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2話 学校案内
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千秋のほんの少しの仕草や表情、言葉に逐一反応していた。
今だって、湊の胸の奥ではソーダの泡のようにパチパチといろんな気持ちが弾けているようだった。
――こんな気持ち、俺は知らない。知りたくもなかった……。
ぎゅっと自分の心臓のあたりを握りしめると、口をきつく引き結んだ。自分の変化に何よりも自分自身がついていけていなかった。
乖離していく心と感情がどうしようもなく気持ち悪かった。
なのに、このズレが、今後自分にとって大きな意味を持つのではないかという予感を感じさせた。
その期待が胸にあるうちは、きっと湊は千秋に囚われたままなのだろうな、と漠然とそう考えた。
「如月、お前もいい顔するようになったじゃないか」
突然隣から声をかけられて湊は思考の海から意識を取り戻す。隣を見ると剛志が練習を再開した部員たちの背中を眺めていた。
「いいか、如月。お前はよく悩め。立ち止まるのも、後ろに戻るのもいい。だけど、逃げることだけはするな。悩んで悩んで、ぶつかっていけ」
チラッと湊の方に視線を向けると、熊のように大きく口を開けて笑った。
「そうすれば、きっとお前の周りは、今よりもずっと楽しくなるさ!」
何を言ってるんだ、と聞き返したかったが湊の口からは何も出てこなかった。代わりに視線を彷徨わせて、剛志の力強い視線から逃げる。
ほんの少しだけ、息が詰まるようだった。
だけど――と、思い顔を上げると着替え終わった千秋が射場の入り口から手を振っている。
その笑顔を見ていると、息が楽になるようだった。
どうしてそうなるのか、自分の中で答えはまだ言葉にならなかった。
彼の笑顔を見ていると、それでも今は十分だと思えた。
「……先生、俺は十分過ぎるほど今の生活に満足してる」
剛志はその場で立ち上がった湊を見上げる。いつもの不機嫌な顔ではなく、少しだけ柔らかくも見える様子にフッと笑う。
「ほら、行ってこい!」
彼の背中を押すように、腰のあたりを思いっきり叩くと、案の定湊は痛そうに顔を歪めた。
「……あんた、そのうち生徒から通報されても知らないからな」
相当痛かったのか湊はものすごい形相で睨んでくるが、剛志は豪快に笑って流してしまう。
何を言っても無駄だと悟ったのかぶつぶつと文句を言いながら湊は千秋の方に向かう。腰をさすりながら遠ざかる湊の背中がいつかの幼い彼の姿に重なる。
雨に打たれながら、暗い顔で、立ち尽くしていた小さい頃の湊。
とてもその年齢の子供がするような顔でなかったのを今でも覚えている。
――恐るなよ、如月。お前は一人じゃないんだからな。
大きく育った背中に向かって心の中で呟く。
千秋と合流した湊は幾分か表情を緩め、二人揃って弓道場から出ていった。
今だって、湊の胸の奥ではソーダの泡のようにパチパチといろんな気持ちが弾けているようだった。
――こんな気持ち、俺は知らない。知りたくもなかった……。
ぎゅっと自分の心臓のあたりを握りしめると、口をきつく引き結んだ。自分の変化に何よりも自分自身がついていけていなかった。
乖離していく心と感情がどうしようもなく気持ち悪かった。
なのに、このズレが、今後自分にとって大きな意味を持つのではないかという予感を感じさせた。
その期待が胸にあるうちは、きっと湊は千秋に囚われたままなのだろうな、と漠然とそう考えた。
「如月、お前もいい顔するようになったじゃないか」
突然隣から声をかけられて湊は思考の海から意識を取り戻す。隣を見ると剛志が練習を再開した部員たちの背中を眺めていた。
「いいか、如月。お前はよく悩め。立ち止まるのも、後ろに戻るのもいい。だけど、逃げることだけはするな。悩んで悩んで、ぶつかっていけ」
チラッと湊の方に視線を向けると、熊のように大きく口を開けて笑った。
「そうすれば、きっとお前の周りは、今よりもずっと楽しくなるさ!」
何を言ってるんだ、と聞き返したかったが湊の口からは何も出てこなかった。代わりに視線を彷徨わせて、剛志の力強い視線から逃げる。
ほんの少しだけ、息が詰まるようだった。
だけど――と、思い顔を上げると着替え終わった千秋が射場の入り口から手を振っている。
その笑顔を見ていると、息が楽になるようだった。
どうしてそうなるのか、自分の中で答えはまだ言葉にならなかった。
彼の笑顔を見ていると、それでも今は十分だと思えた。
「……先生、俺は十分過ぎるほど今の生活に満足してる」
剛志はその場で立ち上がった湊を見上げる。いつもの不機嫌な顔ではなく、少しだけ柔らかくも見える様子にフッと笑う。
「ほら、行ってこい!」
彼の背中を押すように、腰のあたりを思いっきり叩くと、案の定湊は痛そうに顔を歪めた。
「……あんた、そのうち生徒から通報されても知らないからな」
相当痛かったのか湊はものすごい形相で睨んでくるが、剛志は豪快に笑って流してしまう。
何を言っても無駄だと悟ったのかぶつぶつと文句を言いながら湊は千秋の方に向かう。腰をさすりながら遠ざかる湊の背中がいつかの幼い彼の姿に重なる。
雨に打たれながら、暗い顔で、立ち尽くしていた小さい頃の湊。
とてもその年齢の子供がするような顔でなかったのを今でも覚えている。
――恐るなよ、如月。お前は一人じゃないんだからな。
大きく育った背中に向かって心の中で呟く。
千秋と合流した湊は幾分か表情を緩め、二人揃って弓道場から出ていった。
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