ハッピーシュガーソーダ

豆茶

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3話 体育祭 -準備編-

3-7

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 パチリと瞬きをしながら千秋は振り返ってクラスを見渡す。

「あはは、湊のやつ、今が授業時間だって忘れてるな」

 和馬が笑い出すとクラスのみんなも笑い出した。千秋だけは困ったように眉を下げながら「追いかけた方がええんかな?」と近くの生徒に聞いていた。

「いいよいいよ。湊はキャパオーバーになるとすぐどっか行っちゃうからさ。でも、そのうちちゃんと帰ってくるんだぜ」

 笑いすぎて涙を流す和馬は、涙を拭いながらそう言った。周りの生徒もいつものことなのか笑うだけで追いかけるようなことはなかった。

 千秋は後ろ髪が引かれる気持ちになりながら扉から手を離す。

 また後で、湊に謝ろうと心の中で思いながら、クラスの輪の中に戻る。



 一方で湊は不機嫌なオーラを撒き散らしながらずんずんと廊下を歩いていた。便所に行くと言った手前、彼の中には行かないという選択肢はなかった。根が真面目な故の弊害ともいえた。

 むすっと顔を歪めてトイレに入る。ふと顔を上げて鏡に映った自分の顔を見る。

 先ほどの熱が冷めていないのか、耳がほんのりと赤い。これなら千秋にからかわれても仕方がないと思えるほどだった。

「くそっ! なんなんだよ……」

 頭をくしゃくしゃに掻き回して、落ち着かない心臓を無理やり押さえつけようとする。しかしどれだけやってみても、千秋のことを思い浮かべるだけで簡単にその心臓は元気を取り戻す。

 千秋が転校して来てから、湊の頭の中はずっとおかしかった。

 これまでは波風立たせずに、何事にも動じずに過ごすことができていたのに、千秋が来てからはかき乱されるばかりだった。

 甘ったるい笑顔も、ちょっとした悪戯も、全てが気になって仕方がない。


 この気持ちに、もしも名前をつけるなら――。


 そこまで考えてハッとする。


 ――何を考えてるんだ、俺は。そんなこと考えたってしょうがないだろ。


 能天気で脳内お花畑みたいな千秋に随分と感化されたようだった。それなのに、それが嫌じゃないんだから困ったものだった。

 湊は無意識に心臓のあたりを力強く握りしめる。どくどくと聞こえる心音がうるさくて敵わなかった。

 キラキラと星が瞬くように世界が輝いて見える。

 それは千秋を中心に溢れているようで――まるで魔法にでもかかったようだった。

 グッと唇をかみしめると鈍い痛みを感じる。だけど、痛みで世界が変わることはない。

 だって、湊の世界はもうとっくの昔に千秋によって塗り替えられてしまったのだから。

 周囲の人にはバレているのに、当の本人はそのことに気が付かず、湊は一人で空回ることしかできなかった。
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