がしてきた。


「うーん。まぁ、伸びしろはあるかな?」

「でしょ?伸びしろの塊だから」

「いや、千佳。それ喜ぶとこじゃないよ」

「え?そうなの?」

「「あははははっ」」


 周りから聞こえる楽しそうな笑い声が、以前はあまり好きではなかった。
 きっと、自分の内に隠した秘密が、化け物のような力が、暴かれてしまうことに内心ずっと怯えていた私は、心のどこかで何の悩みも無さそうに笑えている人たちに嫉妬していたからだと思う。

 心を読んで、ただひたすら自分の安全圏を守って、その日が何事も無くすぐに終わることだけに意識を向けていた。
 
 でも、今はそうじゃない。
 私の全てを、それこそ醜いところも全部知った上で受け入れてくれる人がいる。
 何があっても私を嫌わないで、ずっとそばにいて、一緒にこの先を歩いてくれる人がいる。
 

「…………もし、困ったら言ってね?力になるから」

「さすが透ちゃんっ!今度のテストもお願いしゃす!!」

「ははっ。やればできる子ならやれよ」

「私は、やらなくてもいいうちはやりません!遊びます」

 
 だから、私も一歩踏み込む勇気を持つことができる。
 周りから見たら気づけないほど些細なものだと思うけど、それでも私にとっては大きな一歩を。


「てか、今はそんなことよりビーチボールでもやろうぜ」

「いいね~!透ちゃんもやるよね?」

「……うん。やる」


 今まで私は、信頼できる人以外には力になるなんて、何とも取れるような曖昧な言葉で選択肢を与えることは無かった。
 それこそ、ノートを貸す、勉強を教える、などと明確な言葉だけを使って自分の内の線を引き続けてきた。

 きっと、こんな言葉遊びに気づく人はいないだろう。
 いや、むしろ気づけるような人がいたら、私と同じように拗らせた側の人間なのだと思う。


「じゃあ、チーム分けしよっか。ぐっとぱーでいいよね」

「「おっけー」」

「なら、いくよー」

「「せーの!はいっ」」


 今の私の心の中には、どんな場所でも、どんな時でも、誠君がいる。席替えなんてなくて、いつでも。

 それなら、もう怖いものなんて何もない。
 ずっと私は、最強だ。








◆◆◆◆◆






 ある程度遊び、沈む夕焼けもしっかりと見た後、調理と火おこしに分かれてバーベキューの準備を始めた。


「蓮見ちゃんだっけ?君、ほんとしっかりしてるんだね」(すごい包丁捌きだなー。皮が一回も途切れてない)

「いえ、一人暮らしなので、そのせいですよ」

「いやいや、俺も今は一人暮らしだけどここまで上手くは出来ないからね」(俺もある程度は出来る方だと思ってたけど、こりゃレベルが違うわ)


 ただ包丁で野菜を切っていただけなのに、お兄さんから感心したような声がかけられて少し驚く。


「そうなんですか?」

「ああ。中には、冷凍とかカップ麺ばかりで包丁すら持ってないやつもいるよ」(ビール缶しか冷蔵庫に無いやつもいるし)


 誠君とそのお父さんを除けばほとんど男の人と一緒の空間を共有したことが無いので知らなかったけれど、もしかしたら一人暮らしをしていても料理をしない男の人は多いのかもしれない。


「へー、知りませんでした。でも、お兄さんは普段からやってそうですよね」

「まぁ、俺アウトドアとか好きで。バイクツーリングがてらソロキャンプとかよくやるしそのせいかな」(あー、なんか。そんなこと話してたらバイク乗りたくなってきた)

「ふふっ。今もやりたそうな顔してますね」

 
 心の内を見なくてもわかるくらいウズウズとしたような表情を見て思わず笑えてきてしまう。
 誠君もお父さんとツーリングをした後のメッセージはいつも以上にスタンプが多かったし、それが好きな人にとっては、相当楽しいものらしい。


「あ、わかる?実はそうなんだよねー。元々、高校の時に内緒で免許取るくらい好きだったからさ」(あの時は母さんにめちゃくちゃ呆れられたけど、それもいい思い出だな)

「そうなんですか。私の身近にもそういう人がいるので、なんか他人事に聞こえませんね」

「そうなの?そりゃ気が合いそうな子だ」(へー、今時そんな子いるんだ)

「気は合うかもしれませんね。なんとなく、ですけど」


 その在り方とでもいうのだろうか。
 顔も、声も、歳もぜんぜん違うのに、この人からはなんとなく誠君に似たような雰囲気を感じる。
 
 それは、千佳ちゃんとの関わり方を見ていてもそうで、だからかもしれない、ほとんど初対面なのにとても話しやすい人だと思った。


「あっ、玉ねぎは俺やるからいいよ。こだわりのサイズがあるんだ」(目に沁みたら可哀想だしな)

「ふふっ。なら、任せます」


 話せば話すほどに、本当に、よく似ている。
 下心の無い綺麗な心の内や、さり気ない優しさ、そんなところが。


「おう。玉ねぎ奉行と呼んでくれ」(あれ?なんか言ってて思ったけどこれって完全に、窓際係長じゃね?)

「あははっ。じゃあ、私は肉奉行やっときますね」

「へへー。よろしくお頼み申すネギ」(まっ、この子ならなんでも卒なくやりそうだし)

「どんなキャラ付けなんですか」

「ははっ。俺も言っててよくわからなくなってきた」


 そんなことを言い合いながら、大皿に食材を並べていく。

 最初は付き添いが男の人と聞いて不安だったけれど、この人でよかった。
 妹に言われた映えるバーベキューのキーワードを思い出して、玉ねぎとにらめっこし始めた様子を見て、私は改めてそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ
恋愛
恋愛にも結婚にも程遠い、アラサー社畜女子が、溺愛×スローライフを手に入れるまでの軌跡。

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞ラストスパートなので24日火曜~27日金曜日まで連日投稿予定! 参加してるみんな!あと少しだよ頑張ろう!(>▽<)/作者ブル

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※スパダリは一人もいません笑

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

処理中です...