ハッピーシュガーソーダ

豆茶

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1話 転校生

1-4

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「つまり、あなたは日和って逃げてきたのね」

「違う! 俺はただ……話すタイミングがなかっただけで……」

 千枝の指摘に湊は大きな声で否定しながらも、口ごもった。話せなかったのは事実だったから。

「ふーん。湊が誰かに興味を示すなんて珍しいから、私も会いに行ってみようかな」

 ニヤニヤと笑う梨沙を見て湊は露骨に嫌な顔を見せる。

 転校生の顔を見にくるのは百歩譲っていいとして、そんな転校生にあたふたしている自分を見られるのは我慢ならなかった。

「あら、すごい顔になってるよ。湊さん、本当にわかりやすいわね」

「本当だー! 湊ちゃん、一人で百面相してるー! あ、私も変顔してみようか?」

 スマートフォンをいじりながら話を聞いていた優奈が顔を歪めて笑わせにきた。その顔を見た全員があまりのおかしさに笑いが溢れてしまう。

「あはは、みんな笑ったー! これ、私の家直伝の変顔なんだよー」

 そういうともう一度優奈は変顔をして見せる。梨沙と満のツボに入ったのか、作業の手を止めて腹を抱えて笑っている。千枝は涼しい顔をして微笑を湛えている。

 湊はいつものように場の空気を読まない行動に呆れつつも、不器用に笑う。

 和やかな雰囲気を壊すように建て付けの悪い扉が開けられた。


 全員がびっくりして入り口を見ると、そこには柔らかい金色の短髪を持つ、小柄な男子生徒――千秋が立っていた。


 千秋は入り口のところから教室の中を見渡す。湊を見つけるとパァッとわかりやすく笑顔を見せた。

「ここにおったんやなぁ! 随分と探してもうたわ」

 ニコニコと笑いながら近づいてくる千秋に、湊は素早く立ち上がって一歩後ろに逃げる。他の四人は噂の転校生をまじまじと観察しているだけで、誰も千秋のことを止めようとする人はいなかった。

 むしろこれから起きることを楽しみにしているかのように目が輝いている。

 裏切り者どもめ、とないしん毒を吐きながらどんどん近づく千秋から視線が離せなかった。

 千秋は湊の近くまでまっすぐ来ると、湊の手を取って満面の笑みを向ける。

「なぁ、如月。お前に頼み事あってん」

 ぎゅっと握られた手が熱をもつ。手汗が溢れてきて、今すぐ千秋の手を振り払いたかったが、そうすることはできなかった。

 こんな笑顔を見せられたら、どんな凶暴な動物も牙を抜かれてしまうだろう。


 いや、湊に至っては惚れた弱みなのかもしれないが――。


 また一人で百面相している湊を見て、千秋はおかしそうに笑う。そして、湊にこう言った。

「俺、全然この学校のこと知らんからさ、この学校の案内してくれへん?」
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