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馬車とデーモン

賭け

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「ふーん。世間一般じゃツルハシ売った人が一番儲かったなんて言われてたけど、実際はジーンズ売った人かインフラ整備をした人か。しっかし、資料に載ってるこの時稼げた事なんて、もう全員やってそうだな。折角コレをアテにしたのに」

私は雲さんに渡された資料を、眠りたい脳を叩き起こしながら見詰める。

先輩の看病の後にコレを見るのは体に堪えるなぁ。



「本とかを見てどれが良いか選ぼうとしたんけど、便乗するだけならネットの知識でもいいよね?」

「ん。まぁ、インフラ整備も、ジーンズの販売も私達は出来ないので、最後に本当に便乗するだけですから十分だと思いますよ。それに、重要視されるのは前半ですから、本を探しても後半の稼ぎ方は書かれてないでしょう。あー本当に稼げそうな事って何だ?小遣い程度の事とかないのか?」

雲さんが間接的に資料に信憑性がなく、情報も少ない事を伝えられるが、別に書籍から情報を得たとしても鵜呑みにするつもりは更々なかった。

私にジーンズを販売する資本もなけりゃ、インフラ整備する能力もねぇ。ついでにここは異世界!

「まぁ、適当でいいですよ。地球の物差しで測った詳しい資料ならどっかで失敗しますから臨機応変で」

共通点は多々あるだろう。だが、小さなミスが大きなミスを生むのはこの世の常。どうするれば小遣い稼ぎが出来るんだろうか。



「うーむ。ゴールドラッシュが真っ只中なのか、はてはもう末期かは分からないが、一応末期にする事を決めるか。そっちの方が多分やり易い筈だ」

中期がどれだけ続くか分からないが、末期突入は分かり易い筈だ。

「やっぱり帰りの馬車手配かな?でも、そんなの手配出来る能力なんてないしなぁ。だったらテント売り?そんなのもう全員持ってるか、、、、」

「いっそバケツやシャベルとかの金属品を回収したらどうや?」

「回収して何にするんですか。それに、そんなのは現地でしてるでしょ」

案を出したりすれば否定され、別の案が出されては否定して全く何をするか決まらない。

ゴールドラッシュによりアメリカでは軽視されてた西側に目が行き、そこへ行く為の列車や船が走り、新たに移動ルートどころか物流が形成される。

ゴールドラッシュはアメリカの西への関心を高めただけではなく、物流を形成して以後に始まる西海岸開拓の一歩となり、アメリカの経済をラッシュ崩壊後も成長させた。

歴史に名を残すこの一大イベントに際して、私に何が出来るのだろうか?歴史の節目には天才が生まれる。

その天才が目を付けてない所を探せと?ハッ、御冗談を。



「うーむ。なんとなく何か出来ると思ったが、意外と何にも出来ないなぁ」

ゴールドラッシュ終了まではきっとまだ時間がある。便乗程度の商売なら事前準備は然程ないだろう。何か思い付いたらその時に考えよう。

そう諦めて少し寝ようとした時。

「ふぁぁ、おはようございますソラさん」

「あぁ、おはよう」

同じ部屋で寝る事になったセレナさんが起床し、挨拶を投げ掛ける。

その挨拶に私は、雲さんが映ってる紙を隠しながら答える。



「大丈夫ですか?カナリエさんの看病で熱心なのは非常に良い事ですけど、ソラさんが体を壊したりでもしたらカナリエさんは凄く悲しみますよ、、、、って、ん?なんですかコレは?」

雲さんが映ってる紙を隠したが、コレに気を取られて資料の方を見付けられてしまった。しかも手に取られた。

「ん?なんですかこの字?こんな字見た事ありませんよ」

だろうね、異世界だから。

「あーそれなんですけど、天使語の古文ですよ」

「本当ですか?なら分かりませんね、ソラさんはコレを見てて何をしてたんですか?」

「そんな事よりセレナさんに相談したい事があってですね」

「むっ、その手はもう喰らいませんよ。コレ見て何してましたか?」

ちっ、気付きやがったか。



一度やった手はもう効かないと言わんばかりに目を細め、私の言葉に惑わされんと気を張る。

「まぁまぁ、良い儲け話しだからさ、少しアイディア貸してくれるかな?儲かったら取り敢えずはおいしいものも食べるし」

「もっ、儲け話しですか!?是非聞かせて、、、、あっ、でもこの事も「問題ないのね、オッケー。よーし、じゃあ話そうか儲け話しを」

二度も似た手に引っ掛かり、悔しいという顔をしてるが、知らんこっちゃない。第一答えるにしたってどう答えりゃいいんだよ。



「むぅ~。まぁ、儲け話しってどんなのですか?」

「あーうん。そうだね、今ゴールドラッシュなのは分かるよね?で、それに便乗して何か売って儲けようかな~って」

「それって、もう便乗とか限界なんじゃないですか?本人等が望む物は可能な限り現地で手に入れるように業者は手を回すので、余程手に入らないモノでもなければ無理でしょ」

まぁ、知ってたよ。というか、私と先輩交互に見るの止めて。余程手に入らないモノじゃん!

「第一、商売は需要に対する供給で成立してるんですよ。欲しくない物は貴重なお金出して買わないのは誰にでも共通な事ですよ。それを新しく開拓ですか?」

「うん。それが難しいからお願いしたんだ。お願い!先輩も楽しみにしてるんだ」

頭を下げ、懇願すると、セレナさんはジッと目を閉じて一言。



「まぁ、今一つ思い付きましたよ。少々ハードルが高いですけど、やりますか?」

「先輩に待ってろと言った以上。誰が降りるんですか?」

そう答えた私に、セレナさんは耳打ちで教える。

私と同じく狙いは末期。

そして鍵となるのは、空間魔法、時間、速さ、目。

この全てを利用すれば、、、、存外悪くない結果が生み出せる。

もしかしたら、小遣いの範疇を出たりして。







セレナさんと話しを終えると、私は寝るのは馬車にでも乗った時にしようと下のギルドへと向かった。

階段を降り、取り敢えず朝食でも取ろうかとしたが、随分と妙な空気だ。けど、最近この空気を味わったよなぁ?

「皆んなどうしたの?もしかして二日酔い?それは災難だね」

ジョークっぽく明るいトーンで語り掛けたが、皆んなは笑うどころか視線を逸す。え?何で?

困惑する私に、ジギルちゃんが駆け寄り紙を渡す。

そこには、、、、うん。寝りゃあ良かった事が書かれてあった。

イラストを解釈して要約。『あの悪魔を殺せ』と――
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