ハッピーシュガーソーダ

豆茶

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4話 体育祭 -前編-

4-7

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「うんうん! あ、満ちゃんだ」

 優奈は千秋の後ろをのぞいて誰かに手を振る。振り返ると麻茶色が太陽の光で輝く生徒が立っていた。

「優奈! やっと見つけた。てか、ここ人多すぎだろ」

 その生徒は人混みを見つめながらげんなりとした顔を見せる。そして千秋の方を見ると、少し考えた後ハッとする。

「あんた、転校生か。俺は天道満、優奈と同じクラスなんだ」
「俺は神原千秋って言うんや。よろしくな」

 笑って自己紹介をした千秋のことを満は、上から下まで品定めをするようにじっくりと観察する。

「あんただろ、湊を骨抜きにしたってやつ」

 一通りの観察が終わり満足したのか満はニヤリと笑った。揶揄うような笑顔だったが、バカにするような感じはなく嫌な気はしなかった。

「俺はいいと思うぜ。もっとあいつを困らせてやれよ。それくらいがあいつにはちょうどいいだろ」

 腕を組み一人で納得している。

 満の知る湊は、一言で表すなら警戒心の強い野良猫だ。近寄るもの全て威嚇して、必死に自分を守っているようなイメージだ。そしてそのイメージはおそらく間違いじゃない。

 どうしてあそこまで人を警戒するようになったのか。満は彼の過去については何も知らなかった。知る必要がないと思って知ろうとしていなかったのだ。

 必要なのは過去ではない。今を生きることが大切なのだ。

 だけど、と心の中で呟く。

 湊の過去も全てひっくるめて救い上げられる奴がいるなら、満は全力で応援したかった。

 人と関わることを恐れている野良猫が、人の温もりに触れて、信じる機会があってもいいと思うのだ。

「千秋は悪い奴じゃなさそうだしな。もしも、湊のことで知りたいことあったらなんでも聞けよ」

 湊のことを託すように拳を突き出す。千秋は一瞬驚いた後に、ニカっと笑って同じように拳を突き出す。

 コツンと触れ合った拳が信頼の証だった。

「いいね! 私もやってもいい?」
「ダメだ。これは男同士の絆の証なんだよ」

 手を挙げて優奈も加わろうとするが、千秋の前に立ちはだかるように満が立つ。そして体の前でバッテンを作るとべっと舌を出す。優奈は不満そうに口を尖らせながらもおとなしく引き下がった。

 その時、ピーっとホイッスルの音が体育館の中から聞こえてきた。どうやらバレーボールの試合が終わったようだ。

 ゾロゾロと中から汗を流した生徒たちが流れてくる。

 その生徒たちの間から千秋の見知った生徒がタオルで汗を拭いながら出てきた。

「竹内先輩!」

 目を輝かせて名前を大きく呼ぶ。千秋の視線の先にいるのは弓道部に主将である雄大だった。

 雄大は千秋の声に反応して片手をあげる。千秋は嬉しそうに雄大のそばに行く。まるで主人を見つけた犬のように、尻尾が見えるような気がした。

 満と優奈はお互いに顔を見合わせて、笑い合うと千秋の後に続く。

「よう、千秋じゃないか。お前はたしか、リレーに出てるんだよな?」
「うっす! こんちわ、先輩! 竹内先輩はバレーなんすか?」
「そうだよ。バスケでもよかったんだけど、去年と違うのに出たくてな……そっちのは千秋の友達か?」

 爽やかな笑顔を見せる雄大に満と優奈は会釈する。千秋は満面の笑みで頷くと、二人のことを引っ張った。

「天道と小鳥遊です! クラスは違うんやけど、友達になってくれたんすよ!」

 お気に入りを見せるように千秋は二人を雄大に紹介する。雄大の後ろからは彼の同級生がチラチラとのぞいていた。そして茶化すように「後輩に好かれてんな、雄大」とか「俺にも声かけてくれる後輩いないかなぁ」とか言われていた。

 雄大は「お前ら、あっち行っとけって」と手で振り払うと、同級生はケラケラと笑いながら去っていった。

「悪いな、俺の友人が。悪い奴らじゃないんだけどな……楽しい雰囲気に当てられやすいんだよ」

「別に大丈夫っす!」と千秋は答える。

「はは、それは千秋がいうことじゃないだろ……まぁ、天道も小鳥遊もこいつのことよろしくな」

 雄大はぐりぐりと千秋の頭を撫でる。身長差的に撫でやすい位置にある千秋の頭を雄大はよく撫でていた。だから、千秋も嬉しそうに、だけど恥ずかしそうに騒いでいる。

「うるさい奴だけど、根はいい奴なんだ。それに、こいつがいるだけで空気もガラッと変わって明るくなるしな」

 雄大はニッと二人に笑いかけると、同級生の後を追いかけるようにその場から離れる。

 最後まで千秋は雄大の背中に手を振り続け、完全に姿が見えなくなると満たちに向き合う。

「急にすまんかったな! あの人は弓道部の主将の竹内先輩っちゅうねん。おおらかで優しい先輩なんやで」

 千秋の言葉通り、裏表のない運動部の人らしい人だと満は思った。

「別にいいよー。千秋ちゃんの楽しそうな顔も見れたし!」

 優奈は自分のことのように嬉しそうに笑っていた。満もその言葉に頷くと、千秋は恥ずかしそうに顔を赤ながら微笑んだ。

「あー! 優奈に満! やっと見つけた!」

 その時、誰かが二人の名前を呼んだ。
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