13 / 28
2話 学校案内
2-8
千秋のほんの少しの仕草や表情、言葉に逐一反応していた。
今だって、湊の胸の奥ではソーダの泡のようにパチパチといろんな気持ちが弾けているようだった。
――こんな気持ち、俺は知らない。知りたくもなかった……。
ぎゅっと自分の心臓のあたりを握りしめると、口をきつく引き結んだ。自分の変化に何よりも自分自身がついていけていなかった。
乖離していく心と感情がどうしようもなく気持ち悪かった。
なのに、このズレが、今後自分にとって大きな意味を持つのではないかという予感を感じさせた。
その期待が胸にあるうちは、きっと湊は千秋に囚われたままなのだろうな、と漠然とそう考えた。
「如月、お前もいい顔するようになったじゃないか」
突然隣から声をかけられて湊は思考の海から意識を取り戻す。隣を見ると剛志が練習を再開した部員たちの背中を眺めていた。
「いいか、如月。お前はよく悩め。立ち止まるのも、後ろに戻るのもいい。だけど、逃げることだけはするな。悩んで悩んで、ぶつかっていけ」
チラッと湊の方に視線を向けると、熊のように大きく口を開けて笑った。
「そうすれば、きっとお前の周りは、今よりもずっと楽しくなるさ!」
何を言ってるんだ、と聞き返したかったが湊の口からは何も出てこなかった。代わりに視線を彷徨わせて、剛志の力強い視線から逃げる。
ほんの少しだけ、息が詰まるようだった。
だけど――と、思い顔を上げると着替え終わった千秋が射場の入り口から手を振っている。
その笑顔を見ていると、息が楽になるようだった。
どうしてそうなるのか、自分の中で答えはまだ言葉にならなかった。
彼の笑顔を見ていると、それでも今は十分だと思えた。
「……先生、俺は十分過ぎるほど今の生活に満足してる」
剛志はその場で立ち上がった湊を見上げる。いつもの不機嫌な顔ではなく、少しだけ柔らかくも見える様子にフッと笑う。
「ほら、行ってこい!」
彼の背中を押すように、腰のあたりを思いっきり叩くと、案の定湊は痛そうに顔を歪めた。
「……あんた、そのうち生徒から通報されても知らないからな」
相当痛かったのか湊はものすごい形相で睨んでくるが、剛志は豪快に笑って流してしまう。
何を言っても無駄だと悟ったのかぶつぶつと文句を言いながら湊は千秋の方に向かう。腰をさすりながら遠ざかる湊の背中がいつかの幼い彼の姿に重なる。
雨に打たれながら、暗い顔で、立ち尽くしていた小さい頃の湊。
とてもその年齢の子供がするような顔でなかったのを今でも覚えている。
――恐るなよ、如月。お前は一人じゃないんだからな。
大きく育った背中に向かって心の中で呟く。
千秋と合流した湊は幾分か表情を緩め、二人揃って弓道場から出ていった。
今だって、湊の胸の奥ではソーダの泡のようにパチパチといろんな気持ちが弾けているようだった。
――こんな気持ち、俺は知らない。知りたくもなかった……。
ぎゅっと自分の心臓のあたりを握りしめると、口をきつく引き結んだ。自分の変化に何よりも自分自身がついていけていなかった。
乖離していく心と感情がどうしようもなく気持ち悪かった。
なのに、このズレが、今後自分にとって大きな意味を持つのではないかという予感を感じさせた。
その期待が胸にあるうちは、きっと湊は千秋に囚われたままなのだろうな、と漠然とそう考えた。
「如月、お前もいい顔するようになったじゃないか」
突然隣から声をかけられて湊は思考の海から意識を取り戻す。隣を見ると剛志が練習を再開した部員たちの背中を眺めていた。
「いいか、如月。お前はよく悩め。立ち止まるのも、後ろに戻るのもいい。だけど、逃げることだけはするな。悩んで悩んで、ぶつかっていけ」
チラッと湊の方に視線を向けると、熊のように大きく口を開けて笑った。
「そうすれば、きっとお前の周りは、今よりもずっと楽しくなるさ!」
何を言ってるんだ、と聞き返したかったが湊の口からは何も出てこなかった。代わりに視線を彷徨わせて、剛志の力強い視線から逃げる。
ほんの少しだけ、息が詰まるようだった。
だけど――と、思い顔を上げると着替え終わった千秋が射場の入り口から手を振っている。
その笑顔を見ていると、息が楽になるようだった。
どうしてそうなるのか、自分の中で答えはまだ言葉にならなかった。
彼の笑顔を見ていると、それでも今は十分だと思えた。
「……先生、俺は十分過ぎるほど今の生活に満足してる」
剛志はその場で立ち上がった湊を見上げる。いつもの不機嫌な顔ではなく、少しだけ柔らかくも見える様子にフッと笑う。
「ほら、行ってこい!」
彼の背中を押すように、腰のあたりを思いっきり叩くと、案の定湊は痛そうに顔を歪めた。
「……あんた、そのうち生徒から通報されても知らないからな」
相当痛かったのか湊はものすごい形相で睨んでくるが、剛志は豪快に笑って流してしまう。
何を言っても無駄だと悟ったのかぶつぶつと文句を言いながら湊は千秋の方に向かう。腰をさすりながら遠ざかる湊の背中がいつかの幼い彼の姿に重なる。
雨に打たれながら、暗い顔で、立ち尽くしていた小さい頃の湊。
とてもその年齢の子供がするような顔でなかったのを今でも覚えている。
――恐るなよ、如月。お前は一人じゃないんだからな。
大きく育った背中に向かって心の中で呟く。
千秋と合流した湊は幾分か表情を緩め、二人揃って弓道場から出ていった。
あなたにおすすめの小説
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
優等生αは不良Ωに恋をする
雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。
そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。
「うっせーよ。俺に構うな」
冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。
自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。
番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。
それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。
王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開!
優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。