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異世界入り

葉巻中毒で呑んだくれの剣士

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魔法陣に穴が開いて足元がなくなる喪失感と共に、一瞬で景色が森に変わるついでにヒューと風切り音と突風私を覆う短い間隔の後、私はゴンっとお尻に鈍痛を感じて、暫くその場でもがき苦しむ。

先輩と異世界は、幾ら憧れの人でもあのテンションを四六時中相手をしなくてはいけないのは、100年の労働の方が明らかにマシな拷問だろう。

なのに、あの上司と来たら私を異世界に飛ばし、更には“空中”に投げ出して捨てやがった。まぁ、空中と言っても4メートル程で、空中100メートルも飛ばされて等いない。



「痛って、てってて。くそう。こんな方法で飛ばすとか、もしも当たりどころが悪かったら死ぬのに、、、、そうそう!先輩大丈夫ですか!」

お尻をさすり、激痛をちゃんと味わいながら、私は共に落ちただろう先輩を探す。

しかし、どうやら前と左右にはいないようで、後ろを見ると、、、、頭から地面に突き刺さってた先輩がいた。

コレはヤバい。予想しうる最悪な事が初手で起き、早くも一人の一応味方を失いかけた私は、先輩を地面から抜いて顔の泥を振り払う。



「せっ、せんぱーい!聞こえますか!私です、天次空です!死んでませんよね?」

「うっ、うう、、、、あぁ、聞こえるよ空ちゃん、、、、超痛い」

「よっ、良かった、、、、」

目を細く開け、先輩は私の返事を返す。

「ううっ、痛いけど、、、、よいしょ。あーあー大丈夫だよ。骨とかもズレてないし」

「本当に良かったですね先輩。一応言いますと、私はお尻を痛めただけで他は特に異常なしです」

「うんうん。良かった良かった。空ちゃんも無事で」

首を地面に突っ込み身体に大きな影響はないが、それでも私が痛いように先輩も痛い筈なのに、先輩は柔らかい笑顔で私の頭を撫でで自分に問題がないのを空元気で誤魔化す。



「と・い・う・か、、、、っあんのクソ上司!今度見付けたら一発殴らんと気が済まないよ!あぁ、首が痛いよぉ!」

私を一頻り撫でると、プンスカプンと頬を膨らませて怒り、確実に見てもいないし聞いていないだろう上司に文句の言葉を述べる。

あまりにもぞんざいな扱いに、私も先輩と一緒に文句を言おうと口を開くが、先輩が私を撫でた手の逆の手に握られてた資料がプルプルと震えてた。

「先輩。その手の資料震えてますよ」

「ん?あっ、本当だ。なんで震えてるんだろう?」

「さぁ?というか、そもそも何を貰ったんですか?一応天界から貰った物ですし、多分魔法的なアレだと思うんですけど」

不思議な出来事に私と先輩は首を傾げて、震えてた資料をピッと引いて手に持つ。

資料自体はファイルだったり、封筒等が複数ある中で振動していたのは真っ白な紙きれ一枚だった。

その無地紙きれを「何だろう」と、先輩が丁寧に両手で持って見詰めると、ブワッと絵が浮かんで声が聞こえる。



「あーあー聞こえるかな?空ちゃんにカナリエ先輩。コレは一応異世界と、こちら天界の通信手段となっているから、困った事や欲しい物があれば教えてね」

テレビの様な実際の声と少々違う声がするが、この声に浮かび上がっている絵は、見間違え訳ない優しそうな雲さんだった。

「困った事?なら一発でいいから、あのクソ上司を殴らせて貰えますか雲さん。アイツを殴らなければ、この腹の虫が治りません」

「あぁ、それなんだけど、、、、ついさっき有給を申請して帰ったよ」

「騙されませんよ。天界には、有給なんてありませんのは知っていますから。それに、雲さん。雲さん絶対に私が先輩と一緒に異世界行くのを拒否してたのを分かってますよね?」

「、、、、うん。そうだね。というか、必死に逃げようとする位だから、あの上司も気付いてたよ」



やっぱりか。そう思うと、私は手をおでこに当て、益々怒りで体温が上がるのを直に感じる。

「まぁ、いいですよ。どうせコレを終わらせれば50年もダラダラと机に向かわなくていいですし、ご協力頂けるなら十分に楽な仕事ですよ。手伝ってくれるんですよね?『欲しい物があったら教えてね』って言いましたよね?」

「あははは、空ちゃんやっぱりソレに気付いちゃったか、、、、正直言うと、気付かなければ楽だったんだけどね」

両手の人差し指同士をツンツンし、視線を逸らしながらサボり発言を口にするが、それを相手にせず私は要件を聞く。

「それ位誰だって気付きますよ。と言う訳で、欲しい物を送るってどういう事ですか?」

「うん。それなんだけどね。私達は仕事をするに際して、世界に事象を起こすよね?でも、通常なら事象はほんの僅かば事しか出来ないけど、空ちゃん達を通した場合。少々魔力を使う代わりに、こちらで物が遅れるんだよ。ホラ、天界は生前の心残りを消したりも出来るからその感覚でさ」

