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2話 学校案内
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しおりを挟む「ま、そういうことだから如月も少し見学していけ。それで、よかったらうちと兼部でもしてくれよな!」
「……勝手すぎる。なんでこんなことに……ていうか、入らないって言ってるでしょ!」
疲れたように肩を落とす湊に剛志は背中を叩きながら射場の後ろに連れていく。そこでは弓を討ち終わった生徒たちが順番待ちをしていた。
その生徒たちのそばを通って剛志が全体を見渡せる場所に座る。湊もその隣に渋々と腰を下ろす。
限界まで引き延ばされた弦をそれぞれのタイミングでパッと離す。すると矢はまっすぐに的に向かって飛んでいく。飛んでいった矢の中には的から外れるものも、的に当たるものもある。結果がどうであれ、矢を放った生徒たちは放ち終わったままの姿勢で冷静に矢の軌道を見ていた。
その所作はどれを見ても美しいと思えた。
他の運動部のように、激しく競い合うような競技ではないが、日本の伝統的な美しさがそこにはあった。
そんなことを考えていると、弓道着に身を包んだ千秋が雄大と一緒に射場に戻ってくる。白い上衣に深い紺色の袴を着た千秋は、先ほどまでの元気な様子から一変、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
隣にいる雄大と何かを話した後、スペースの開いた場所に立ち、位置を決める。
その場で足踏みをして、正しい姿勢を作った時、不意に千秋は後ろを振り返った。
千秋の視線が湊の方を向き、ドキッと心臓が跳ねる音がした。
千秋はしばらくジッと湊を見つめた後、ニッと不敵に笑った。まるで、よそ見すんなよ、と言われているようだった。
その瞬間、千秋が招き込んだようにフワッと風が吹く。湊の肩まである髪がふわりと舞い上がる。
――誰がよそ見なんてするかよ。
そう考えた湊の目は他の部員には向かず、ひたすら目の前の千秋に釘付けだった。
千秋は満足そうに頷くと、再び前を見据えた。
弓をゆっくりと構えていき、静かに両拳を同じ高さに持ち上げる。そして、ゆっくりと弓を左右均等に引いていくと、ピタッと手が止まる。
限界まで引き絞られた弓がギリギリと小刻みに震える。
構えた矢のように鋭い瞳がその瞬間を待っていた。
緊張感に包まれた空気の中で、湊が静かに息を呑んだ時、全ての時がとまった。
震えていた弓がピタリと止まったかと思うと、千秋は掴んでいた矢を離す。
一本の矢は世界を切り開くようにまっすぐに的に吸い込まれていく。そうなることが決まっていたように。
それはまるで湊の世界を塗り替えしてしまうような一矢だった。
千秋は弓を構えたまま矢の軌道を見守る。そして、鋭い音に遅れて鈍い音が響く。
千秋が放った矢は的の中心から少し外れていたが、きちんと的を捉えていた。
矢が的に当たったことを確認した千秋は詰めていた息をゆっくりと吐き出した。そして、ゆっくりと後ろを振り返った。
真剣な表情が湊の方を向く。鋭く真剣の瞳に湊は目を逸らすことができなかった。先ほどまでの太陽のような元気さとはうって変わった、月のような静けさに湊はかける言葉を失う。
しかし、その時間も長くは続かなかった。
千秋は頬をうっすらと赤く染めて、すぐに満ち足りたような笑みを浮かべる。その笑顔にすら湊は心が動かされる。
「なぁなぁ、どうやった? すごいやろ、俺!」
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