ハッピーシュガーソーダ

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1話 転校生

1-3

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「それで、転校生はどんな子?」

「……明るくて、裏表のなさそうな呑気なやつ…………に見えた」

 ひまわりのように明るい笑顔を見せた転校生のことを思い出す。人に愛されるやつは、こういうやつなんだろうな、と自然と納得した。

「へぇ、いいやつそうで良かったじゃん」

 満はどこからか縫い掛けのぬいぐるみを取り出して続きを作り始める。転校生についてはそこまで興味がなさそうだった。

「それで? ちょっとは喋ったの?」

 梨沙が諦めずに湊に詰め寄る。その圧力に嫌そうな顔をしながらも湊は口を開く。

「喋った……でも、本当にちょっとだけだ」
 

 湊は今日のことを思い出す。


 湊の後ろの席になった千秋は、ホームルーム中なのにも関わらず湊に話しかけてきた。

「なぁ、お前、名前なんていうん? あ、俺は千秋な……て、もう知っとるか!」

 何が面白いのか一人でボケて、一人でツッコミを入れていた。そして、先生にバレないように湊の後ろでくすくす笑っている。先ほどとはちょっと変わった、イタズラした猫のような笑い方に湊の心臓もドキッと跳ねる。

「なぁなぁ、お前の名前も教えてくれよ、な?」

 ひとしきり笑った後、千秋は片手でお願いのポーズを作ると軽率にウィンクしてきた。その表情に言葉を詰まらせながら、湊はなんとか自分の名前を伝える。

「如月、湊……」

「へぇ、ええ名前やな! なぁ、他にはなんかないん?」

「何かってなんだよ」

「えー、うーん。そやなぁ……じゃあ、たとえば好きなやつとかおるん?」

「なっ…………ってぇ!」

 千秋の質問に湊はてっきり自分の心の内を読まれたのかと思って盛大に慌てた。その場から立ちあがろうとしたことで太ももを机にぶつけ、悶絶した。

 クラス中の視線が湊に注がれる。一瞬の静寂の後、誰かが吹き出すように笑い始める。そしてそれがクラス中に伝播するように大きな笑いへと変わっていく。クラスの中心で、湊は恥ずかしさから耳まで真っ赤にして体を震わせた。

 湊の後ろでは千秋が申し訳なさそうに謝っていたが、湊には届いていなかった。

「あらあら、神原さんがきて嬉しいのはわかるけど、はしゃいじゃダメよ」

 担任の中川先生にも注意されて、クラスはもう一度ドッと湧き上がった。

 湊は深呼吸をして気持ちを落ち着かせながら、ゆっくりと席に座った。今度こそ真面目に前を向いていようと決意を固めたところに、千秋が背中を軽く叩いてきた。無視するのも悪いかと思って、顔だけ後ろを向くと千秋が「悪かった」と小さく謝っていた。

 湊は小さく頷いてその謝罪を受け入れた。
 そのあとは、転校生の千秋は放課になるたびにクラスメイトに捕まっていた。男にしては華奢で、小動物のように可愛がりたくなる見た目をしているからか、湊の後ろで楽しそうに和気藹々としている。

 意識しないようにしても無駄だった。

 声が、仕草が、全てが湊のストライクゾーンに当たっていた。

 別に湊は千秋が公言したような同性愛者ではない。普通にクラスの男子が持ってきたエロ本を見て騒いだり、人並に異性に対しての興味だってある。

 だけど、それを横に置いておいても、なお千秋の容姿や話し方が好きだと思った。

 ひまわりのように晴れやかに笑い、自分の信念を貫いている彼は、かっこいいと思ってしまったのだ。


 ――同性愛者なんて、言わなくてもいいことだったはずなのに。


 そんなことを考えながら、一日が終わり、今に至るわけだが。
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