「なるほど。つまり私達が少々欲しい物があれば、雲さん次第で私達に送る事が出来るのですね」

ザッツライトと私の理解に判子を押して、雲さんは笑う。



「まぁ、空ちゃんの意見を無視したのは悪いと思ってるから、本当に簡単な物だったら遠慮せずに言ってね」

額に小粒の汗を掻き、断腸の思いだろう決断を明言する。

「そうですか。まぁ、一方的にたよらない程度には頼りますよ。それよりも、、、、“魔力”とは?私達の仕事は魔王討伐を言われましたので、もしかしてここは魔法がある世界なのですか?」

「うん。その通り。けれども当然ここはこっちと違って魔法も簡単じゃないし、半無限に使える訳じゃないから気を付けてね。魔法もどういう仕様かは、実際にそっちの人に聞いてね」

「はい。分かりました。それと、魔法なのですが、その言い方ですと使用人口が少なくないのですか?」

「うん。そこそこは使用人口あるし、得手不得手はあってもどんな魔法も原理的には全員出来る世界だよ。あと、私と上司からのささやかなプレゼントとして、先輩が持っている物にここら辺じゃ死なない耐久力と、天界で使えてた魔法を幾つかそっちでも使えるようにしたから、暫くは困らないと思うよ」

そう言い、「そんじゃバイなら」と言うと、私も「バイなら」と雲さん返す。



雲さんの肖像が消えると、先輩の手に持ってた紙はこの世界と思わしき地図に早変わりし、更に指で突くと拡大なり縮小なりが出来る。更に、GPSの様に赤い点が多分私達の現在地を示してる。

随分と便利な物を貰ったなと感心しながら、私は現在地から最も近い集落を探すと、、、、

「『ナブルカ村』?ここが現状一番近い村か。取り敢えずは、そこに行きましょう先輩」

「オッケー。先輩ちゃんは空ちゃんに素直に従うよ。それと、気になってはいたんだけど、『ここら辺じゃ死なない耐久力』ね~。どおりで死なない訳だね」

そう吐いて、首をさすりながら先輩は地図を頼りに歩き、ナブルカ村に向かう。







手っ取り早く森林を抜け、簡単に作られたあぜ道を二時間程歩くと、一軒の農家の家を発見すると同時にこの赤点が自分達であると断定出来、事実区切り的にはナブルカ村に入ってた。

そこから更に村の奥に向かい、私達はゲームでよく聞く所謂ギルドへ向かう。



そして、そのギルドの前の立つと、私達は少し悩み事を解決しようと悩む。

「さて、先輩。私達はよく考えませんでしたけど、“コレ”をどうしますか?」

「さぁ?正直どうしようもないんじゃない?それに、コレもう慣れたんじゃ?」

「いや、慣れるというか、皆んな同じ姿なんだから一人だけじゃないっていうのが、凄く羞恥心を抑えるんですよ」

「いやいや、空ちゃん。本物の女の子の勝負服は、“裸”だよ」

先輩は艶っぽくそう微笑むと、私達が着る布だけの服の肩辺りをポロリと露出させる。



そう、森の中の居たから気付かなかったし、少なくともあの一年ではこの天使が着てそうな服を、周りも自分も着てたから特に違和感はなかった。

しかし、周りの人の視線を感じて、、、、つい気付いてしまった。ギルドの前だから、そこそこ人がも居て視線がちょっと洒落にならない程度に痛い。

だが、「まぁ、今回は諦めますよ先輩。こんなにも早く頼るのは良くないですし」

ふと過ぎった雲さんの協力を、私は今はしないとバッサリ切り捨て、ギルドの門を潜る。



重い木の門は、鉄の蝶番に大きな音を立たせて、不健康な空気を外に放つ。

キツイタバコとお酒の匂いに、一部腐敗した床板。更には、むせるような臭い汗。

暗いランタンの下には、何人ものファンタチックな格好をした者が酒と飯を食い、賭博を行う。

中々に不健全で、学生立ち入り禁止な場所だが、私と同い年どころか小学生位の子も居て、控えめに言うならば汚いレストランの様な雰囲気を醸し出してた。

そのギルドを見て、私は一言感嘆の声を零す。



「スゲェ。カッコいい」



ヤバイ光景ではあるが、アニメや漫画の中でしかなかった世界が、今私の前で躍動する。

その躍動の中。入って来たヤバイ格好二人に、この場の全員がそれを凝視して笑い、大声でこう叫ぶ。

「ようこそ、ナブルカ村ギルドへ!!」



圧倒的な歓迎の声の音圧に、私が震えていると、私の正面の席の男が大ジョッキをテーブルの上の置いて、私に右手を差し伸べる。

ボサボサで、整えられていない油まみれの頭に、全く剃っていない無精髭。

服も汚く、更には“左腕が半分ない”始末で、二本同時に葉巻を吸うという逆に、全く吸う意味がなさそうなヘビースモーカー。

だが、何故か感じる強い安心感を出し、男は一言語り掛ける。



「新入りだな。どうだ?俺を用心棒として雇うのは?」
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