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3話 体育祭 -準備編-
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千秋は体育館から校舎までの道を全力で走る。持久力はある方ではないが、体育館と校舎を結ぶ短距離くらいなら問題なく走れるはずだった。
だけど、実際は校舎にたどり着くくらいには息が上がり、心臓がバクバクと跳ねていた。
校舎への出入り口で立ち止まると、何回か深呼吸をして呼吸を落ち着かせる。
何度か繰り返すうちに、呼吸は正常に戻るが、どれだけ時間が経っても心臓の鼓動は元の速さに戻りそうになかった。
――なんや、なんなんや、これ! なんで、こんなに気持ちが落ち着かんのや!
爆発してしまうのではないかと思うくらい、心臓は痛く、胸が苦しかった。こんな経験は初めてで、頭が混乱している。
ただ、湊とその友達が話しているところを見ていただけなのに。
千秋と話す時よりも、柔らかい表情に、ぽんぽんと続く会話のラリー。仲がいいことは誰が見ても明白だった。
それを見ていただけだ。ただそれだけなのに。
――っなんで、あの子たちのことを羨ましいとか思うんや!
千秋は走ったからか、それとも別の理由からか、顔を真っ赤にさせる。そのまま顔を両手で覆い、ずるずるとその場にしゃがみ込む。
熱を持った頬が熱い。自分の感情がコントロールできないのが気持ち悪かった。
こんなに気持ちが乱されるのは初めての経験だった。似たような経験なら、過去にもしたことがあるが、こんなに強い気持ちを抱くのはこれが初めてだ。
あぁ、これはあかん、と千秋は泣きそうになるのを必死に耐える。
これだけ困惑していても、頭のどこかではわかっていた。千秋はこの気持ちに身に覚えがあった。
複数の白い目。背中に指を刺され、聞かせるように囁かれるヒソヒソ話。
昔のことを思い出して千秋は唇を噛み締める。
大丈夫、大丈夫やから、と自分に言い聞かせるが、気持ちは焦る一方だった。
――克服したんと思っとったけど、全然やなぁ。
湊と友達になりたいと思ったのは本当だ。
キラキラと輝く瞳を見て、もっと知りたいと思った。
校内案内ではコロコロと変わる表情を見て、面白いやつだと思った。
もっと仲良くなりたい、もっといろんな湊を見てみたい。
ただ、それだけだったのに。
――あーあ、しんど……。もう、好きなやつなんて作りたくなかったんやけどな。
そんなことを考えながら、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。
千秋が積極的に認めていないだけで、それがどんな感情なのかわかっていた。
千秋は、あの瞳を見つけた時から、湊に惚れていた。
一目惚れだったのだ。
それを必死に友達なんて言葉で誤魔化してきた。事情を知る人が聞けば、無駄なことを、と一蹴するかもしれなかった。
誤魔化さずにいたら、湊ももう少し千秋に構ってくれただろうか。千秋のことを意識してくれるだろうか。
考えても仕方がないことばかりが頭をよぎっていく。
「あんた、そこ通りたいんだけど」
「っ!」
思考の海に身を投げていると突然声をかけられた。
だけど、実際は校舎にたどり着くくらいには息が上がり、心臓がバクバクと跳ねていた。
校舎への出入り口で立ち止まると、何回か深呼吸をして呼吸を落ち着かせる。
何度か繰り返すうちに、呼吸は正常に戻るが、どれだけ時間が経っても心臓の鼓動は元の速さに戻りそうになかった。
――なんや、なんなんや、これ! なんで、こんなに気持ちが落ち着かんのや!
爆発してしまうのではないかと思うくらい、心臓は痛く、胸が苦しかった。こんな経験は初めてで、頭が混乱している。
ただ、湊とその友達が話しているところを見ていただけなのに。
千秋と話す時よりも、柔らかい表情に、ぽんぽんと続く会話のラリー。仲がいいことは誰が見ても明白だった。
それを見ていただけだ。ただそれだけなのに。
――っなんで、あの子たちのことを羨ましいとか思うんや!
千秋は走ったからか、それとも別の理由からか、顔を真っ赤にさせる。そのまま顔を両手で覆い、ずるずるとその場にしゃがみ込む。
熱を持った頬が熱い。自分の感情がコントロールできないのが気持ち悪かった。
こんなに気持ちが乱されるのは初めての経験だった。似たような経験なら、過去にもしたことがあるが、こんなに強い気持ちを抱くのはこれが初めてだ。
あぁ、これはあかん、と千秋は泣きそうになるのを必死に耐える。
これだけ困惑していても、頭のどこかではわかっていた。千秋はこの気持ちに身に覚えがあった。
複数の白い目。背中に指を刺され、聞かせるように囁かれるヒソヒソ話。
昔のことを思い出して千秋は唇を噛み締める。
大丈夫、大丈夫やから、と自分に言い聞かせるが、気持ちは焦る一方だった。
――克服したんと思っとったけど、全然やなぁ。
湊と友達になりたいと思ったのは本当だ。
キラキラと輝く瞳を見て、もっと知りたいと思った。
校内案内ではコロコロと変わる表情を見て、面白いやつだと思った。
もっと仲良くなりたい、もっといろんな湊を見てみたい。
ただ、それだけだったのに。
――あーあ、しんど……。もう、好きなやつなんて作りたくなかったんやけどな。
そんなことを考えながら、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。
千秋が積極的に認めていないだけで、それがどんな感情なのかわかっていた。
千秋は、あの瞳を見つけた時から、湊に惚れていた。
一目惚れだったのだ。
それを必死に友達なんて言葉で誤魔化してきた。事情を知る人が聞けば、無駄なことを、と一蹴するかもしれなかった。
誤魔化さずにいたら、湊ももう少し千秋に構ってくれただろうか。千秋のことを意識してくれるだろうか。
考えても仕方がないことばかりが頭をよぎっていく。
「あんた、そこ通りたいんだけど」
「っ!」
思考の海に身を投げていると突然声をかけられた。
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