93 / 106
幕章Ⅰ -シン・氷室家の人々-
囲んだ食卓
しおりを挟む
全員が席につくと、同じタイミングで手を合わせる。
「「いただきます」」
色付きのそうめんを取り合う早希ちゃんと誠君のお父さんに対し、瑛里華さんと誠君は静かに食事を進めていて、相変わらずだなと思わず苦笑してしまった。
「あっ、そういえば二人はどこかデート行かないの?」
「それそれ!聞きたかったっ!」
「え、いや、あの」
麺を啜っていたかと思えば、急に方向転換をしてこちらに詰め寄ってくる二人に思わずしどろもどろにしか返せない。
そして、助けを求めるように誠君の方を見ると、彼は少し考えた後口を開いた。
「特に行きたいところがないなら…………最近できた、ブックカフェとかはどうだ?」
「ブックカフェ?」
「ああ。名前の通り、本の読めるカフェだな」
中学を卒業してから、――いや、茜ちゃんと伊織ちゃんと会えなくなってから、あまり休日に何処かに行くことはしなくなった。
だから、そういった情報を集めることもなくなったし、そんな場所が出来ていることすら知らなかった。
でも、誠君も流行りものとか、新しいものにそれほど興味はないと思っていたけど違ったのだろうか。
「あーっ!それ私が貸した本に載ってたやつでしょ」
「そうだな。助かったよ」
「ふーん。珍しいと思ったら、やっぱりそういうことだったんだ!ひゅーひゅー、お熱いね~」
ニタニタというのが相応しいような表情を浮かべながら、早希ちゃんが誠君の脇を小突いている。
彼は、それをうっとうしそうに払いのけながらも、特に言い返すつもりはないようだった。
「どうだ?ちょっと行ってみたいんだが」
その言葉に、相変わらず、優しい人だと、素敵な人だと胸が温かくなる。
きっと、その場所を決めたのは、私が本が好きで、興味を惹かれるのがわかっているからだろう。
それに、あくまで自分を主体にして、私に気を遣わせないようにしているのが、心なんて読まなくても手に取るようにわかってしまった。
「……………………うん。私も行きたい」
「そうか」
わずかに感じる安堵した雰囲気に、愛おしさがこみ上げてくる。
何よりも、私を優先してくれているのが、大事にしてくれているのが伝わってくるから。
「いいねーラブラブで。なぁ、母さん?」
「…………あんまり、揶揄っちゃダメよ?」
自分の世界に入り込みそうになった瞬間、聞こえてきた声に我に返る。
そして、タガが外れようとしていた理性に、思わず恥ずかしさがこみ上げ、唇を噛みしめた。
「でも、やっぱりデートと言えば待ち合わせからだよね~。漫画でもそう決まってるし」
「さすがは我が娘!わかっているじゃないか。あの待った、今来たとこの掛け合いが最高なんだよなー」
勝手に盛り上がっていく二人に、瑛里華さんと誠君は我関せずといったように無視を続けている。
しかし、彼らにとってもターゲットはあくまで私のようで、その爛爛と輝く瞳に捉えられてしまった。
「「透ちゃんは、そういうのに憧れはない?」」
でも、不思議なことに、そこには強引さは一切ない。
あくまで私の気持ちを問いかける、そんな優しさが垣間見えて少しも嫌な気持ちになることはなかった。
「…………ある、かもしれないですね」
それが普通のものとは違っても、別に気にしなくてもいいと今ではわかっている。
けれど、確かにそれには心が惹かれてしまう。
まるでカップルのような、その掛け合いには、強く。
「「だってさ?」」
揶揄うような視線が誠君の方を向くも、彼は少しも照れた様子もなく、静かに頷いた。
「透が、それをしたいなら」
迷いのない一言に、こちらの方が逆に照れてきてしまう。
こんなところまで発揮される、そのブレない芯の真っ直ぐさに、高鳴る鼓動を抑えることができない。
私がすごく好きな、そんな部分だから、余計に。
「………………ありがとう」
「気にしなくていい。透が幸せなら、それだけで俺は嬉しいよ」
優しい笑みに、また頭がぼーっとしていくのを、足をつねって無理やり引き戻す。
これ以上はさすがに限界だ。
二人の時ならまだしも、今は自分の気持ちを抑えなければいけないので、私は戦略撤退を選ぶほかない。
「そっ、そういえば!早希ちゃんは宿題やったの!?まだだったら手伝うけど」
「え!?ほんとっ!?やった!」
「答えは教えられないから、ヒントまでだけどね?」
「ううん。それで十分!透ちゃん、すごい頭いいってお兄ちゃん言ってたし」
全く脈絡なく出された会話に瑛里華さんが苦笑しているのが横目に見える。
それでも、彼女は何も言うつもりは無いようで、むしろ話題を変えるのに協力してくれるようだった。
「そうね。もしよかったら見てあげてくれる?あくまで、自分に考えさせる方向で」
「はいっ!」
そして、私は満面の笑みでそう返事をする。
私のことを分かってくれる人たちがいる。
輪の中に入れてくれる人たちがいる。
それが何よりも、嬉しかったから。
「「いただきます」」
色付きのそうめんを取り合う早希ちゃんと誠君のお父さんに対し、瑛里華さんと誠君は静かに食事を進めていて、相変わらずだなと思わず苦笑してしまった。
「あっ、そういえば二人はどこかデート行かないの?」
「それそれ!聞きたかったっ!」
「え、いや、あの」
麺を啜っていたかと思えば、急に方向転換をしてこちらに詰め寄ってくる二人に思わずしどろもどろにしか返せない。
そして、助けを求めるように誠君の方を見ると、彼は少し考えた後口を開いた。
