ハッピーシュガーソーダ

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3話 体育祭 -準備編-

3-1

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 校門にある桜もとっくの昔に散ってしまい、青々しい緑の葉が風に揺れている。

 がやがやと騒がしい昼の放課。早く昼ごはんを食べて外に遊びにいく者もいれば、真面目に勉強をしている者もいる。中には購買のパンを求めて廊下を走り、教師に見つかって怒られる者もいるし、お気に入りの場所で昼寝をする者もいる。

 各々が好きなように過ごす中、湊はなぜか千秋に付き纏われていた。

 湊が誰もこない屋上に続く階段で菓子パンを食べていると、どこで知ったのかしらないが気がつくと千秋は隣に座っていた。

 そしてパンを食べ終わって自販機に飲み物を買いに行けば、千秋も後ろをひょこひょこついてくる。どこまでもどこまでも、毎日のように千秋は湊の後ろをついてまわる。まるで親鳥についていく雛鳥のようだった。

 しかも全く話しかけてこないのだ。湊と話したいというより、湊の行動を観察していると表現した方が正しかった。

 最初は湊もいつか飽きるだろうと考えて、無視して自分の好きなように過ごしていた。だけど、その生活が何週間にもわたって行われると、流石に我慢の限界だった。

 いつものように自販機に午後分の水分を買いに行く。当然のように千秋もその後ろをついてくる。

「……だぁ、もう! なんなんだよ! 毎日毎日、人のことつけまわしやがって!」

 体育館横にある自販機の前で、ついに湊は千秋に怒った。猫が威嚇するように全身の毛を逆立て、体をわなわなと震わせる。

 その様子を千秋はキョトンとした顔で見た後、フッと優しく笑った。

 太陽に照らされた、甘ったるい笑顔を見て湊は言葉を詰まらせる。


「やーっと、俺に興味持ってくれたんか。いやー、長かったわー」

「…………は?」

「いやな、俺は如月と仲ようしたいけど、如月にその気なかったら意味ないやん? だから、まずは如月の興味を引こう思うてな」


 だから、つきまとってみたんや、と千秋はくすくすと笑う。まるで作戦大成功だと言わんばかりに嬉しそうにしている。

 湊は不可解なものを見るように、顔を引き攣らせる。簡単に言えば、湊は千秋の策略にまんまとハマったことになる。


「学校案内してくれた時から今日まで、如月ってば頑固やったから大変やったわ。あんなに俺に付き纏われて、なんでなんも反応ないんか俺も途中から考察してしまったわ」

「……つまり、お前はわざとついてきたってことか」

「仲ようなるには仕方がないことやろ? 友達っちゅうんは片方の好意からじゃ成り立たんのや。俺と如月、お互いに意識せなな」


 悪気がなさそうにニコッと笑った千秋に湊は深いため息を吐いた。この数週間、千秋の行動の意味を考えて、考えて、夜だって寝れない時もあったというのに。それなのに、千秋はただ湊が話しかけてくるのを待っていただけなんて。

 それも、湊と友達になるためだけに。


 ――無駄に体力使った気分だ。


 肩を落としながら自販機に向き直ってスポーツドリンクを購入する。
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