21 / 28
4話 体育祭 -前編-
4-1
しおりを挟む
雲一つない晴天。澄んだ青空がどこまでも続いている。
その頂点にはキラキラと輝きながら爛々と降り注ぐ太陽がある。
生徒たちはそれぞれのクラスに割り振られた色のハチマキを頭につけて、今かいまかとその瞬間を待っている。
五月の半ばといえ、遮るものも何もない炎天下の中その時を待つのはなかなか酷なものがあった。
ツーっと首筋を汗が伝い、額にもじんわりと滲む。
湊は学校指定の体操服の上から、紺色のジャージを着ている。周りの生徒を見ても、そんな暑苦しい格好をしているのは湊ただ一人だった。
「……暑い…………溶ける」
睨みつけるように前の生徒の頭を見る。
「だから、そんな格好やめろよって言っただろ」
呆れたように後ろから声がかけられる。学級委員としてクラスメイトを一列に並べていた和馬が後ろから戻ってきているところだった。
「別にいいだろ、格好の指定はなかったんだから」
「でも、暑いんだろ? 脱いだら? 見てるこっちも暑苦しいって」
爽やかな笑顔を浮かべながら、湊のジャージをくいくいっと引っ張る。湊は嫌そうに顔を顰めながらその手を振り払う。
「そうだぞ、如月。これから長いっていうのに、バテられたら俺たちが困るだろうが」
湊よりも少し背の低い晶が振り返って言う。つるんとした頭が太陽のせいで光って見えるようだった。
日に焼けた褐色の肌に、引き締まった体を惜しげなく体操服の下から覗かせている。スポーツマンらしい体格をしていた。
「ほっとけ……別に、これくらいでバテねぇよ」
「じゃあ、せめてその髪を括るとか……」
「必要になったらやる。今はやらない」
気分を損ねたようにそっぽを向く湊に和馬は「ありゃ、拗ねちゃった?」と軽口を叩く。
湊はふんっと鼻を鳴らし、ズボンのポケットに両手を入れる。視線をずらすと、列の前の方で忙しなく動く金髪の頭が目に入る。
周囲の人と話しながら場を盛り上げているようで、笑い合う声が湊の方まで届いてくる。
それをじっと見つめていると、目の前に和馬の顔がニョキっと地面から芽が生えるように現れる。
「な、んだよ……」
驚いて思わず体をのけぞらせる。和馬はじっと湊の顔を見た後、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべた。その顔からいい気がしなくて背筋がゾッとする。
「湊ー、お前さー」と、言いながら和馬が湊の肩に手を回す。そして前にいた晶も同じような笑顔を浮かべて湊の方を見ていた。
「お前って、いつも何考えてるかわからなかったけどさ、案外わかりやすいところあるんだな」
晶が湊の腕をバシバシ叩きながら豪快に笑う。そして和馬も同意するように頷いている。
「そうなんだよー。こいつ、すごいわかりやすくて面白いだろ」
「は、はぁ!? 何訳わかんないこと言ってるんだよ!」
ずっしりと体重をかけてくる和馬を押し返しながら湊が怒る。しかし、どれだけ力を込めても和馬は離れることなく、むしろ肩に乗った手に力が入る。
周りの生徒もちらちらと湊たちの方を見ては笑っている。それが恥ずかしくて湊は「離れろ!」とさらに怒り出す。
「なんなんだよ、お前。最近やけに突っかかってきやがって……!」
無理やり体を引き離すと、お得意の威嚇を和馬に見せるが、彼は慣れた様子で笑うだけだった。
「あはは、ちょっとな……でも、悪くないだろ、今の生活も」
湊の心の内側を見透かすような瞳に、ドキッと心臓が跳ねる。
――そうだ、こいつは知ってるんだった。
それに気がつくと湊の心は自然と落ち着きを取り戻す。油断すれば和馬のペースに乗せられて、いらないことまで言ってしまうところだった。
その頂点にはキラキラと輝きながら爛々と降り注ぐ太陽がある。
生徒たちはそれぞれのクラスに割り振られた色のハチマキを頭につけて、今かいまかとその瞬間を待っている。
五月の半ばといえ、遮るものも何もない炎天下の中その時を待つのはなかなか酷なものがあった。
ツーっと首筋を汗が伝い、額にもじんわりと滲む。
湊は学校指定の体操服の上から、紺色のジャージを着ている。周りの生徒を見ても、そんな暑苦しい格好をしているのは湊ただ一人だった。
「……暑い…………溶ける」
睨みつけるように前の生徒の頭を見る。
「だから、そんな格好やめろよって言っただろ」
呆れたように後ろから声がかけられる。学級委員としてクラスメイトを一列に並べていた和馬が後ろから戻ってきているところだった。
「別にいいだろ、格好の指定はなかったんだから」
「でも、暑いんだろ? 脱いだら? 見てるこっちも暑苦しいって」
爽やかな笑顔を浮かべながら、湊のジャージをくいくいっと引っ張る。湊は嫌そうに顔を顰めながらその手を振り払う。
「そうだぞ、如月。これから長いっていうのに、バテられたら俺たちが困るだろうが」
湊よりも少し背の低い晶が振り返って言う。つるんとした頭が太陽のせいで光って見えるようだった。
日に焼けた褐色の肌に、引き締まった体を惜しげなく体操服の下から覗かせている。スポーツマンらしい体格をしていた。
「ほっとけ……別に、これくらいでバテねぇよ」
「じゃあ、せめてその髪を括るとか……」
「必要になったらやる。今はやらない」
気分を損ねたようにそっぽを向く湊に和馬は「ありゃ、拗ねちゃった?」と軽口を叩く。
湊はふんっと鼻を鳴らし、ズボンのポケットに両手を入れる。視線をずらすと、列の前の方で忙しなく動く金髪の頭が目に入る。
周囲の人と話しながら場を盛り上げているようで、笑い合う声が湊の方まで届いてくる。
それをじっと見つめていると、目の前に和馬の顔がニョキっと地面から芽が生えるように現れる。
「な、んだよ……」
驚いて思わず体をのけぞらせる。和馬はじっと湊の顔を見た後、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべた。その顔からいい気がしなくて背筋がゾッとする。
「湊ー、お前さー」と、言いながら和馬が湊の肩に手を回す。そして前にいた晶も同じような笑顔を浮かべて湊の方を見ていた。
「お前って、いつも何考えてるかわからなかったけどさ、案外わかりやすいところあるんだな」
晶が湊の腕をバシバシ叩きながら豪快に笑う。そして和馬も同意するように頷いている。
「そうなんだよー。こいつ、すごいわかりやすくて面白いだろ」
「は、はぁ!? 何訳わかんないこと言ってるんだよ!」
ずっしりと体重をかけてくる和馬を押し返しながら湊が怒る。しかし、どれだけ力を込めても和馬は離れることなく、むしろ肩に乗った手に力が入る。
周りの生徒もちらちらと湊たちの方を見ては笑っている。それが恥ずかしくて湊は「離れろ!」とさらに怒り出す。
「なんなんだよ、お前。最近やけに突っかかってきやがって……!」
無理やり体を引き離すと、お得意の威嚇を和馬に見せるが、彼は慣れた様子で笑うだけだった。
「あはは、ちょっとな……でも、悪くないだろ、今の生活も」
湊の心の内側を見透かすような瞳に、ドキッと心臓が跳ねる。
――そうだ、こいつは知ってるんだった。
それに気がつくと湊の心は自然と落ち着きを取り戻す。油断すれば和馬のペースに乗せられて、いらないことまで言ってしまうところだった。
10
あなたにおすすめの小説
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる