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3話 体育祭 -準備編-
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ガコンっと音を立ててペットボトルが取り出し口に落ちてくる。少し水に濡れたそれを取り出すと、湊は千秋の横を通って立ち去ろうとする。
「ちょお! 待ってぇや!」
そばを通り過ぎた時、千秋が湊の腕を掴む。湊はその手を不機嫌そうに顔を顰めながら見つめる。
なんだよ――と、その視線が語っていた。
「せっかく話ができるっちゅうのに、なぁんでなんも言わんと行こうとすんねん」
「…………俺は、別にお前と話すことなんてない」
ギロっと睨みつけても千秋には全く響いていないようで不思議そうな顔をするばかりだった。
「なんや、別に特別なこと話そう言うとるんやないんやで。たわいもない話……勉強のことでも、部活のことでも、なんでもええんやで?」
「……だから、俺は――」
諦めが悪い千秋に、湊の額に青筋が浮かぶ。続けて言葉をかけようとした時、複数の足音が聞こえてくる。
「あっれー? 湊ちゃんじゃーん! やっほー!」
「あ、ほんとだ、湊だ。隣にいるのは、転校生くんだっけ?」
体育館の陰から現れたのは手芸部員の優奈と梨沙だった。
優奈はクルクルとカールした髪の毛をいじりながらスマートフォンも触っている。手に持っていたスマートフォンを大きく掲げて手を振っている。
その横では梨沙が紙パックのいちごミルク牛乳を飲んでいた。
「小鳥遊、天野……なんでこんなところにいるんだよ」
「なんでって言われてもね。ここの自販機にしか売ってないもんがあるのよ」
梨沙が湊の持っている飲み物を指差す。確かに、スポーツドリンクは体育館の横にある自販機の方が種類が豊富だった。
梨沙は湊と自販機を見比べて、イタズラを思いつたようにニヤリと笑った。
「ね、じゃんけんに買ったら私に飲み物奢ってよ」
「はぁ? なんでだよ。自分で買えよ」
「いいじゃんいいじゃん。たかが数百円、可愛い私に免じて使ってもいいでしょ?」
「誰が可愛いんだよ……それに、たかが数百円をバカにすると痛い目に遭うぞ」
そう言いながらも湊はポケットから財布を取り出し始める。
「あれれ? じゃんけんはー? しないの?」
素直に奢ろうとしている湊を見て優奈がコテンと首を横に倒す。湊は「こっちの方が早く済む」と言って自販機まで戻る。
梨沙は目当ての飲み物が手に入ることが嬉しいのかにっこりと笑ってる。
「あ、転校生くんは何も買わないの?」
「え? あ、俺は……」
「こいつは俺についてきただけなんだとよ……ほら」
ガコンっと音を立てて飲み物が落ちてくる。それを受け取り口から取り出し、少し離れたところにいる梨沙に向かって投げる。梨沙は難なくそれを受け取ると千秋の方を見る。
「あはは、そうなんよ! 俺、如月と友達になりたくってなぁ!」
千秋は思うところがありながらも、笑ってそれを誤魔化した。そして、その小さな違和感は誰にも悟られることはなかった。
「へぇ、珍しいやつもいるんだ。こいつ、無愛想だし、気の利いたこと言えないし、目つき悪いし、いいところないのにね」
「……喧嘩なら買うぞ?」
「やだー、怒らないでよ。本当のことでしょ?」
ニヤニヤと笑いながら梨沙は絶対に湊が反撃してこないと知ってか、言葉巧みに煽る。
湊は頬を引き攣らせながら、ペットボトルを握る手に力を込める。ミシミシと嫌な音が湊の手から聞こえてくる。
「怒っちゃダメだよ! みんな仲良く!」
不穏な気配を察した優奈が腰に手を当ててふんぞり返る。そして、湊と梨沙を交互に見て、視線だけで「仲直り」を促してくる。
「……はぁ、別に怒ってない」
「そうよ、これくらいでこいつが怒るわけないじゃん。優奈の杞憂だよ」
二人がそういうと優奈はまた首を傾けながら「そうなの? ならよかった!」と笑顔を見せる。
そんな和気藹々とした、手芸部仲間の会話を繰り広げていると、千秋がジリっと少しだけ後ずさった。
「どうしたの?」
それに気がついた優奈が尋ねるが、千秋は一瞬困惑した表情を見せる。しかし次の瞬間には笑顔に戻っており、なんでもないように笑っている。
「そういえば、俺、担任に呼ばれっとったの思い出したわ! じゃ、行くな」
そう言うと優奈と梨沙が引き止めるのも振り切って走って校舎の方に向かっていく。
「あっ、待って……ってもう行っちゃった。ていうか転校生くん、足が早いんだ」
「本当だねー。もうあんなに遠くまで行っちゃった」
少し様子のおかしかった千秋の態度を思い出しながらも、湊はいいかと思って二人に意識を向ける。
「いいなぁ、そっちのクラスは今年の体育祭、結構強いんじゃない?」
「あー、まぁ、綾瀬もいるしな」
クラスメイトのことを思い返しながら湊が答える。
「あの転校生くんも、十分戦力になりそうじゃん。あんたも、走るだけならまだ得意でしょ?」
走るだけってなんだよ、と思いながらもペットボトルの蓋を開けて中身を口の中に含ませる。程よく冷えたスポーツ飲料独特の塩っけを堪能する。
「もう五月入ったし、季節が過ぎるのもあっという間だよねー」
梨沙は手に持っていた空になった紙パックをゴミ箱に捨てると、湊と同じようにペットボトルを開ける。梨沙の言葉に優奈が「ねー」と言いながら同調する。
