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1話 転校生
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簡潔に言えば、一目惚れだ。
完膚なきまでにやられたような気分だった。
むすっと唇を尖らせて、不機嫌ですというオーラを隠さず歩く如月湊を、他の生徒が遠巻きで見ている。その視線する煩わしくてメガネの下から睨むと、周りにいた生徒たちが愛想笑いを浮かべて離れていく。
湊は校舎の端に位置する家庭科室の扉を勢いよく開く。立て付けが悪いその扉は勢いをつけないと開かないのだ。そして、運が悪いとびくともしない。早く直してくれと先生たちに抗議しても、のらりくらりと躱されるだけだった。
オンボロ学校め、と内心で愚痴りながら教室の中に入ると数人の生徒がいた。
真ん中の机を囲うように、一人の男子生徒と三人の女子生徒が座っている。
そこにいる男子生徒は湊が所属する手芸部の貴重な男部員の一人だった。
名前は、天道満。名前の通り元気な男で、よくイタズラをしては先生に怒られているちょっとした問題児だった。去年までは黒髪だったのに、高校二年生になった途端、髪を明るい茶色に染めてきて遅めの高校デビューをした男だ。
本人は本気でやったらしいのだが、普段のおちゃらけた雰囲気から周囲にはいじられて終わったそうだ。
女子生徒は腰まであるサラサラな髪の毛をした鈴木千枝、ショートヘアで丸いメガネをかけた天野梨沙、ふわふわとカールした髪の毛を持つ天然女子の小鳥遊優奈の三人がいた。
「あんたのクラスに転校生きたんでしょ?」
男まさりな梨沙は湊の腕を引っ張ると席に無理やり座らせてきた。興味津々といったように身を乗り出して湊が話すのを待っている。しかし、湊は口を尖らせて黙っているだけだった。
「ちょっと、どんなやつか教えてよ。かっこいい? 何が得意そう?」
「梨沙、あまりぐいぐいいったらこの子、逃げちゃうよ」
ミシンで縫い物をしていた千枝は梨沙を嗜める。しかしそれは湊に対する煽り以外の何者でもなかった。
「誰が、逃げるって?」
「あら、そんな不機嫌そうな顔してたから、てっきり思い出しくないことでもあったのかと」
「うぐ!」
図星を突かれた湊は胸の辺りを押さえて机に突っ伏した。
「え、え、大丈夫? 湊ちゃん、どこか痛いの?」
空気を読まずに会話に入ってきた優奈はスマートフォンを触るのをやめて、湊に注目する。湊の横で満が可哀想なものを見る目で湊を見ていた。
「保健室行く? 私、保健委員だから色々場所知ってるよ?」
「やめてやれよ……こいつに必要なのは、多分保健室じゃないぜ」
「そうなの? なら、おまじないしてあげようか?」
そういうと優奈は席を立ち、湊の方までやってくる。そして、背中をさすりながら「痛いの痛いの、飛んでいけー」と呪文を唱えた。
優奈は期待に満ちた瞳で湊の顔を覗き込んでいる。そして、目の前からは優奈の保護者気取りの二対の瞳がじっと湊を見ていた。下手なことを言えば首が飛ぶぞ、と言われているような気分だった。
「……ありがとう。もう大丈夫だ」
「そっか! なら安心だね!」
悪気も何もない善意が時には毒になるのだ。そんなことを考えながら、椅子に座り直す。
完膚なきまでにやられたような気分だった。
むすっと唇を尖らせて、不機嫌ですというオーラを隠さず歩く如月湊を、他の生徒が遠巻きで見ている。その視線する煩わしくてメガネの下から睨むと、周りにいた生徒たちが愛想笑いを浮かべて離れていく。
湊は校舎の端に位置する家庭科室の扉を勢いよく開く。立て付けが悪いその扉は勢いをつけないと開かないのだ。そして、運が悪いとびくともしない。早く直してくれと先生たちに抗議しても、のらりくらりと躱されるだけだった。
オンボロ学校め、と内心で愚痴りながら教室の中に入ると数人の生徒がいた。
真ん中の机を囲うように、一人の男子生徒と三人の女子生徒が座っている。
そこにいる男子生徒は湊が所属する手芸部の貴重な男部員の一人だった。
名前は、天道満。名前の通り元気な男で、よくイタズラをしては先生に怒られているちょっとした問題児だった。去年までは黒髪だったのに、高校二年生になった途端、髪を明るい茶色に染めてきて遅めの高校デビューをした男だ。
本人は本気でやったらしいのだが、普段のおちゃらけた雰囲気から周囲にはいじられて終わったそうだ。
女子生徒は腰まであるサラサラな髪の毛をした鈴木千枝、ショートヘアで丸いメガネをかけた天野梨沙、ふわふわとカールした髪の毛を持つ天然女子の小鳥遊優奈の三人がいた。
「あんたのクラスに転校生きたんでしょ?」
男まさりな梨沙は湊の腕を引っ張ると席に無理やり座らせてきた。興味津々といったように身を乗り出して湊が話すのを待っている。しかし、湊は口を尖らせて黙っているだけだった。
「ちょっと、どんなやつか教えてよ。かっこいい? 何が得意そう?」
「梨沙、あまりぐいぐいいったらこの子、逃げちゃうよ」
ミシンで縫い物をしていた千枝は梨沙を嗜める。しかしそれは湊に対する煽り以外の何者でもなかった。
「誰が、逃げるって?」
「あら、そんな不機嫌そうな顔してたから、てっきり思い出しくないことでもあったのかと」
「うぐ!」
図星を突かれた湊は胸の辺りを押さえて机に突っ伏した。
「え、え、大丈夫? 湊ちゃん、どこか痛いの?」
空気を読まずに会話に入ってきた優奈はスマートフォンを触るのをやめて、湊に注目する。湊の横で満が可哀想なものを見る目で湊を見ていた。
「保健室行く? 私、保健委員だから色々場所知ってるよ?」
「やめてやれよ……こいつに必要なのは、多分保健室じゃないぜ」
「そうなの? なら、おまじないしてあげようか?」
そういうと優奈は席を立ち、湊の方までやってくる。そして、背中をさすりながら「痛いの痛いの、飛んでいけー」と呪文を唱えた。
優奈は期待に満ちた瞳で湊の顔を覗き込んでいる。そして、目の前からは優奈の保護者気取りの二対の瞳がじっと湊を見ていた。下手なことを言えば首が飛ぶぞ、と言われているような気分だった。
「……ありがとう。もう大丈夫だ」
「そっか! なら安心だね!」
悪気も何もない善意が時には毒になるのだ。そんなことを考えながら、椅子に座り直す。
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