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4話 体育祭 -前編-
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無事にリレーの予選を終えた千秋は湊を探していた。
決勝に進むことができたことを湊に報告したかったのだ。そして、湊のほうの結果も知りたかった。
要するに、湊と話がしたかったのだ。
「バレーの試合はおわっとるみたいやけど、如月はどこ行ったんかなぁ」
観戦している生徒をキョロキョロと見渡しながら進んでいく。湊は他の生徒よりも身長が高いから、すぐに見つかると思っていたがそんなことはなかった。
どこかで休んでいるのかもしれない、と日陰とかも探していくが湊の姿はどこにもなかった。
「あれー? 千秋ちゃんだー!」
声をかけられたかと思うと腕を引っ張られた。千秋は驚いて声のした方を見ると、ふわふわの髪を一つに括った優奈がいた。優奈はキラキラと装飾されたスマートフォンを持った手を振り、ニコニコと笑っていた。
「あ、えっと……誰さんやっけ?」
「あ、そっか! 自己紹介はしてなかったねー。私は、小鳥遊優奈だよー。千秋ちゃんは千秋ちゃんだよね?」
体育館横の自販機のそばで湊と話していた記憶を掘り起こしながら、優奈の自己紹介を聞く。優奈は髪と同じようなふわふわとした喋り方だった。
「おう、俺は神原千秋や。よろしくな」
「よろしくー……ところで、千秋ちゃんはなんでここにいるの? 私はねー、満ちゃんを待ってるんだぁ」
「俺は、如月を探しとるんや。どこかで見んかった?」
満というのが誰か千秋にはわからなかったが、そのまま会話を続ける。優奈はこめかみのあたりを人差し指でぐりぐりと押し込みながら考え込む。
「あ! そうそう、さっき千枝ちゃんと梨沙ちゃんが連れてくの見たよー。場所はねー、確か、運動場の近くだったと思う」
パッと花が咲いたような笑顔を見せると優奈は先ほどまで千秋が競技を行っていた方を指差す。千秋はすれ違っちゃったか、と思いながら優奈に感謝の気持ちを伝えようとした。
その時、優奈はいきなり千秋の肩に手を回してきた。
そして、ぐいっと顔を近づけるとスマートフォンを掲げた。パシャリという乾いた音が聞こえたかと思うと、優奈は千秋の横でにっこりと笑った。
「記念撮影だよー。後で、送ってあげるねぇ」
スッと体を話して優奈はスマートフォンを触り、今撮った画像を千秋に見せる。そこには綺麗に笑う優奈と驚いた表情をする千秋が写っている。
「なんや、撮るんやったら先に言ってくれんと。言ってくれれば最高の顔作ったのに」
ノリよくキメ顔を作ると優奈はケラケラとおかしそうに笑った。
「あはは、千秋ちゃんって面白い人だねー。湊ちゃんが気にいるのもわかるよ」
「……! 如月、俺のこと気に入ってくれとるん?」
「うーん。私は高校になってから湊ちゃんと一緒になったけど、あんなにいろんな顔を見せてくれたのは初めてだったよー」
優奈は頭の中で百面相する湊を思い出してクスッと笑う。元々静かな人で、周りから一歩引いたところにいるような人だった。
いつも何かを探す迷子のような様子を見せ、人との距離感で困惑しているようだった。
だからこそ、あの日、いろんな顔を見せる湊を見て優奈は驚いたのだ。
――湊ちゃんも、ちゃんと人と繋がりたいんだ、と初めてそう思えた。
その変化をもたらしてくれた目の前の転校生に「ありがとう」と伝えたいほどだった。
だけど、きっと千秋はそんなことを考えて湊のそばにいるわけじゃない。今こうして話していてそれがなんとなくわかった。だから、優奈は笑うだけでそれ以上のことは何も言わなかった。
「私、千秋ちゃんのこともっと知りたいな。それで、湊ちゃんも含めて、みんなでこれからの高校生活をもっと楽しいものにしようね!」
スマートフォンを口元に持っていき、満面の笑みを見せる。キラキラと輝くような笑顔を見て千秋は思わず息を呑んだ。
