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3話 体育祭 -準備編-
3-4
千秋はハッとして顔をあげると、日に焼けた肌にツンツンと尖った髪の毛、左目の下に泣き黒子のある男子生徒が立っていた。
「ん? なんだ、千秋じゃん」
「……綾瀬。どうしてここに?」
その生徒は千秋のクラスの学級委員でもある綾瀬和馬だった。
「どうしても何も、用事があって外にいたんだよ。それで戻ってきたら入り口に千秋がいて……」
「……あぁ、そうやな。ここ出入り口やったな、すまん」
千秋が謝ってその場を退く。和馬は「別に大丈夫」と言いながら校舎の中に入ってくる。
和馬はクラスのムードメーカーであり、いつもたくさんの友人に囲まれている。転校してきたばかりの千秋のこともよく気にかけてくれて、話していて気が楽だった。明るい性格で、千秋とも波長が合うのか一緒にいて楽しいやつでもあった。
「それで? なんでこんなところで蹲ってんの? もしかして体調悪い?」
「いや体調は大丈夫や……ちょっと、色々考えてな」
和馬とは対照的に不機嫌そうな顔を浮かべる湊のことを思い出して肩を落とす。和馬は少し悩んだ後、何かを思いついたように口を開く。
「あぁ、湊のことか?」
「……っな、な、なんやて? どうしてここで如月が出てくるんや……!」
「だって、お前、湊のこと大好きじゃん」
歯を見せて笑いながら和馬は断言した。千秋は図星を突かれ、顔を真っ赤にして思わず言葉に詰まる。
ふざけている割に他者のことをよくみている和馬には千秋の想いは筒抜けだったようだ。
「そ……んなに、わかりやすいんか、俺は」
「さぁな。ま、そんな気にすることじゃないだろ」
バシバシ千秋の背中を叩いてくる。千秋はその答えに不満そうに唇を尖らせる。
「でも、相手は男やん。気持ち悪くないんか?」
転校初日に千秋は恋愛対象は男だと断言している。それは、あらかじめ自分とは違い、同性愛を受け入れない人を遠ざけるために言ったことだった。そうしなければ、変に噂を立てられて、自分も千秋に想われている相手も嫌な思いをする。
予防線はいくらあっても困ることはない。
それだけ慎重に、足場を確認して進まないと辛いのはこちらの方だから。
だが、その予防線を張ってもなお、千秋のクラスメイトは千秋と仲良くしてくれていた。それが千秋にとってどれだけありがたいことか。そして、目の前の和馬もその一人だった。
「男だからとか関係ないだろ。好きになった人がたまたま同性だっただけ。それだけだろ」
深く考えることもなく笑って和馬はそう言い切った。その言葉に千秋は目を丸くしながら和馬の方を向く。
「……ここの人たちは、優しくてたまにどうしたらええかわからんくなるな」
「そうか? まぁ、一度しかない高校生活だしな。みんなとバカやって、楽しんで、誰かと付き合ってみたり――誰かを貶めて、排除して生活するよりも、そっちの方が断然いいだろ」
ニカっと笑う和馬は眩しくて、かっこよかった。千秋は少しだけ気持ちが上を向くのを感じた。
「ほら、こんなところにいないで行くぞ」
和馬は千秋に手を差し伸べた。一瞬悩んだ後、千秋はその手をとって立ち上がる。それをみた和馬は満足そうに頷いた。
「俺は、お前のこと応援してるよ。人と付き合うのが苦手なやつだけどさ、湊も悪いやつじゃないんだ」
「綾瀬……如月のことよう知っとるんやな」
「小学校の時から知ってるからな! なんだかんだで長い付き合いなんだよな」
千秋の知らない過去を和馬は知っている。そのことが少しだけ羨ましいと思った。
だけど、これから少しずつ湊のことを知っていけばいいと考え直す。
「もしも湊のこと知りたかったらいつでも聞けよ。俺が知ってることならなんでも教えてやるから」
「はは、頼もしいやつやな……でも、ありがとうな」
千秋は空が晴れたように満面の笑顔を見せる。和馬もそれに釣られるように笑った。
同性愛者は万人受けするものではない。どちらかといえば、普通じゃないと後ろ指刺されることが多いのが現状だ、
それでも、和馬のように認めて、背中を押してくれる人が一人でもいると、自分のこの感情が間違いじゃないと思えるから不思議だった。
「ほんま……綾瀬はいいやつやな」
「そうか? 千秋にそう言ってもらえるとなんだか嬉しいよ」
「惚れんなよー。俺は如月一筋やからな」
「流石に他の人を好きなやつのことは惚れないって」
冗談まじりに脇を小突いてきた千秋の肩に和馬は手を回して笑う。ノリのいい和馬に千秋はさらに笑った。
悩むこともたくさんあるだろうけど、自分なりにやっていこうと思えた。
「そういえば、もうすぐあれだな」
「……あれ?」
何かを思い出したように和馬が呟く。千秋はなんのことかわからず、首を傾ける。すると和馬はニヤリと笑った。
「体育祭だよ。五月の半ばにあるんだ」
「ん? なんだ、千秋じゃん」
「……綾瀬。どうしてここに?」
その生徒は千秋のクラスの学級委員でもある綾瀬和馬だった。
「どうしても何も、用事があって外にいたんだよ。それで戻ってきたら入り口に千秋がいて……」
「……あぁ、そうやな。ここ出入り口やったな、すまん」
千秋が謝ってその場を退く。和馬は「別に大丈夫」と言いながら校舎の中に入ってくる。
和馬はクラスのムードメーカーであり、いつもたくさんの友人に囲まれている。転校してきたばかりの千秋のこともよく気にかけてくれて、話していて気が楽だった。明るい性格で、千秋とも波長が合うのか一緒にいて楽しいやつでもあった。
「それで? なんでこんなところで蹲ってんの? もしかして体調悪い?」
「いや体調は大丈夫や……ちょっと、色々考えてな」
和馬とは対照的に不機嫌そうな顔を浮かべる湊のことを思い出して肩を落とす。和馬は少し悩んだ後、何かを思いついたように口を開く。
「あぁ、湊のことか?」
「……っな、な、なんやて? どうしてここで如月が出てくるんや……!」
「だって、お前、湊のこと大好きじゃん」
歯を見せて笑いながら和馬は断言した。千秋は図星を突かれ、顔を真っ赤にして思わず言葉に詰まる。
ふざけている割に他者のことをよくみている和馬には千秋の想いは筒抜けだったようだ。
「そ……んなに、わかりやすいんか、俺は」
「さぁな。ま、そんな気にすることじゃないだろ」
バシバシ千秋の背中を叩いてくる。千秋はその答えに不満そうに唇を尖らせる。
「でも、相手は男やん。気持ち悪くないんか?」
転校初日に千秋は恋愛対象は男だと断言している。それは、あらかじめ自分とは違い、同性愛を受け入れない人を遠ざけるために言ったことだった。そうしなければ、変に噂を立てられて、自分も千秋に想われている相手も嫌な思いをする。
予防線はいくらあっても困ることはない。
それだけ慎重に、足場を確認して進まないと辛いのはこちらの方だから。
だが、その予防線を張ってもなお、千秋のクラスメイトは千秋と仲良くしてくれていた。それが千秋にとってどれだけありがたいことか。そして、目の前の和馬もその一人だった。
「男だからとか関係ないだろ。好きになった人がたまたま同性だっただけ。それだけだろ」
深く考えることもなく笑って和馬はそう言い切った。その言葉に千秋は目を丸くしながら和馬の方を向く。
「……ここの人たちは、優しくてたまにどうしたらええかわからんくなるな」
「そうか? まぁ、一度しかない高校生活だしな。みんなとバカやって、楽しんで、誰かと付き合ってみたり――誰かを貶めて、排除して生活するよりも、そっちの方が断然いいだろ」
ニカっと笑う和馬は眩しくて、かっこよかった。千秋は少しだけ気持ちが上を向くのを感じた。
「ほら、こんなところにいないで行くぞ」
和馬は千秋に手を差し伸べた。一瞬悩んだ後、千秋はその手をとって立ち上がる。それをみた和馬は満足そうに頷いた。
「俺は、お前のこと応援してるよ。人と付き合うのが苦手なやつだけどさ、湊も悪いやつじゃないんだ」
「綾瀬……如月のことよう知っとるんやな」
「小学校の時から知ってるからな! なんだかんだで長い付き合いなんだよな」
千秋の知らない過去を和馬は知っている。そのことが少しだけ羨ましいと思った。
だけど、これから少しずつ湊のことを知っていけばいいと考え直す。
「もしも湊のこと知りたかったらいつでも聞けよ。俺が知ってることならなんでも教えてやるから」
「はは、頼もしいやつやな……でも、ありがとうな」
千秋は空が晴れたように満面の笑顔を見せる。和馬もそれに釣られるように笑った。
同性愛者は万人受けするものではない。どちらかといえば、普通じゃないと後ろ指刺されることが多いのが現状だ、
それでも、和馬のように認めて、背中を押してくれる人が一人でもいると、自分のこの感情が間違いじゃないと思えるから不思議だった。
「ほんま……綾瀬はいいやつやな」
「そうか? 千秋にそう言ってもらえるとなんだか嬉しいよ」
「惚れんなよー。俺は如月一筋やからな」
「流石に他の人を好きなやつのことは惚れないって」
冗談まじりに脇を小突いてきた千秋の肩に和馬は手を回して笑う。ノリのいい和馬に千秋はさらに笑った。
悩むこともたくさんあるだろうけど、自分なりにやっていこうと思えた。
「そういえば、もうすぐあれだな」
「……あれ?」
何かを思い出したように和馬が呟く。千秋はなんのことかわからず、首を傾ける。すると和馬はニヤリと笑った。
「体育祭だよ。五月の半ばにあるんだ」
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