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六章 -交わる関係-
Day1③緩やかな芽吹き
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ホテルからすぐの場所にあるビーチに到着し、バーベキュー場が併設された更衣室で着替えると海に向かう。
「うおー、めっちゃ海って感じする!」
「あははっ、何それ?バカ丸出しじゃん」
そして、開始早々に千佳ちゃんが水に飛び込んでワカメを被りながら言った台詞に、葵ちゃんではないけど、少し笑えてきてしまう。
「桐谷って頭悪いもんな」
「確かに!テストの度にレッドカーペット作ってるし」
「もうっ!雄哉くん達まで止めてよ。私もやればできるんだから!ね?透ちゃん?」
毎回、私のノートでギリギリ何とかなっているのを知っているので思わず苦笑する。
それに思い返すと、授業中に起きているところをあまり見たこともない気がしてきた。
「うーん。まぁ、伸びしろはあるかな?」
「でしょ?伸びしろの塊だから」
「いや、千佳。それ喜ぶとこじゃないよ」
「え?そうなの?」
「「あははははっ」」
周りから聞こえる楽しそうな笑い声が、以前はあまり好きではなかった。
きっと、自分の内に隠した秘密が、化け物のような力が、暴かれてしまうことに内心ずっと怯えていた私は、心のどこかで何の悩みも無さそうに笑えている人たちに嫉妬していたからだと思う。
心を読んで、ただひたすら自分の安全圏を守って、その日が何事も無くすぐに終わることだけに意識を向けていた。
でも、今はそうじゃない。
私の全てを、それこそ醜いところも全部知った上で受け入れてくれる人がいる。
何があっても私を嫌わないで、ずっとそばにいて、一緒にこの先を歩いてくれる人がいる。
「…………もし、困ったら言ってね?力になるから」
「さすが透ちゃんっ!今度のテストもお願いしゃす!!」
「ははっ。やればできる子ならやれよ」
「私は、やらなくてもいいうちはやりません!遊びます」
だから、私も一歩踏み込む勇気を持つことができる。
周りから見たら気づけないほど些細なものだと思うけど、それでも私にとっては大きな一歩を。
「てか、今はそんなことよりビーチボールでもやろうぜ」
「いいね~!透ちゃんもやるよね?」
「……うん。やる」
今まで私は、信頼できる人以外には力になるなんて、何とも取れるような曖昧な言葉で選択肢を与えることは無かった。
それこそ、ノートを貸す、勉強を教える、などと明確な言葉だけを使って自分の内の線を引き続けてきた。
きっと、こんな言葉遊びに気づく人はいないだろう。
いや、むしろ気づけるような人がいたら、私と同じように拗らせた側の人間なのだと思う。
「じゃあ、チーム分けしよっか。ぐっとぱーでいいよね」
「「おっけー」」
「なら、いくよー」
「「せーの!はいっ」」
今の私の心の中には、どんな場所でも、どんな時でも、誠君がいる。席替えなんてなくて、いつでも。
それなら、もう怖いものなんて何もない。
ずっと私は、最強だ。
◆◆◆◆◆
ある程度遊び、沈む夕焼けもしっかりと見た後、調理と火おこしに分かれてバーベキューの準備を始めた。
「蓮見ちゃんだっけ?君、ほんとしっかりしてるんだね」(すごい包丁捌きだなー。皮が一回も途切れてない)
「いえ、一人暮らしなので、そのせいですよ」
「いやいや、俺も今は一人暮らしだけどここまで上手くは出来ないからね」(俺もある程度は出来る方だと思ってたけど、こりゃレベルが違うわ)
ただ包丁で野菜を切っていただけなのに、お兄さんから感心したような声がかけられて少し驚く。
「そうなんですか?」
「ああ。中には、冷凍とかカップ麺ばかりで包丁すら持ってないやつもいるよ」(ビール缶しか冷蔵庫に無いやつもいるし)
誠君とそのお父さんを除けばほとんど男の人と一緒の空間を共有したことが無いので知らなかったけれど、もしかしたら一人暮らしをしていても料理をしない男の人は多いのかもしれない。
