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第7話 お二人さんと入学式 茉莉Side
しおりを挟む「ねえねえ!!」
女子高生ばりのテンションで話しかけてくるのはお母さんだ。
お母さんは、絆と絆のお父さんが買い物に出かけるや否やこんな調子で私に話しかけてきている。
ちなみにだけど今の「ねえねえ!!」は私が無視してから十回目くらいだ。さすがにそろそろ限界だろう。「はあ……」とわざとらしくため息をついて見せる。
「なに?」
まるで餌に食いついた獲物を見る目だった。もちろん私は罠にかかったほうだ。
こうなった時のお母さんは止められない。分かってはいる。分かってはいるのだけど、ただで引っかかるのも癪だった。
「絆君とはどうなの?」
やっぱりこの質問だったか。
母は妙に絆に対して興味を持っていた。
まあ、それも当たり前かもしれない。私には今まで浮ついた話題が無かったからお母さんからしてみればそんなの興味ありまくりでしょうがないのだろう。
始めて会った時は、正直に言うとなんとも思っていなかったというのが私の解答だ。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だとよく言うけれど、まさに元より彼に対して抱いていた感情なんてその好意で示せる範囲にも入っていなかった。
うちの家族はわりかし親戚同志でよく集まっていただけに面識はあったし、顔くらい何度もあっていれば覚える。ただ、個人的に会話した記憶もほとんど無いし正直何か感想を持てというほうが難しい。
読んだことの無い本の感想文を今いきなり書いてといわれても書けないのと同じで、中身を知らないのにあれやらこれやらの感情を持てというのが無理だ。
「どうっていわれても、普通としか」
これが今の私が前までの私ではないという一つの証明だろう。
「ふうーん、普通……ね?」
お母さんも私が言っていることの意図は理解しているのだろう。さすが母親というべきか。
「母さんは心配だったんだよこれでも、そりゃあ幾ら親戚だと言っても若い男女がいきなり一緒に住むことになるのだもん。おばさんにも困ったものだわ」
「まあ、それは言えてる」
もちろん私にとってはありがたいことこの上ない申し出だったのだが、まさかこんなことになるなんて誰が予想したことか……。
さすがにそれを予想できていたのだとしたら、私から話しかけるくらいは……いや、むりだ……。
彼の性格からしてまず元から知ってたら同棲したくないと向こうから言っていたに違いない。私は自分でいうのもなんだが人から好かれるような性格はしていないだろうから。
それに、彼はどちらかと言うと私とは真逆だろうし。
私はどちらかと言うと思い立ったが吉日をモットーとしている。決まっている日常なんて楽しく無いじゃん?
ただ、それとは反対の考えをしているのが彼なのだろう。
何かにつけて効率を求めたがっているのは知っているし。先日もそれですこし怒られたっけ。
これはお互いが育った環境もあるだろうから何もいえない。むしろあったかもしれない姿の私なのかもしれないし。
意外と私のお母さんはスペックが高い。働きながら私の面倒をしっかり見てくれていたし……。料理はまあ、多分私個人の意見を言うなら絆の方が私好みなんだけど。まあ、比べるもんではないか……。
ただ、それを抜きにしても働きながらの育児なんて大変だろう。それに女性だから余計に。その点ではもし母が何もできない人だったとしたら私も彼のように色々考えて生きていたのだということは十分考えられる。
「まあ、でも……」
でも……、ここからは昔の私が……ではなく今の私が思う私の感想だ。
「今は、一緒にいても悪くないかなーとは思うよ。悪い奴じゃあないし」
「ふーん」
お母さんが少しだけにやついていた。
「茉莉にそこまで言わせるのって思ったよりいい子だったんだね、絆君」
「まあ……」
いい奴だっていうのは認める。
だってそうでしょ? いきなり他人と住むこととかになったのに自分だけでなく他人の生活まで心配してお節介焼くような人が悪い人なわけないでしょ! あーはずかしっ!!
思わずプレゼント選んじゃうくらいには感謝しても仕方ないじゃん!!
反りが合わない私に対して世話焼いてくれるんだもん少しくらい私から近づいてもいいかなって思った。
「なんか、いい顔するようになったね」
「え……」
「だってお父さんが無くなってからあなた、他人と距離をとるように生きてたじゃない」
それは……そうかもしれないけど……。
近すぎる相手がいなくなるのは辛いから……。それなら元から近すぎなければ傷つきもしない……。だって親交の無い家族も他人同然だから。
「茉莉がこっちに来て正解だったかもね!」
なんだか久しぶりに本当の意味で笑ったお母さんを見た気がした。
だって、距離を置くよりも前に詰められちゃったんだもん。
「こっちに来てそんな変わったのかな」
「あなた、ここ最近鏡で自分の顔見てるの?」
馬鹿にしとるのか、毎日顔洗う前も、風呂に入る前も見とるわ!
「見てるし……」
「そう……?」
お母さんはそう言って「ふふっ」と笑っている。
「でも、もし気付いていないんだとしたら、知らず知らずのうちに絆君は茉莉に欠けていた何かを埋めてくれているのかもね!」
「またまたー!」
ただでさえ久しぶりだからお母さんと真剣な話するの照れくさいのに話題が……。
「はい、この話題お終い!!」
「ええ~!! もっと聞きたい~!!」
「子どもかっ!」
「私は子ども心を忘れたことは無いわ!!」
「も~」
「それにしても、絆君の作る料理はどんな感じなの?」
「え~それは自分で食べてみて判断しなよ」
それに、お母さんだって言ってたでしょ? 私を知らず知らずのうちにどうのこうのって。そんなことを母親に気付かせるような人の作る料理なんだし、美味しくないわけが無いでしょう?
ああ~、今日のから揚げ楽しみだな。
最初は別に一緒のご飯なんて食べるつもりはなかった。
けど、気付けば私たちは当たり前のように同じ食卓を囲んで、同じ釜の飯を食べるようになっている。お陰でお母さんにまでこんな話をされてしまう事態だ。
あの男今後どうしてくれようか……。
まるでこれだけ見たら私は餌付けされてしまって、その餌付けした人がいなければ生きていけなくなってしまった野良猫のようではないか。
まったく持って不本意だ!!
「あなた、今絆君のこと考えていたでしょう」
もぉ~~!!!! 絆早く帰ってきてよぉ~~!!!!
「あなたがそんな風に変わってしまうような料理、私も早く味わってみたいものね……」
お母さんは自分で「じゅるり」と擬音語を使っていた。
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