そんな二人を横目に湊は遠くに行った千秋の小さな背中を見つめる。
「ちょお! 待ってぇや!」
そばを通り過ぎた時、千秋が湊の腕を掴む。湊はその手を不機嫌そうに顔を顰めながら見つめる。
なんだよ――と、その視線が語っていた。
「せっかく話ができるっちゅうのに、なぁんでなんも言わんと行こうとすんねん」
「…………俺は、別にお前と話すことなんてない」
ギロっと睨みつけても千秋には全く響いていないようで不思議そうな顔をするばかりだった。
「なんや、別に特別なこと話そう言うとるんやないんやで。たわいもない話……勉強のことでも、部活のことでも、なんでもええんやで?」
「……だから、俺は――」
諦めが悪い千秋に、湊の額に青筋が浮かぶ。続けて言葉をかけようとした時、複数の足音が聞こえてくる。
「あっれー? 湊ちゃんじゃーん! やっほー!」
「あ、ほんとだ、湊だ。隣にいるのは、転校生くんだっけ?」
体育館の陰から現れたのは手芸部員の優奈と梨沙だった。
優奈はクルクルとカールした髪の毛をいじりながらスマートフォンも触っている。手に持っていたスマートフォンを大きく掲げて手を振っている。
その横では梨沙が紙パックのいちごミルク牛乳を飲んでいた。
「小鳥遊、天野……なんでこんなところにいるんだよ」
「なんでって言われてもね。ここの自販機にしか売ってないもんがあるのよ」
梨沙が湊の持っている飲み物を指差す。確かに、スポーツドリンクは体育館の横にある自販機の方が種類が豊富だった。
梨沙は湊と自販機を見比べて、イタズラを思いつたようにニヤリと笑った。
「ね、じゃんけんに買ったら私に飲み物奢ってよ」
「はぁ? なんでだよ。自分で買えよ」
「いいじゃんいいじゃん。たかが数百円、可愛い私に免じて使ってもいいでしょ?」
「誰が可愛いんだよ……それに、たかが数百円をバカにすると痛い目に遭うぞ」
そう言いながらも湊はポケットから財布を取り出し始める。
「あれれ? じゃんけんはー? しないの?」
素直に奢ろうとしている湊を見て優奈がコテンと首を横に倒す。湊は「こっちの方が早く済む」と言って自販機まで戻る。
梨沙は目当ての飲み物が手に入ることが嬉しいのかにっこりと笑ってる。
「あ、転校生くんは何も買わないの?」
「え? あ、俺は……」
「こいつは俺についてきただけなんだとよ……ほら」
ガコンっと音を立てて飲み物が落ちてくる。それを受け取り口から取り出し、少し離れたところにいる梨沙に向かって投げる。梨沙は難なくそれを受け取ると千秋の方を見る。
「あはは、そうなんよ! 俺、如月と友達になりたくってなぁ!」
千秋は思うところがありながらも、笑ってそれを誤魔化した。そして、その小さな違和感は誰にも悟られることはなかった。
「へぇ、珍しいやつもいるんだ。こいつ、無愛想だし、気の利いたこと言えないし、目つき悪いし、いいところないのにね」
「……喧嘩なら買うぞ?」
「やだー、怒らないでよ。本当のことでしょ?」
ニヤニヤと笑いながら梨沙は絶対に湊が反撃してこないと知ってか、言葉巧みに煽る。
湊は頬を引き攣らせながら、ペットボトルを握る手に力を込める。ミシミシと嫌な音が湊の手から聞こえてくる。
「怒っちゃダメだよ! みんな仲良く!」
不穏な気配を察した優奈が腰に手を当ててふんぞり返る。そして、湊と梨沙を交互に見て、視線だけで「仲直り」を促してくる。
「……はぁ、別に怒ってない」
「そうよ、これくらいでこいつが怒るわけないじゃん。優奈の杞憂だよ」
二人がそういうと優奈はまた首を傾けながら「そうなの? ならよかった!」と笑顔を見せる。
そんな和気藹々とした、手芸部仲間の会話を繰り広げていると、千秋がジリっと少しだけ後ずさった。
「どうしたの?」
それに気がついた優奈が尋ねるが、千秋は一瞬困惑した表情を見せる。しかし次の瞬間には笑顔に戻っており、なんでもないように笑っている。
「そういえば、俺、担任に呼ばれっとったの思い出したわ! じゃ、行くな」
そう言うと優奈と梨沙が引き止めるのも振り切って走って校舎の方に向かっていく。
「あっ、待って……ってもう行っちゃった。ていうか転校生くん、足が早いんだ」
「本当だねー。もうあんなに遠くまで行っちゃった」
少し様子のおかしかった千秋の態度を思い出しながらも、湊はいいかと思って二人に意識を向ける。
「いいなぁ、そっちのクラスは今年の体育祭、結構強いんじゃない?」
「あー、まぁ、綾瀬もいるしな」
クラスメイトのことを思い返しながら湊が答える。
「あの転校生くんも、十分戦力になりそうじゃん。あんたも、走るだけならまだ得意でしょ?」
走るだけってなんだよ、と思いながらもペットボトルの蓋を開けて中身を口の中に含ませる。程よく冷えたスポーツ飲料独特の塩っけを堪能する。
「もう五月入ったし、季節が過ぎるのもあっという間だよねー」
梨沙は手に持っていた空になった紙パックをゴミ箱に捨てると、湊と同じようにペットボトルを開ける。梨沙の言葉に優奈が「ねー」と言いながら同調する。
そんな二人を横目に湊は遠くに行った千秋の小さな背中を見つめる。
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