「へー、知りませんでした。でも、お兄さんは普段からやってそうですよね」
「まぁ、俺アウトドアとか好きで。バイクツーリングがてらソロキャンプとかよくやるしそのせいかな」(あー、なんか。そんなこと話してたらバイク乗りたくなってきた)
「ふふっ。今もやりたそうな顔してますね」
心の内を見なくてもわかるくらいウズウズとしたような表情を見て思わず笑えてきてしまう。
誠君もお父さんとツーリングをした後のメッセージはいつも以上にスタンプが多かったし、それが好きな人にとっては、相当楽しいものらしい。
「あ、わかる?実はそうなんだよねー。元々、高校の時に内緒で免許取るくらい好きだったからさ」(あの時は母さんにめちゃくちゃ呆れられたけど、それもいい思い出だな)
「そうなんですか。私の身近にもそういう人がいるので、なんか他人事に聞こえませんね」
「そうなの?そりゃ気が合いそうな子だ」(へー、今時そんな子いるんだ)
「気は合うかもしれませんね。なんとなく、ですけど」
その在り方とでもいうのだろうか。
顔も、声も、歳もぜんぜん違うのに、この人からはなんとなく誠君に似たような雰囲気を感じる。
それは、千佳ちゃんとの関わり方を見ていてもそうで、だからかもしれない、ほとんど初対面なのにとても話しやすい人だと思った。
「あっ、玉ねぎは俺やるからいいよ。こだわりのサイズがあるんだ」(目に沁みたら可哀想だしな)
「ふふっ。なら、任せます」
話せば話すほどに、本当に、よく似ている。
下心の無い綺麗な心の内や、さり気ない優しさ、そんなところが。
「おう。玉ねぎ奉行と呼んでくれ」(あれ?なんか言ってて思ったけどこれって完全に、窓際係長じゃね?)
「あははっ。じゃあ、私は肉奉行やっときますね」
「へへー。よろしくお頼み申すネギ」(まっ、この子ならなんでも卒なくやりそうだし)
「どんなキャラ付けなんですか」
「ははっ。俺も言っててよくわからなくなってきた」
そんなことを言い合いながら、大皿に食材を並べていく。
最初は付き添いが男の人と聞いて不安だったけれど、この人でよかった。
妹に言われた映えるバーベキューのキーワードを思い出して、玉ねぎとにらめっこし始めた様子を見て、私は改めてそう思った。
「うおー、めっちゃ海って感じする!」
「あははっ、何それ?バカ丸出しじゃん」
そして、開始早々に千佳ちゃんが水に飛び込んでワカメを被りながら言った台詞に、葵ちゃんではないけど、少し笑えてきてしまう。
「桐谷って頭悪いもんな」
「確かに!テストの度にレッドカーペット作ってるし」
「もうっ!雄哉くん達まで止めてよ。私もやればできるんだから!ね?透ちゃん?」
毎回、私のノートでギリギリ何とかなっているのを知っているので思わず苦笑する。
それに思い返すと、授業中に起きているところをあまり見たこともない気がしてきた。
「うーん。まぁ、伸びしろはあるかな?」
「でしょ?伸びしろの塊だから」
「いや、千佳。それ喜ぶとこじゃないよ」
「え?そうなの?」
「「あははははっ」」
周りから聞こえる楽しそうな笑い声が、以前はあまり好きではなかった。
きっと、自分の内に隠した秘密が、化け物のような力が、暴かれてしまうことに内心ずっと怯えていた私は、心のどこかで何の悩みも無さそうに笑えている人たちに嫉妬していたからだと思う。
心を読んで、ただひたすら自分の安全圏を守って、その日が何事も無くすぐに終わることだけに意識を向けていた。
でも、今はそうじゃない。
私の全てを、それこそ醜いところも全部知った上で受け入れてくれる人がいる。
何があっても私を嫌わないで、ずっとそばにいて、一緒にこの先を歩いてくれる人がいる。
「…………もし、困ったら言ってね?力になるから」
「さすが透ちゃんっ!今度のテストもお願いしゃす!!」
「ははっ。やればできる子ならやれよ」
「私は、やらなくてもいいうちはやりません!遊びます」
だから、私も一歩踏み込む勇気を持つことができる。
周りから見たら気づけないほど些細なものだと思うけど、それでも私にとっては大きな一歩を。
「てか、今はそんなことよりビーチボールでもやろうぜ」