「特に行きたいところがないなら…………最近できた、ブックカフェとかはどうだ?」
「ブックカフェ?」
「ああ。名前の通り、本の読めるカフェだな」
中学を卒業してから、――いや、茜ちゃんと伊織ちゃんと会えなくなってから、あまり休日に何処かに行くことはしなくなった。
だから、そういった情報を集めることもなくなったし、そんな場所が出来ていることすら知らなかった。
でも、誠君も流行りものとか、新しいものにそれほど興味はないと思っていたけど違ったのだろうか。
「あーっ!それ私が貸した本に載ってたやつでしょ」
「そうだな。助かったよ」
「ふーん。珍しいと思ったら、やっぱりそういうことだったんだ!ひゅーひゅー、お熱いね~」
ニタニタというのが相応しいような表情を浮かべながら、早希ちゃんが誠君の脇を小突いている。
彼は、それをうっとうしそうに払いのけながらも、特に言い返すつもりはないようだった。
「どうだ?ちょっと行ってみたいんだが」
その言葉に、相変わらず、優しい人だと、素敵な人だと胸が温かくなる。
きっと、その場所を決めたのは、私が本が好きで、興味を惹かれるのがわかっているからだろう。
それに、あくまで自分を主体にして、私に気を遣わせないようにしているのが、心なんて読まなくても手に取るようにわかってしまった。
「……………………うん。私も行きたい」
「そうか」
わずかに感じる安堵した雰囲気に、愛おしさがこみ上げてくる。
何よりも、私を優先してくれているのが、大事にしてくれているのが伝わってくるから。
「いいねーラブラブで。なぁ、母さん?」
「…………あんまり、揶揄っちゃダメよ?」
自分の世界に入り込みそうになった瞬間、聞こえてきた声に我に返る。
そして、タガが外れようとしていた理性に、思わず恥ずかしさがこみ上げ、唇を噛みしめた。
「でも、やっぱりデートと言えば待ち合わせからだよね~。漫画でもそう決まってるし」
「さすがは我が娘!わかっているじゃないか。あの待った、今来たとこの掛け合いが最高なんだよなー」
勝手に盛り上がっていく二人に、瑛里華さんと誠君は我関せずといったように無視を続けている。
しかし、彼らにとってもターゲットはあくまで私のようで、その爛爛と輝く瞳に捉えられてしまった。
「「透ちゃんは、そういうのに憧れはない?」」
でも、不思議なことに、そこには強引さは一切ない。
あくまで私の気持ちを問いかける、そんな優しさが垣間見えて少しも嫌な気持ちになることはなかった。
「…………ある、かもしれないですね」
それが普通のものとは違っても、別に気にしなくてもいいと今ではわかっている。
けれど、確かにそれには心が惹かれてしまう。
まるでカップルのような、その掛け合いには、強く。
「「だってさ?」」
揶揄うような視線が誠君の方を向くも、彼は少しも照れた様子もなく、静かに頷いた。
「透が、それをしたいなら」
迷いのない一言に、こちらの方が逆に照れてきてしまう。
こんなところまで発揮される、そのブレない芯の真っ直ぐさに、高鳴る鼓動を抑えることができない。
私がすごく好きな、そんな部分だから、余計に。
「………………ありがとう」
「気にしなくていい。透が幸せなら、それだけで俺は嬉しいよ」
優しい笑みに、また頭がぼーっとしていくのを、足をつねって無理やり引き戻す。
これ以上はさすがに限界だ。
二人の時ならまだしも、今は自分の気持ちを抑えなければいけないので、私は戦略撤退を選ぶほかない。
「そっ、そういえば!早希ちゃんは宿題やったの!?まだだったら手伝うけど」
「え!?ほんとっ!?やった!」
「答えは教えられないから、ヒントまでだけどね?」
「ううん。それで十分!透ちゃん、すごい頭いいってお兄ちゃん言ってたし」
全く脈絡なく出された会話に瑛里華さんが苦笑しているのが横目に見える。
それでも、彼女は何も言うつもりは無いようで、むしろ話題を変えるのに協力してくれるようだった。
「そうね。もしよかったら見てあげてくれる?あくまで、自分に考えさせる方向で」
「はいっ!」
そして、私は満面の笑みでそう返事をする。
私のことを分かってくれる人たちがいる。
輪の中に入れてくれる人たちがいる。
それが何よりも、嬉しかったから。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※恋愛大賞ラストスパートなので24日火曜~27日金曜日まで連日投稿予定!
参加してるみんな!あと少しだよ頑張ろう!(>▽<)/作者ブル
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた
ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」
三十二歳、独身同士。
幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。
付き合ってもないのに。
夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。
断る理由が、ない。
こうして、交際0日で結婚することが決まった。
「とりあえず同棲すっか」
軽いノリで決まってゆく未来。
ゆるっとだらっと流れていく物語。
※本編は全7話。
※スパダリは一人もいません笑
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる