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3話 体育祭 -準備編-
3-6
体育祭の目玉競技といえばクラス対抗リレーだ。体育祭の一番最初に予選を行う。そして勝ち進んだチームは体育祭の一番最後に決勝戦を行うのだ。
もちろん足の速い生徒が選抜されていくが、その順番にも気を配らなければいけない。ただ足が速いだけでは優勝は取れないのだ。
「足が速いやつだろ……ま、和馬は絶対に入れなきゃな」
一番前、左から二番目に座った坊主頭の男子生徒――二階堂晶がニヤニヤと笑って言った。彼は野球部に所属している関係で、髪の毛を丸刈りにしている。調子もので、いつも和馬のことをいじって遊んでいる。
「和馬の足の速さなら、学年一位だろ」
そう言ってクラスメイトに同意を求めるように視線を送る。何人かの生徒が頷きを返し、晶は満足そうに笑みを深くする。
「流石に学年一位じゃないよ。そこまで早かったら今頃俺、陸上やってるわ」
和馬は笑って晶のいじりを受け流すと、紅音に自分の名前を書くように伝える。
「他には誰がいいかな……リレーメンバーは全員で六人必要だからなぁ」
このクラスで足が速いやつは、とそれぞれがお互いの顔を見合っていると、ガタンっと大きな音を立てて一人の生徒が立ち上がった。
「はい! 俺、こうみえても足早いんやで!」
手をビシッとあげながらそう言ったのは湊の後ろの席にいる千秋だった。千秋が転校してきたタイミングは、体力測定後のことだったので誰も彼の運動能力を知らなかった。
「こうみえてもな、昔は疾風の千秋ってあだ名があったくらいなんやで」
ニカっとひまわりのような輝く笑顔を浮かべる。クラスメイトは一瞬ぽかんとした顔をした後、大きく盛り上がった。
「いいじゃないか! 足に自信がある奴が出るのは歓迎だ!」
直樹が満足そうに頷きながらメガネを掛け直している。その言葉に同調するように他の生徒も口々に「いいな、俺も賛成」などと言っている。
「たしか、千秋くんって運動なんでもできるんだよね?」
「運動できる奴が多くて今年はラッキーだな!」
それぞれが意見を述べていると、和馬が手を叩いて静かにさせる。
「よーし、なら千秋もメンバーに入れるからな」
「おう! 任せろ!」
和馬の言葉に千秋はニッと笑って頷く。そしてそのまま前の席に座る湊に顔を近づける。近づいてきた千秋の顔に湊は思わずのけぞった。
「なぁ、俺のことちゃんと応援してくれよな!」
「なっ……!」
「如月が俺のこと応援してくれるんなら、俺、絶対に優勝したるから!」
そう言うと千秋は満足したのか席に座り直す。湊は至近距離にあった千秋の顔に心臓をバクバクと跳ねさせながら、その言葉を脳内で咀嚼しようとする。しかし、うるさいくらいに高鳴る心臓の音がそれを許さなかった。
湊は視線を彷徨わせながら結局何もいえずに前を向いた。しかしその両耳は誰がみても真っ赤に染まっていて、それに気がついた千秋はにやける顔を止めることができなかった。
「なんや、可愛いところばっかやないか、如月は!」
思い余って後ろから抱きつくと湊は面白いくらい大きく体を跳ねさせる。驚かされた猫のような反応だった。そしてするりと千秋の腕の中から逃げ出すと、顔を真っ赤にさせながら声にならない言葉を発していた。
「おまっ…………なんっ…………!」
急に立ち上がって千秋に抗議するように指を向ける湊に周りの生徒はまたか、と笑っている。
「おーい、お前らー。二人だけの世界で盛り上がるのはやめてくれよー」
ニヤニヤと笑いながら和馬も言葉だけの注意をする。すると周りのノリのいい男子たちが「そうだそうだー!」と一斉に声を上げる。
恥ずかしさや気まずさで湊は口をパクパクとさせる。そして我慢の限界が来たのか、足取り荒く教室から出ていこうとする。
