呪われた皇子様は、凡愚な令嬢を手放さない

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呪われた皇子様

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 楽し気な私の声に相手が戸惑っている様子が何となくわかる。
 まぁ、普通はそうだろう。こんな頭のおかしそうな女に驚かない方がおかしい。


「それで、先ほどのお言葉はどうなされますか?私は、貴方の望むとおりにいたしますが」

「…………俺は、自分の言葉を違えぬ。決してな」

「そう、ですか。ならば、これからよろしくお願いいたします」

「まだ、決まったわけでは無いだろう。こんな条件をお前の両親が呑まない可能性は十分ありえる」

「いいえ。お姿から察するに、かなり上位の方なのでしょう?仕えるとすれば、逆に喜ぶかもしれません」


 身に着けた服装に加えて、隠しもしない帯剣した姿は明らかに上位貴族のそれだ。
 あまり上流の社交界には出させて貰えないのでよくわからないが、もしかしたらかなり名高い方なのかもしれない。


「一つ言っておくが、私はお前を娶るめとるという意味で言ったわけでは無いぞ?」

「元よりそのつもりです。侍女でも、庭師でも、何なりとお使いください」

「それでも、両親は喜ぶと?」

「はい、きっと」


 別に憎まれているわけでは無いが、お父様も、お母様も私に何の価値も見出してはいない。
 少しでも価値を見出してくれる場所があれば、どこか高齢の貴族の後妻でも喜んで送り込むだろう。


「………………意志は変わらぬのだな。では、最後の確認だ」


 長い沈黙が続き、どこか諦めたようなため息をついた後、やがて仮面に手が伸ばされる。
 そして、ゆっくりとそれが外され月明かりに照らされると、そこには異質な変化をした顔があった。


「これでも、お前は私に仕えるか?」



 造形はとても整っており、まるで御伽噺に出てくる王子様のようだ。
 しかし、その顔は所々黒い鱗のようなものに覆われており、さらにはその片方の目は蛇のように縦長の瞳孔を携えていた。



「これは、一体」

「竜狩りを成した皇子の末路だ」

「竜狩り?それは、御伽噺の話では無いのですか?」

「実際にあったことだ。今では皇族しか、その事実は知らんだろうが」


 
 この国、世界に覇を唱えるダレイオス帝国の歴史は長い。
 そして、代々この国の皇族は強いうえ、様々な逸話が残されている。
 竜と相打ったとされる皇太子の話はその最たるものだろう。
 
 
「では、殿下とお呼びすればよいでしょうか?」

「……………………待て。他に何か無いのか?」

「当然、聞きたいことはあります。ですが、仕えるものが主の時間を奪うわけにも参りませんので」


 いつから生きているのか、どうしてそうなったのか、気になることはある。
 しかし、それはただの好奇心であって、もっと大事なものがあるなら、そちらを優先すべきだと思う。

 自分の気持ちと、この方の時間。どちらに価値があるかなど、明白なのだから。
 

「……本当に、変な女なのだな。それに、この姿を見て悲鳴を上げない女も初めてだ」

「可愛げがありませんか?申し訳ありません」


 無駄な努力だと気づいてからは、作り笑顔もあまりしないようになった。
 隣に100点の存在がいる中で、0点が1点になろうと、何も意味は無いようだったし。


「ふっ。まぁ、いいだろう。お前、名はなんという?」

「ルカと申します」

「よし、ルカ。お前をこの、ジーク・リ・ダレイオスに仕えることを許す」

「ありがとうございます」

 
 こうして、お互いのことをほとんど知らぬ間に私達の主従関係は始まった。
 だが不思議と不安は無い。

 いやむしろ、代わり映えのしない価値のない毎日、それが変わることに私は少しだけ胸を躍らせていたのだから。
 
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