ハッピーシュガーソーダ

豆茶

文字の大きさ
23 / 28
4話 体育祭 -前編-

4-3

しおりを挟む
 澄んだ青空の下で体育祭の開会式はつつがなく進んでいく。


 実行委員の言葉に校長の話。無駄に長い開会式を静かに聞いていた湊のフラストレーションはだんだんと溜まっていく。

 ただでさえ五月なのに暑い中に立たされているのだ。生徒の健康面を考えて手短にするべきだろう、と考え、壇上の先生を睨みつける。

 負のオーラを背中で感じている晶はくすくすと小さな声で笑っていた。

 そして、長い開会式が終わった後、生徒たちはそれぞれの競技の場所に向かって散り散りになる。


 競技は目玉の男女別のリレーの他に、バレーボール、バスケットボール、サッカーが行われる。それぞれの種目ごとにトーナメントが開かれる。基本は同学年同士のトーナメントだが、各学年で一位になったチームは最後に総当たり戦で真の一位を決めるのだ。

 湊は基本的に運動が苦手で、どの競技でも役に立たないことの方が多い。しかし、背が高いためいるだけで相手にプレッシャーを与えることができるとしてバレーボールやバスケットボールのメンバーとして選ばれていた。

 今年はバレーボールの選手として役振られているため、体育館に移動しようとした。

「みーなとっ!」

 暑さで溶けそうな体に鞭打っていたところに後ろからドンっと誰かが抱きついてきた。

 その人物は見なくて湊には誰かわかった。

「湊はバレーやんな。試合はいつあるん? 俺、応援に行きたいんやけど」

 飛んできたのは千秋だった。

 背中に加わる重さに、近くなった顔に例に漏れず顔を赤面させる。そして、湊は無理やり千秋を引き剥がして、サッと距離を取る。両手を広げて警戒する姿を千秋も面白がって真似をする。まるで二人で行うカバディのようだった。

「なんやなんや、やるんか? 身長の高さでは負けとるけど、フィジカルで負けとるつもりはないで」

「……いきなり抱きつくな、暑い、溶けるだろ。それに、お前、最初はリレーだろ……こっちに来てる暇あったら待機場所に行けよ」

「はー、溶けるって……お前ほんま可愛いやっちゃのう! てか、俺の竸技覚えててくれたん? 嬉しいわぁ」

 千秋の背中に犬のようなしっぽが見える気がした。ブンブンと振って全身で喜びを表現しているようだった。

「おーい、千秋! リレーの予選始まるってよ」

 わらわらと動く生徒の波の中から和馬が手を振っている。千秋は「今行くわ!」と返事をしてから湊の背中から降りた。

 そして、わざわざ湊の前に出てくるとニッと笑った。

「絶対優勝してくるからな!」

 そう言って千秋は湊の前から消えた。走って和馬の方に向かう千秋の背中を湊は無意識のうちに追いかける。犬のように軽やかに走っていくその姿を見て、湊は小さく笑った。

 千秋ならきっと有言実行するだろう。

 そう考えながら湊も自分の競技の場所に移動する。

 体育館にはバレーボールに参加する生徒が集まっており、二階の観戦スペースには試合がない生徒たちが試合を観戦しようと集まっていた。

 湊は第一試合に参加するため、コートの外側にいたクラスメイトのそばに行く。

「よっし、湊も来たし、あれやりますか」

 クラスメイトたちの中心にいた明るい茶髪の髪を揺らす男子生徒が湊を手招きする。日に焼けた褐色の肌がスポーツ男子らしいその生徒の名前は鈴木裕也という。彼はバレーボール部に所属しており、趣味で登山をしているという話だった。

 湊は裕也のいうあれが何かわかりげんなりとした顔をする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

好きです、今も。

めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。 ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

処理中です...