ハッピーシュガーソーダ

豆茶

文字の大きさ
9 / 28
2話 学校案内

2-4

しおりを挟む


 興味、関心、期待――。


 いろんな眼差しが千秋を射抜く中、一人だけ目を丸くして何かに驚いたような顔をしていた。

 過去に出会っているとか、そんなアニメみたいな展開はなく。正真正銘、初対面なのにその生徒はじっと千秋のことを見ていた。

 無表情なのに、大きく見開かれた瞳は花火が打ち上がったようにキラキラと輝いていた。

 その瞳に囚われた時、なぜだか千秋はその生徒のことを知りたいと心から思った。


 もしかしたら、それは運命的出会いというのかもしれない――。



「お前の目が、俺のことを知りたいって言ってたからや」
「……なんだよ、それ。そんなの、お前の勝手な妄想じゃないか」
「そうかもしれんな。だけど、正解やろ?」

 自信ありげに言うその様子に湊は唇を噛み締める。

 なぜなら、千秋の言ったことは間違いじゃなかったから、何も言えなかった。

 真っ直ぐに湊を見つめる千秋の視線から逃げるように顔を俯かせる。

「ちょっとずつでええんや。だから、俺と仲良くしてくれんか?」

 逃げた視線を追いかけるように千秋は覗き込んできた。

 バチっと視線が絡み合う。千秋の瞳が不安そうに揺れていることに、その時になって気が付いた。


 ――こいつも、不安に思うんことあるんだな。


 そう考えた時、湊は気がついたら頷いていた。

「……わかった。わかったから、いい加減離れろ」

 ため息を吐きながら千秋の体を押す。千秋はきょとんとした顔を見せた後、相好を崩した。

 そして、せっかく体を離したのに飛びつくように湊の体に抱きついてきた。

「や、やめろ! 離れろって!」
「ええやないか、ええやないか!」

 ニコニコと嬉々として笑う千秋の体を押し返すのに、それ以上の力で彼は抱きついてきた。

 必要以上に近づいてくるやつは苦手なはずだった。なのに、千秋が近くに来るのは思ったより嫌ではなかった。

 むしろ、心臓がさっきよりも早く波打つほど、気持ちが乱される感じがした。


 ――どうして俺の心臓はこいつのせいでまた跳ねるんだ……!


 湊は自分の感情のコントロールがうまくできなくて、イラついてくる。

 だけど、それは嫌なものではなく、どこか心地良いものだった。

 次第に抵抗する力は弱くなっていき、最後には諦めたように肩の力を抜いて千秋の好きなようにさせた。

 それが千秋にも伝わったのか、抱きつく力が強くなる。

 人に触られるのは嫌なはずなのに、と考える。


 ――でも、こいつに触られるのは嫌な感じがしない。むしろ、温かくてむず痒い……なんなんだ、この気持ちは。


 むすっと顔を顰めてどれだけ考えても答えは見つかりそうになかった。

 だけど、千秋とならその答えも見つかるような予感がした。

 湊はぐりぐりと頭を押し付けてくる千秋のうなじを見つめる。


「…………神原」


 その名前を口に出した時、湊の心臓がドクン、と熱く跳ねたのが自分でもわかった。

 とても小さな声でつぶやいたが、千秋の耳にははっきりと伝わったのかピタリと動きが止まる。

 そしてガバッと顔をあげると、太陽の光に照らされてキラキラと光る瞳と湊の瞳がバチっと絡まる。


「やっと、名前を呼んでくれたな」


 ニカっと笑う彼に湊の心臓は性懲りも無く跳ねる。この笑顔を見せられると湊は何も言えなくなる。

「名前くらい……別に呼べる……」

「あはは! それでも俺が嬉しいんや。ほら名前を呼ぶって相手を見てるってことやろ? 如月が初めてちゃんと俺を見てくれたんやって思うたら、そりゃあ嬉しくもなるやろ!」

 そう言いながら千秋は体を離し、千秋の手を握る。引っ張るように歩き出す背中を見つめる。

「これからいろんなことしような。如月となら、きっと楽しい毎日になる気するんや!」

 千秋の言葉に、見えないとわかっていても湊は自然と頷いていた。千秋の感じているものを湊も感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

好きです、今も。

めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。 ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

推し活で出会った人と

さくら優
BL
二次元男性アイドルにハマっている川瀬理人は、ぼっち参戦したライブで隣の席になった人と翌日偶然再会。食事に誘われ、初の推し友に浮かれる理人だったのだけれど―― ※この物語はフィクションであり、実際の人物·団体·既存のコンテンツとは関係ありません。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...