4 / 28
1話 転校生
1-4
しおりを挟む
「つまり、あなたは日和って逃げてきたのね」
「違う! 俺はただ……話すタイミングがなかっただけで……」
千枝の指摘に湊は大きな声で否定しながらも、口ごもった。話せなかったのは事実だったから。
「ふーん。湊が誰かに興味を示すなんて珍しいから、私も会いに行ってみようかな」
ニヤニヤと笑う梨沙を見て湊は露骨に嫌な顔を見せる。
転校生の顔を見にくるのは百歩譲っていいとして、そんな転校生にあたふたしている自分を見られるのは我慢ならなかった。
「あら、すごい顔になってるよ。湊さん、本当にわかりやすいわね」
「本当だー! 湊ちゃん、一人で百面相してるー! あ、私も変顔してみようか?」
スマートフォンをいじりながら話を聞いていた優奈が顔を歪めて笑わせにきた。その顔を見た全員があまりのおかしさに笑いが溢れてしまう。
「あはは、みんな笑ったー! これ、私の家直伝の変顔なんだよー」
そういうともう一度優奈は変顔をして見せる。梨沙と満のツボに入ったのか、作業の手を止めて腹を抱えて笑っている。千枝は涼しい顔をして微笑を湛えている。
湊はいつものように場の空気を読まない行動に呆れつつも、不器用に笑う。
和やかな雰囲気を壊すように建て付けの悪い扉が開けられた。
全員がびっくりして入り口を見ると、そこには柔らかい金色の短髪を持つ、小柄な男子生徒――千秋が立っていた。
千秋は入り口のところから教室の中を見渡す。湊を見つけるとパァッとわかりやすく笑顔を見せた。
「ここにおったんやなぁ! 随分と探してもうたわ」
ニコニコと笑いながら近づいてくる千秋に、湊は素早く立ち上がって一歩後ろに逃げる。他の四人は噂の転校生をまじまじと観察しているだけで、誰も千秋のことを止めようとする人はいなかった。
むしろこれから起きることを楽しみにしているかのように目が輝いている。
裏切り者どもめ、とないしん毒を吐きながらどんどん近づく千秋から視線が離せなかった。
千秋は湊の近くまでまっすぐ来ると、湊の手を取って満面の笑みを向ける。
「なぁ、如月。お前に頼み事あってん」
ぎゅっと握られた手が熱をもつ。手汗が溢れてきて、今すぐ千秋の手を振り払いたかったが、そうすることはできなかった。
こんな笑顔を見せられたら、どんな凶暴な動物も牙を抜かれてしまうだろう。
いや、湊に至っては惚れた弱みなのかもしれないが――。
また一人で百面相している湊を見て、千秋はおかしそうに笑う。そして、湊にこう言った。
「俺、全然この学校のこと知らんからさ、この学校の案内してくれへん?」
「違う! 俺はただ……話すタイミングがなかっただけで……」
千枝の指摘に湊は大きな声で否定しながらも、口ごもった。話せなかったのは事実だったから。
「ふーん。湊が誰かに興味を示すなんて珍しいから、私も会いに行ってみようかな」
ニヤニヤと笑う梨沙を見て湊は露骨に嫌な顔を見せる。
転校生の顔を見にくるのは百歩譲っていいとして、そんな転校生にあたふたしている自分を見られるのは我慢ならなかった。
「あら、すごい顔になってるよ。湊さん、本当にわかりやすいわね」
「本当だー! 湊ちゃん、一人で百面相してるー! あ、私も変顔してみようか?」
スマートフォンをいじりながら話を聞いていた優奈が顔を歪めて笑わせにきた。その顔を見た全員があまりのおかしさに笑いが溢れてしまう。
「あはは、みんな笑ったー! これ、私の家直伝の変顔なんだよー」
そういうともう一度優奈は変顔をして見せる。梨沙と満のツボに入ったのか、作業の手を止めて腹を抱えて笑っている。千枝は涼しい顔をして微笑を湛えている。
湊はいつものように場の空気を読まない行動に呆れつつも、不器用に笑う。
和やかな雰囲気を壊すように建て付けの悪い扉が開けられた。
全員がびっくりして入り口を見ると、そこには柔らかい金色の短髪を持つ、小柄な男子生徒――千秋が立っていた。
千秋は入り口のところから教室の中を見渡す。湊を見つけるとパァッとわかりやすく笑顔を見せた。
「ここにおったんやなぁ! 随分と探してもうたわ」
ニコニコと笑いながら近づいてくる千秋に、湊は素早く立ち上がって一歩後ろに逃げる。他の四人は噂の転校生をまじまじと観察しているだけで、誰も千秋のことを止めようとする人はいなかった。
むしろこれから起きることを楽しみにしているかのように目が輝いている。
裏切り者どもめ、とないしん毒を吐きながらどんどん近づく千秋から視線が離せなかった。
千秋は湊の近くまでまっすぐ来ると、湊の手を取って満面の笑みを向ける。
「なぁ、如月。お前に頼み事あってん」
ぎゅっと握られた手が熱をもつ。手汗が溢れてきて、今すぐ千秋の手を振り払いたかったが、そうすることはできなかった。
こんな笑顔を見せられたら、どんな凶暴な動物も牙を抜かれてしまうだろう。
いや、湊に至っては惚れた弱みなのかもしれないが――。
また一人で百面相している湊を見て、千秋はおかしそうに笑う。そして、湊にこう言った。
「俺、全然この学校のこと知らんからさ、この学校の案内してくれへん?」
10
あなたにおすすめの小説
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
好きです、今も。
めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。
ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
僕を守るのは、イケメン先輩!?
刃
BL
僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる