仕えているお嬢様が、ちょっとしたことですぐにラスボス化する件について

A

文字の大きさ
3 / 3

ー後日談ー 俺のお嬢様が、ちょっとしたことですぐに可愛くなる件について

しおりを挟む
 お互いの心臓の音が聞こえるほどの距離にいることで、お嬢様の心臓がとんでもなく早いビートを刻んでいることが分かる。恐らく、ドクターストップがかかってもおかしくない心拍数だろう。

 体も動かないので、その赤い綺麗な瞳をジッと見つめていると、顔を逸らされてしまった。



 そして、残念に思いながら俺が見るのをやめると、視線がまたこちらを向いたような気がしたのでもう一度相手の方を向く。

 だが、またもや、サッと顔を逸らされてしまう俺。


(目も赤いし、なんかウサギみたいで和むなぁ)


 少し楽しくなってきてしまった俺が、見る・逸らされるを繰り返していると、彼女の顔が真っ赤になっていった。



「もう、なんなのよ!!主人は私よ!?なんで私から逸らさなきゃいけないのよ!」

 
 彼女は俺から距離を取ると、地団駄を踏みながら、子供のような癇癪を起こしてそう言う。


「すみません。じゃあ、次からはあまりジロジロと見ないようにします」

「………………やっぱり、それはダメ」


 しおらしいお嬢様を見ていると、ついイジメたくなってしまうのは俺がガキだからだろうか。

 今までも軽口を叩くことはあったが、可愛いと思っていた子に熱烈な好意を示されるという、童貞の夢のような経験にどうやら俺は舞い上がってしまっているようだった。


「じゃあ、ずっと見てます」

「ふ、ふーん。そんなに私のことが見たいの?仕方のない男だこと」

「はい。お嬢様は可愛いので」

「あ、あ、あ、貴方!!ちょっと調子に乗ってるんじゃないの!?」


 初めてのモテ期なのでそこはご容赦頂きたいところだ。地味面、チートなしの、ザ・普通の日本人である俺にとっては、願っても無いほどの幸福なんだから。


「いやー、めちゃくちゃ嬉しくて。それに、もともとお嬢様をハッピーエンドにするために動いてたので、さっきの笑顔見たらもう、感慨深くて」


 本当に、長い日々だった。何度も戻って、その度に考えて、走り続けてきた。

 まさか、こんな結末で終わるとは思ってもみなかったけど、彼女が笑える最後が来て本当に良かった。


「本当に、本当に、よかった」

「…………貴方、泣いてるの?」

「そりゃ……泣きますよ。俺は、笑顔で終わる物語が大好きなんですから!だから、諦めなくて、本当に、よかった」


 言いながら、格好悪くも鼻水を垂らしながら泣いてしまう俺。世のイケメンたちのようにスマートになり切れないところが本当に俺らしい。
 

  

 だけど、彼女はそんな俺の頭を抱きかかえ、涙が服に着くのも気にせず優しく包んでくれた。



「私は、そんな貴方が大好きよ。地味で、普通で、気の利いた台詞も全く言えないけれど。そんなの関係ないくらい、優しくて、暖かかくて、真っ直ぐで。だからこそ、私は救われたの」



 まるで、世界を弄ぶ悪女のような外見の彼女は、慈愛に満ちた声とともに頭をそっと撫でてくれる。

 俺は、そんな素敵な彼女がこれまで悲しい人生を送ってきたことを不憫に思うとともに、誰にもその魅力が気づかれなかったことにほっと安堵した。










◆◆◆◆◆







 そのまましばらくして落ち着いてくると、母親にあやされる子供のような状態に少し気恥ずかしさを感じ始めた。


「すみません、恥ずかしいところをお見せして」

「ふふっ。本当にどうしようもないんだから」



 お嬢様は機嫌良さそうに笑っている。それはもう楽しそうに、幸せそうに。

 そして、その顔を見ながら、俺はまた一つ、自分の人生の目標を決めた。



「…………そんな、どうしようもない俺を、貴方は好きだと言ってくれました」

「え?あの、ちょ、え?」



 彼女をぐっと抱き寄せ、そのまま自分の腕の中に閉じ込めると、彼女の顔がリンゴのように真っ赤になっていく。


「俺は、頭もよくないし、特別な才能に溢れているわけでもない。それに、洒落た台詞なんて言えないし、気の利いたことができるわけでもない」


 最強チートなんて一切無い。ご都合主義なんてものからも蚊帳の外だ。
 


「だけど、そんな俺を貴方は特別にしてくれた」



 でも、そんな物なくても、俺はもう特別だ。なんたって、こんな可愛い女の子の愛を独り占めできるくらいなんだから。 



「貴方の泣き顔は何度も、何度も、それこそ嫌になるほど見てきました。なので俺は今、ここで誓います。今度はそれに負けないくらい笑顔にするって。この世の誰よりも幸せにするって」



 もう泣かせない、悲しませない。そう俺は自分に誓った。
 自分で決めた目標を一度も破ったことが無いのが、地味で、普通な俺にとって何よりの自慢だから。

 
「だからどうか、俺と一緒にこの先を歩んでくれませんか?」


 俺は彼女にその手を差し出す。これからは、一緒に悩みながら人生を送っていきたいから。俺だけでも、彼女だけでもなく、二人で。



「………………そんなの、答えは決まってるじゃない。聞くまでも無いわ」



 お嬢様はわがままで面倒くさい人だ。ぜんぜん素直じゃなくて、いつも回りくどい。 
 


「それは、失礼しました」

「ふん。反省しなさい」



 だけど今は、そのそっと重ねられた手が何よりもわかりやすい答えを俺に教えてくれる。
 
 そして、それとともに思ったのだ。俺の、俺だけのお嬢さまはやっぱり可愛いって。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

うさ
2022.04.02 うさ

とっても素敵なお話でした
本当は素直で可愛らしいお嬢様とずっと支えてきた主人公
お似合いのかわいい2人がずっと幸せでいられますように♪

2022.04.03 A

感想ありがとうございます。
どこか間の抜けた二人がこれからお互いに助けあっていけるといいなと願います。
たぶんお嬢様が拗ねて、仲直りしてを繰り返すと思いますが(笑)

解除

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

「その他大勢」の一人で構いませんので

和島逆
恋愛
社交界で『壁の花』ならぬ『壁のマンドラゴラ』という異名を持つマグダレーナ。 今日も彼女は夜会の壁に張りつき、趣味の人間観察に精を出す。 最近のお気に入りは、伯爵家の貴公子であるエリアス。容姿・家柄ともに申し分なく、年頃の令嬢たちから熱い視線を送られている。 そんなエリアスが選んだのは、なんと『壁のマンドラゴラ』であるマグダレーナで──? 「いや、わたしはあくまでも『その他大勢』の一人で構わないので」 マグダレーナは速攻で断りを入れるのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。