その笑顔に負けないくらい輝く笑顔を千秋も見せる。
「おう! よろしくな!」
決勝に進むことができたことを湊に報告したかったのだ。そして、湊のほうの結果も知りたかった。
要するに、湊と話がしたかったのだ。
「バレーの試合はおわっとるみたいやけど、如月はどこ行ったんかなぁ」
観戦している生徒をキョロキョロと見渡しながら進んでいく。湊は他の生徒よりも身長が高いから、すぐに見つかると思っていたがそんなことはなかった。
どこかで休んでいるのかもしれない、と日陰とかも探していくが湊の姿はどこにもなかった。
「あれー? 千秋ちゃんだー!」
声をかけられたかと思うと腕を引っ張られた。千秋は驚いて声のした方を見ると、ふわふわの髪を一つに括った優奈がいた。優奈はキラキラと装飾されたスマートフォンを持った手を振り、ニコニコと笑っていた。
「あ、えっと……誰さんやっけ?」
「あ、そっか! 自己紹介はしてなかったねー。私は、小鳥遊優奈だよー。千秋ちゃんは千秋ちゃんだよね?」
体育館横の自販機のそばで湊と話していた記憶を掘り起こしながら、優奈の自己紹介を聞く。優奈は髪と同じようなふわふわとした喋り方だった。
「おう、俺は神原千秋や。よろしくな」
「よろしくー……ところで、千秋ちゃんはなんでここにいるの? 私はねー、満ちゃんを待ってるんだぁ」
「俺は、如月を探しとるんや。どこかで見んかった?」
満というのが誰か千秋にはわからなかったが、そのまま会話を続ける。優奈はこめかみのあたりを人差し指でぐりぐりと押し込みながら考え込む。
「あ! そうそう、さっき千枝ちゃんと梨沙ちゃんが連れてくの見たよー。場所はねー、確か、運動場の近くだったと思う」
パッと花が咲いたような笑顔を見せると優奈は先ほどまで千秋が競技を行っていた方を指差す。千秋はすれ違っちゃったか、と思いながら優奈に感謝の気持ちを伝えようとした。
その時、優奈はいきなり千秋の肩に手を回してきた。
そして、ぐいっと顔を近づけるとスマートフォンを掲げた。パシャリという乾いた音が聞こえたかと思うと、優奈は千秋の横でにっこりと笑った。
「記念撮影だよー。後で、送ってあげるねぇ」
スッと体を話して優奈はスマートフォンを触り、今撮った画像を千秋に見せる。そこには綺麗に笑う優奈と驚いた表情をする千秋が写っている。
「なんや、撮るんやったら先に言ってくれんと。言ってくれれば最高の顔作ったのに」
ノリよくキメ顔を作ると優奈はケラケラとおかしそうに笑った。
「あはは、千秋ちゃんって面白い人だねー。湊ちゃんが気にいるのもわかるよ」
「……! 如月、俺のこと気に入ってくれとるん?」
「うーん。私は高校になってから湊ちゃんと一緒になったけど、あんなにいろんな顔を見せてくれたのは初めてだったよー」
優奈は頭の中で百面相する湊を思い出してクスッと笑う。元々静かな人で、周りから一歩引いたところにいるような人だった。
いつも何かを探す迷子のような様子を見せ、人との距離感で困惑しているようだった。
だからこそ、あの日、いろんな顔を見せる湊を見て優奈は驚いたのだ。
――湊ちゃんも、ちゃんと人と繋がりたいんだ、と初めてそう思えた。
その変化をもたらしてくれた目の前の転校生に「ありがとう」と伝えたいほどだった。
だけど、きっと千秋はそんなことを考えて湊のそばにいるわけじゃない。今こうして話していてそれがなんとなくわかった。だから、優奈は笑うだけでそれ以上のことは何も言わなかった。
「私、千秋ちゃんのこともっと知りたいな。それで、湊ちゃんも含めて、みんなでこれからの高校生活をもっと楽しいものにしようね!」
スマートフォンを口元に持っていき、満面の笑みを見せる。キラキラと輝くような笑顔を見て千秋は思わず息を呑んだ。
その笑顔に負けないくらい輝く笑顔を千秋も見せる。
「おう! よろしくな!」
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