「あ、おい。どこ行くんや?」
「……便所だ!」
からかいすぎたかと慌てた千秋が追いかけようとしたが、彼の目の前で湊はピシャリと扉を閉めてしまう。
もちろん足の速い生徒が選抜されていくが、その順番にも気を配らなければいけない。ただ足が速いだけでは優勝は取れないのだ。
「足が速いやつだろ……ま、和馬は絶対に入れなきゃな」
一番前、左から二番目に座った坊主頭の男子生徒――二階堂晶がニヤニヤと笑って言った。彼は野球部に所属している関係で、髪の毛を丸刈りにしている。調子もので、いつも和馬のことをいじって遊んでいる。
「和馬の足の速さなら、学年一位だろ」
そう言ってクラスメイトに同意を求めるように視線を送る。何人かの生徒が頷きを返し、晶は満足そうに笑みを深くする。
「流石に学年一位じゃないよ。そこまで早かったら今頃俺、陸上やってるわ」
和馬は笑って晶のいじりを受け流すと、紅音に自分の名前を書くように伝える。
「他には誰がいいかな……リレーメンバーは全員で六人必要だからなぁ」
このクラスで足が速いやつは、とそれぞれがお互いの顔を見合っていると、ガタンっと大きな音を立てて一人の生徒が立ち上がった。
「はい! 俺、こうみえても足早いんやで!」
手をビシッとあげながらそう言ったのは湊の後ろの席にいる千秋だった。千秋が転校してきたタイミングは、体力測定後のことだったので誰も彼の運動能力を知らなかった。
「こうみえてもな、昔は疾風の千秋ってあだ名があったくらいなんやで」
ニカっとひまわりのような輝く笑顔を浮かべる。クラスメイトは一瞬ぽかんとした顔をした後、大きく盛り上がった。
「いいじゃないか! 足に自信がある奴が出るのは歓迎だ!」
直樹が満足そうに頷きながらメガネを掛け直している。その言葉に同調するように他の生徒も口々に「いいな、俺も賛成」などと言っている。
「たしか、千秋くんって運動なんでもできるんだよね?」
「運動できる奴が多くて今年はラッキーだな!」
それぞれが意見を述べていると、和馬が手を叩いて静かにさせる。
「よーし、なら千秋もメンバーに入れるからな」
「おう! 任せろ!」
和馬の言葉に千秋はニッと笑って頷く。そしてそのまま前の席に座る湊に顔を近づける。近づいてきた千秋の顔に湊は思わずのけぞった。
「なぁ、俺のことちゃんと応援してくれよな!」
「なっ……!」
「如月が俺のこと応援してくれるんなら、俺、絶対に優勝したるから!」
そう言うと千秋は満足したのか席に座り直す。湊は至近距離にあった千秋の顔に心臓をバクバクと跳ねさせながら、その言葉を脳内で咀嚼しようとする。しかし、うるさいくらいに高鳴る心臓の音がそれを許さなかった。
湊は視線を彷徨わせながら結局何もいえずに前を向いた。しかしその両耳は誰がみても真っ赤に染まっていて、それに気がついた千秋はにやける顔を止めることができなかった。
「なんや、可愛いところばっかやないか、如月は!」
思い余って後ろから抱きつくと湊は面白いくらい大きく体を跳ねさせる。驚かされた猫のような反応だった。そしてするりと千秋の腕の中から逃げ出すと、顔を真っ赤にさせながら声にならない言葉を発していた。
「おまっ…………なんっ…………!」
急に立ち上がって千秋に抗議するように指を向ける湊に周りの生徒はまたか、と笑っている。
「おーい、お前らー。二人だけの世界で盛り上がるのはやめてくれよー」
ニヤニヤと笑いながら和馬も言葉だけの注意をする。すると周りのノリのいい男子たちが「そうだそうだー!」と一斉に声を上げる。
恥ずかしさや気まずさで湊は口をパクパクとさせる。そして我慢の限界が来たのか、足取り荒く教室から出ていこうとする。
「あ、おい。どこ行くんや?」
「……便所だ!」
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