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4話 体育祭 -前編-
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あれ、というのは円陣のことだ。よく運動部がやる、気合を入れるためのその文化が湊には肌に合わなかった。できることならやりたくないという意を込めて怖い形相で睨んでみるが、裕也は気にした様子もなく湊の腕を引っ張っていく。
裕也はどちらかというと千秋のような強引さを持ち合わせており、湊は拒むに拒めなかった。これが、和馬のような人だったら、ひたすら文句を垂れ流すところだったが、根っからの善人である裕也にそれはできなかった。
「相変わらず、湊はこういうみんなで何かするの苦手なんだな」
スポーツ用のメガネをかけた小柄な生徒がニヤニヤと笑っている。彼も身長は低いがバレーボール部に所属しており、そこそこ勉強もできる男だった。小柄な生徒――加藤朔夜は引っ張られてくる湊の腰のあたりをバシバシと叩いてくる。
「去年もやってるんだから、もう慣れても良いのにな」と、裕也は笑っている。それに他のチームメンバーも笑って頷く。
湊はこういう和気藹々とした雰囲気が苦手だった。とっつきにくいはずの湊に対して誰も尻込みしない。むしろ、暖かく迎えようとしてくれる。そういう態度に湊はどう返せば良いのかわからなくなる。
「よし、湊もほら、肩に手を回せって」
裕也と朔夜が誘導するように湊の手を肩に持っていく。無理やり円陣の輪に入れられた湊の機嫌は谷底まで落ちていく。
それを分かりながらも裕也たちは楽しそうに笑っている。
「絶対に優勝するぞ! そんでもって、みんなで打ち上げしような!」
裕也たちは顔を突き合わせて互いにエールを送り合う。
「それ、打ち上げがメインのやつじゃん」と、茶化したように湊と同じように背の高い生徒――逢瀬龍之介が言う。すると隣でくすくすと笑いながら力強く立川理玖という生徒が頷く。
「えー、そんなことないって。ちゃんと、勝って、美味い飯食おうぜって言ってるだけじゃん」
メンバーに笑われた裕也は不満そうに口を尖らせている。しかし、次の瞬間には真剣な眼差しでそれぞれの顔をじっと見ていた。
湊はその真剣な瞳を見て、弓を射ろうとした千秋のまっすぐな瞳を思い出す。
なんでこんな時まで千秋のことを思い出さなきゃいけないんだ、と心の中でぼやきつつ頭から千秋のことを追い出す。
その時、ふと湊はこういう時千秋ならどうするんだろうと考えた。
――きっとあいつなら、一緒にふざけながら、でも真面目にやるんだろうな。
それなら、と湊は思い直して自分の意思で円陣に加わりにいく。
肩に乗せられた手に力が入ったのを裕也と朔夜は感じていた。二人は気づかれないように湊の方を見てから、嬉しさで口がにやけそうになるのを必死に堪えた。
一匹狼みたいに人と関わるのが少し苦手な湊。
そんな奴が、変わりつつあるのがわかって二人も嬉しかった。
「よっしゃ! やるぞ! 絶対に勝って、勝って、勝っていくぞ!」
裕也が合図を出すと、みんなが「おー!」と言って気合を入れ直す。湊は声こそ出さなかったが、一緒に足を一歩前に踏み出した。
そのわずかな変化に、クラスメイトたちは気づき、心の中で笑う。表に見せてしまったら、警戒心の強い猫はすぐに逃げてしまうだろうから。
そうして終わった円陣の後、第一試合が始まる。
本格的な試合とは違って十五点先取もしくは決められた時間内でより多くの点数をとった方が次の試合に進める。
湊たちA組の対戦相手はC組だった。C組は湊たちと同じようにバレーボール部員が二人チームにいるらしく、ネットを挟んで裕也と朔夜は気軽に話しかけている。公式の試合ではないため、じゃんけんでサーブの権利が決まった。
チームリーダーでもある裕也はじゃんけんに負けたようで他メンバーに小言を言われながら笑っている。
「ま、相手がどんなサーブ打ってきても、俺らが取るさ。な、朔夜!」
「ボール取るのが俺の仕事だからな。如月が取れない分も俺に任せろな」
裕也と朔夜はやはり部活の仲間であるからその掛け合いも道に入っていた。そして無駄に朔夜に背中を叩かれた湊は舌打ちをした。下手に押し返したら小さな朔夜が転んでしまうのではないかと思うと、動くことができなかった。それが優しさなのだということに、本人は気が付いていなかった。
「龍之介と理玖はとにかくボールを上げてくれればいいぞ。それで、湊は相手のボールをブロックしてくれればいい。アタックは打てそうな奴が打つって感じにするとして……とにかく、ボールを上げていこう!」