「いいね~!透ちゃんもやるよね?」
「……うん。やる」
今まで私は、信頼できる人以外には力になるなんて、何とも取れるような曖昧な言葉で選択肢を与えることは無かった。
それこそ、ノートを貸す、勉強を教える、などと明確な言葉だけを使って自分の内の線を引き続けてきた。
きっと、こんな言葉遊びに気づく人はいないだろう。
いや、むしろ気づけるような人がいたら、私と同じように拗らせた側の人間なのだと思う。
「じゃあ、チーム分けしよっか。ぐっとぱーでいいよね」
「「おっけー」」
「なら、いくよー」
「「せーの!はいっ」」
今の私の心の中には、どんな場所でも、どんな時でも、誠君がいる。席替えなんてなくて、いつでも。
それなら、もう怖いものなんて何もない。
ずっと私は、最強だ。
◆◆◆◆◆
ある程度遊び、沈む夕焼けもしっかりと見た後、調理と火おこしに分かれてバーベキューの準備を始めた。
「蓮見ちゃんだっけ?君、ほんとしっかりしてるんだね」(すごい包丁捌きだなー。皮が一回も途切れてない)
「いえ、一人暮らしなので、そのせいですよ」
「いやいや、俺も今は一人暮らしだけどここまで上手くは出来ないからね」(俺もある程度は出来る方だと思ってたけど、こりゃレベルが違うわ)
ただ包丁で野菜を切っていただけなのに、お兄さんから感心したような声がかけられて少し驚く。
「そうなんですか?」
「ああ。中には、冷凍とかカップ麺ばかりで包丁すら持ってないやつもいるよ」(ビール缶しか冷蔵庫に無いやつもいるし)
誠君とそのお父さんを除けばほとんど男の人と一緒の空間を共有したことが無いので知らなかったけれど、もしかしたら一人暮らしをしていても料理をしない男の人は多いのかもしれない。
「へー、知りませんでした。でも、お兄さんは普段からやってそうですよね」
「まぁ、俺アウトドアとか好きで。バイクツーリングがてらソロキャンプとかよくやるしそのせいかな」(あー、なんか。そんなこと話してたらバイク乗りたくなってきた)
「ふふっ。今もやりたそうな顔してますね」
心の内を見なくてもわかるくらいウズウズとしたような表情を見て思わず笑えてきてしまう。
誠君もお父さんとツーリングをした後のメッセージはいつも以上にスタンプが多かったし、それが好きな人にとっては、相当楽しいものらしい。
「あ、わかる?実はそうなんだよねー。元々、高校の時に内緒で免許取るくらい好きだったからさ」(あの時は母さんにめちゃくちゃ呆れられたけど、それもいい思い出だな)
「そうなんですか。私の身近にもそういう人がいるので、なんか他人事に聞こえませんね」
「そうなの?そりゃ気が合いそうな子だ」(へー、今時そんな子いるんだ)
「気は合うかもしれませんね。なんとなく、ですけど」
その在り方とでもいうのだろうか。
顔も、声も、歳もぜんぜん違うのに、この人からはなんとなく誠君に似たような雰囲気を感じる。
それは、千佳ちゃんとの関わり方を見ていてもそうで、だからかもしれない、ほとんど初対面なのにとても話しやすい人だと思った。
「あっ、玉ねぎは俺やるからいいよ。こだわりのサイズがあるんだ」(目に沁みたら可哀想だしな)
「ふふっ。なら、任せます」
話せば話すほどに、本当に、よく似ている。
下心の無い綺麗な心の内や、さり気ない優しさ、そんなところが。
「おう。玉ねぎ奉行と呼んでくれ」(あれ?なんか言ってて思ったけどこれって完全に、窓際係長じゃね?)
「あははっ。じゃあ、私は肉奉行やっときますね」
「へへー。よろしくお頼み申すネギ」(まっ、この子ならなんでも卒なくやりそうだし)
「どんなキャラ付けなんですか」
「ははっ。俺も言っててよくわからなくなってきた」
そんなことを言い合いながら、大皿に食材を並べていく。
最初は付き添いが男の人と聞いて不安だったけれど、この人でよかった。
妹に言われた映えるバーベキューのキーワードを思い出して、玉ねぎとにらめっこし始めた様子を見て、私は改めてそう思った。
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