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2話 学校案内
2-3
春の日差しに少し冷たい風が心地よかった。どこからかホトトギスの鳴き声も聞こえてきた。
運動場では野球部や陸上部に所属する生徒たちが練習に励んでいた。
「あそこに見えとるんが弓道場か?」
外に出ると千秋は真っ先に運動場の端に位置する建物を指差した。湊はその質問に小さく頷いて応えた。
千秋は嬉しそうに走り出して、少し先に行ったところでピタリと足を止めた。そしてくるりと体を回転させると、湊に向かって手を振った。
「おーい、如月! 早く来いよ!」
置いていってくれても別に構わなかったが、待っていてくれる優しさが素直に嬉しいと思った。
眉間に皺を寄せながらもフッと口元を緩める。
それを正面から見ていた千秋は「なんや」と声をかける。声に釣られるように視線を向けると、千秋は優しく微笑んでいた。
「如月、お前もちゃんと笑えるんやな」
ハッとして湊は手で口元を覆う。急激にどくどくと波打ち始める心臓に冷や汗がぶわっと溢れる。千秋の言ったことが理解できなくて困惑する。
――笑う? 俺が?
戸惑っていると千秋が近寄ってきて背中を思いっきり叩いてきた。その衝撃で意識を今に引き戻す。
「そんな困らんでもええやん。笑えるっちゅうのは大事なことやで! どんな感情でも外に出したもん勝ちやからな」
「……なんで。なんなんだよ、お前」
千秋がきてから湊の心はぐちゃぐちゃだった。
ずっと波風立たせずに、静寂の中で過ごしてきたのに。最初こそ、そっと湊の心に入ってきた千秋は、今では大きな波の中心にいる。
誰にも邪魔されない、この場所で蹲っているのが自分にはお似合いなのに、千秋の瞳がそれを許さない。
下手に気持ちを表に出せばよくないことが待っていると経験から知っていた。
なのに、千秋は湊の心をかき乱して、隠していたものを暴こうとする。
手芸部の仲間にも、触れさせなかった湊の心の奥に彼は平然と手を伸ばす。
「何が言いたいんだよ、お前。俺をどうしたいんだよ!」
千秋の手を思いっきり振り払う。思いの外大きな声が出て、それが聞こえた周囲の生徒がなんだろうと二人を見ている。しかし、そんな視線にも湊は気が付いていなかった。
「……言ったやろ。俺は、お前と――如月と友達になりたいんや」
ただ、真っ直ぐに湊を見つめる、黄褐色の瞳から目が離せなかった。
「俺は、今日来たばっかりで、そりゃあ警戒されるのもしゃーないけど……それでも、如月がええんや。それじゃあ、あかんか?」
真剣な眼差しでそう言った後、千秋は拗ねたように口を尖らせる。湊は言葉に詰まり、何も言えなくなる。
「如月のことを知りたいのは本当や。だけど、別に全てを暴きたいわけやない。今の如月が話せることを知りたいんや」
「……なんで、俺なんだよ」
「ん? そんなの決まっとるやろ」
千秋は教壇に立って、今日から一緒に過ごすクラスメイトを見渡した時のことを思い出す。
運動場では野球部や陸上部に所属する生徒たちが練習に励んでいた。
「あそこに見えとるんが弓道場か?」
外に出ると千秋は真っ先に運動場の端に位置する建物を指差した。湊はその質問に小さく頷いて応えた。
千秋は嬉しそうに走り出して、少し先に行ったところでピタリと足を止めた。そしてくるりと体を回転させると、湊に向かって手を振った。
「おーい、如月! 早く来いよ!」
置いていってくれても別に構わなかったが、待っていてくれる優しさが素直に嬉しいと思った。
眉間に皺を寄せながらもフッと口元を緩める。
それを正面から見ていた千秋は「なんや」と声をかける。声に釣られるように視線を向けると、千秋は優しく微笑んでいた。
「如月、お前もちゃんと笑えるんやな」
ハッとして湊は手で口元を覆う。急激にどくどくと波打ち始める心臓に冷や汗がぶわっと溢れる。千秋の言ったことが理解できなくて困惑する。
――笑う? 俺が?
戸惑っていると千秋が近寄ってきて背中を思いっきり叩いてきた。その衝撃で意識を今に引き戻す。
「そんな困らんでもええやん。笑えるっちゅうのは大事なことやで! どんな感情でも外に出したもん勝ちやからな」
「……なんで。なんなんだよ、お前」
千秋がきてから湊の心はぐちゃぐちゃだった。
ずっと波風立たせずに、静寂の中で過ごしてきたのに。最初こそ、そっと湊の心に入ってきた千秋は、今では大きな波の中心にいる。
誰にも邪魔されない、この場所で蹲っているのが自分にはお似合いなのに、千秋の瞳がそれを許さない。
下手に気持ちを表に出せばよくないことが待っていると経験から知っていた。
なのに、千秋は湊の心をかき乱して、隠していたものを暴こうとする。
手芸部の仲間にも、触れさせなかった湊の心の奥に彼は平然と手を伸ばす。
「何が言いたいんだよ、お前。俺をどうしたいんだよ!」
千秋の手を思いっきり振り払う。思いの外大きな声が出て、それが聞こえた周囲の生徒がなんだろうと二人を見ている。しかし、そんな視線にも湊は気が付いていなかった。
「……言ったやろ。俺は、お前と――如月と友達になりたいんや」
ただ、真っ直ぐに湊を見つめる、黄褐色の瞳から目が離せなかった。
「俺は、今日来たばっかりで、そりゃあ警戒されるのもしゃーないけど……それでも、如月がええんや。それじゃあ、あかんか?」
真剣な眼差しでそう言った後、千秋は拗ねたように口を尖らせる。湊は言葉に詰まり、何も言えなくなる。
「如月のことを知りたいのは本当や。だけど、別に全てを暴きたいわけやない。今の如月が話せることを知りたいんや」
「……なんで、俺なんだよ」
「ん? そんなの決まっとるやろ」
千秋は教壇に立って、今日から一緒に過ごすクラスメイトを見渡した時のことを思い出す。
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