裕也がテキパキと作戦を話しながらそれぞれがポジションにつく。セッターに裕也、アタッカーに龍之介と湊、後衛に咲夜と理玖が立つ。そして、相手もポジションにつき、ホイッスルの音が鳴り響き試合が始まる。
裕也はどちらかというと千秋のような強引さを持ち合わせており、湊は拒むに拒めなかった。これが、和馬のような人だったら、ひたすら文句を垂れ流すところだったが、根っからの善人である裕也にそれはできなかった。
「相変わらず、湊はこういうみんなで何かするの苦手なんだな」
スポーツ用のメガネをかけた小柄な生徒がニヤニヤと笑っている。彼も身長は低いがバレーボール部に所属しており、そこそこ勉強もできる男だった。小柄な生徒――加藤朔夜は引っ張られてくる湊の腰のあたりをバシバシと叩いてくる。
「去年もやってるんだから、もう慣れても良いのにな」と、裕也は笑っている。それに他のチームメンバーも笑って頷く。
湊はこういう和気藹々とした雰囲気が苦手だった。とっつきにくいはずの湊に対して誰も尻込みしない。むしろ、暖かく迎えようとしてくれる。そういう態度に湊はどう返せば良いのかわからなくなる。
「よし、湊もほら、肩に手を回せって」
裕也と朔夜が誘導するように湊の手を肩に持っていく。無理やり円陣の輪に入れられた湊の機嫌は谷底まで落ちていく。
それを分かりながらも裕也たちは楽しそうに笑っている。
「絶対に優勝するぞ! そんでもって、みんなで打ち上げしような!」
裕也たちは顔を突き合わせて互いにエールを送り合う。
「それ、打ち上げがメインのやつじゃん」と、茶化したように湊と同じように背の高い生徒――逢瀬龍之介が言う。すると隣でくすくすと笑いながら力強く立川理玖という生徒が頷く。
「えー、そんなことないって。ちゃんと、勝って、美味い飯食おうぜって言ってるだけじゃん」
メンバーに笑われた裕也は不満そうに口を尖らせている。しかし、次の瞬間には真剣な眼差しでそれぞれの顔をじっと見ていた。
湊はその真剣な瞳を見て、弓を射ろうとした千秋のまっすぐな瞳を思い出す。
なんでこんな時まで千秋のことを思い出さなきゃいけないんだ、と心の中でぼやきつつ頭から千秋のことを追い出す。
その時、ふと湊はこういう時千秋ならどうするんだろうと考えた。
――きっとあいつなら、一緒にふざけながら、でも真面目にやるんだろうな。
それなら、と湊は思い直して自分の意思で円陣に加わりにいく。
肩に乗せられた手に力が入ったのを裕也と朔夜は感じていた。二人は気づかれないように湊の方を見てから、嬉しさで口がにやけそうになるのを必死に堪えた。
一匹狼みたいに人と関わるのが少し苦手な湊。
そんな奴が、変わりつつあるのがわかって二人も嬉しかった。
「よっしゃ! やるぞ! 絶対に勝って、勝って、勝っていくぞ!」
裕也が合図を出すと、みんなが「おー!」と言って気合を入れ直す。湊は声こそ出さなかったが、一緒に足を一歩前に踏み出した。
そのわずかな変化に、クラスメイトたちは気づき、心の中で笑う。表に見せてしまったら、警戒心の強い猫はすぐに逃げてしまうだろうから。
そうして終わった円陣の後、第一試合が始まる。
本格的な試合とは違って十五点先取もしくは決められた時間内でより多くの点数をとった方が次の試合に進める。
湊たちA組の対戦相手はC組だった。C組は湊たちと同じようにバレーボール部員が二人チームにいるらしく、ネットを挟んで裕也と朔夜は気軽に話しかけている。公式の試合ではないため、じゃんけんでサーブの権利が決まった。
チームリーダーでもある裕也はじゃんけんに負けたようで他メンバーに小言を言われながら笑っている。
「ま、相手がどんなサーブ打ってきても、俺らが取るさ。な、朔夜!」
「ボール取るのが俺の仕事だからな。如月が取れない分も俺に任せろな」
裕也と朔夜はやはり部活の仲間であるからその掛け合いも道に入っていた。そして無駄に朔夜に背中を叩かれた湊は舌打ちをした。下手に押し返したら小さな朔夜が転んでしまうのではないかと思うと、動くことができなかった。それが優しさなのだということに、本人は気が付いていなかった。
「龍之介と理玖はとにかくボールを上げてくれればいいぞ。それで、湊は相手のボールをブロックしてくれればいい。アタックは打てそうな奴が打つって感じにするとして……とにかく、ボールを上げていこう!」
裕也がテキパキと作戦を話しながらそれぞれがポジションにつく。セッターに裕也、アタッカーに龍之介と湊、後衛に咲夜と理玖が立つ。そして、相手もポジションにつき、ホイッスルの音が鳴り響き試合が始まる。
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