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第6話 お二人さんと入学式
しおりを挟む初めてこっちにやってきてからそろそろ一ヶ月が経とうとしていた。
最初は不安しかなかった奇妙な同棲生活もお互いの協力もありつつ特に何事も無く過ごせている。
「じゃあ、二人ともこっち向いて!!」
そう楽しそうな声を上げるのは茉莉のお母さんである春奈さんだ。
ちなみにそのレンズの向こう側には俺の父さんもいたりもする。
俺と茉莉は、でかでかと海陽学園大学入学式と書かれている立て看板の前に陣取って写真を取られている最中だったりする。
そう本日は、俺と茉莉の入学式なのだ。
父さんも春奈さんも今日は仕事を休んで朝からきてくれたらしく、今日はそのまま俺らの住んでいる家に泊まって明日帰ることになるとのことだ。正直ありがたいけど申し訳なくもなる。
「はい、ちーず!!」
なんだかこの歳にもなってとか思うけども、実際どの家庭も似たように親に連れられながら恥ずかしくも写真をとっているといった感じだったので、俺らだけではないことにとりあえずは安心した。
「なんだか、息子ができたみたいで張り切っちゃった!!」
そういう春奈さんはなんだか子どもっぽい笑みを浮かべて写真を見ている。
どこか母さんを想起させた。
「じゃあ、お母さん! 私たちそろそろ中にいくね!!」
「あ、茉莉! 終わったら入り口で待ってるから連絡してね!!」
「はーい!」
そのまま茉莉は俺の腕を引いて中へと向かっていく。
「ごめん」
彼女から第一声はそれだった。
「お母さん張り切っちゃって!! 迷惑じゃなかった?」
「いや、なんか久しぶりな感じでなんか懐かしかったから……」
「それは確かに……」
お互い片親なこともあり、どこか似たような感覚を覚えたようだ。
俺は春奈さんに、茉莉は父さんに欠けた家族の思い出と重ね合わせてしまっていたのだろう。
「まあ、そういうこと!!」
「ん」
「じゃあ、とりあえず行こうか」
俺たちは会場の受付へと向かう。
この入学式について俺が衝撃的だと感じたのは入学式が学校で行われるものではないという点だった。
小中高と、入学式はその学校で……というのが当たり前だったので、入学式に会場を借りて行うというのが新鮮だ。これがどこの大学でもそうなのかということは分からないが。
受付の向こう側にはスーツを着た同じ入学生であろう新一年生でごった返している。
スタッフも対応しきれていないのか、受付では学部ごとの入場といわれたのに確認などせずに「この場にいる人から学部関係なく入場してください」と言っていた。
俺は茉莉に目をやる。緊張しているのか少し表情が硬い。
「ほら行くぞ」
「う、うん」
何かあるわけでも無かろうに。
とてもタメになる? 話を長々と聞かされることに嫌気が差し始める。
隣の茉莉も舟を漕いでいる様子で、自分も眠いのになんだか隣で寝られるのもむかつくから、船の進路が上から下ではなく俺側にやってきた時を見計らっておでこにデコピンを食らわせてやった。
すこしだけスカッとしたことをここで報告しておこう。
いきなりの痛みに驚いて起きた茉莉はなにがおきたか分からないご様子だったが、その様子がとても愉快だった。
結局、タメになるお話は一ミリも内容が入ってこなかった。
「はぁ~」
退場するといきなりこれだ、先ほどまでの緊張感はどこに行った。マイペースな奴だ。
俺は父さんに今から入り口まで向かうと連絡を入れておいた。
嫌になるほどの人数の人ごみを掻き分けて入り口へと向かう。
「あれ……絆君?」
ふと背後から茉莉のではない女性の声が届いた。
聞き覚えのある声、その声の主のほうへと振り返る。
「香奈……?」
「元気?」
「お、おう」
とりあえず茉莉のことは見られていないだろう。ここはさらっと流してここを出よう。
「ごめん、俺ちょっと急いでるから」
「うん、引き止めてごめん」
「それじゃあ、また」
「バイバイ」
小さく手を振っている。
それを少しだけ見て入り口へと向かう。
そういえば茉莉はどこだ。
「可愛い子だったね」
「うわっ!?」
突然背後から声をかけられたことと、見られていたことに対して二重に驚いた。
「驚きすぎ!! 見られたらまずかったの~~?」
「いや、中学校の時の同級生だ」
「ふぅ~ん」
そう呟いてそのまま歩き出した。もちろん嘘はついていない。
「結局どこにいるのか分からなかったし~」
車内で春奈さんの愚痴は止まらなかった。内容は入学式のことだ。
家族は会場の上側に席が確保されていたためそこからみていたとのことだが、俺たち同様学部で分かれると言われていたのに実際はごちゃ混ぜだった。それで俺らのことが見つけられず愚痴っているというわけだ。
それも仕方ないだろう。俺らがわからしてみればただの入学式だが親からしてみれば子どもの晴れ舞台だ。目に収めておきたい気持ちは分からなくは無い。
「まあまあ!」
それを父さんが宥めるという構図が出来上がっていた。
もともと二人は従兄弟同士なため単純に仲がいいのだろう。それを見ているとなんだか不思議な気持ちになった。
家に着き、とりあえず一旦休憩。
入学式自体は午前中の間で終わったので午後からは完全に自由だった。最近の俺の空き時間は趣味であるラノベ鑑賞と夜ご飯の献立を考える……のと、お菓子作りだ。
現在は全員がリビングに集まって各々好きなように過ごしている。茉莉と春奈さんはテレビを見ているし父さんはスマートフォンで何かしている。
俺は現在家にあった材料で最近食べたいなと思っていたババロアを作っていた。案外手軽に作れることに驚いた。
後は冷やすだけ……というところまで行き、完全に冷えるまでの間は何かしらしようと考えを巡らす。
「父さん、今日はこの後どこかいきたいとかあるの?」
「そうだなー」
あ、これ特に何も考えていなかったやつだな。
「どこか行きたい……というのはないけど何かしたい……という希望はあるかな……?」
「ん……? なんか妙な言い回しだね」
「いや、久しぶりに絆と一緒の時間を過ごすわけだし、絆の手料理を食べたいなーなんて」
言う台詞が完全に奥さんとか恋人に対して言うやつだ。
まあ、父さんは最初のほうから俺が作る料理を美味い美味いといって食べてくれていた。
そう考えると俺が家を出てから父さんはどういった生活をしているのだろう。また毎日カップラーメンとかインスタント食品にコンビニ弁当なんて生活に戻っていなければいいんだけど……。
「それは別に構わないけど」
「それでこそ俺の息子だな!」
たかが手料理でよくもまあそこまで喜べるものだ。……ちょっと嬉しくなるじゃんか。
俺が作る理由は母にあるかもしれないが、もっと上達したいと思えたのは父さんから褒められたという記憶が強いからだ。せめてそのくらいは親孝行したい。
「え! なになに! 絆君って料理できるの!」
そこに食いついてきたのは春奈さんだ。
「ええ、まあ、実家でも俺が料理担当だったので……」
「すごーい!! 料理男子ってそれだけでステータス高いよ!! 茉莉うかうかしてると絆君みたいな優良物件他に取られちゃうよ!!」
本人の目の前でそういうこと言うかね。それに茉莉もそんなこと考えもしなかっただろう。
「いや、私はできること知ってたし……」
なんだか、親に対抗しだしたぞ……。
「えー!! そういえば茉莉顔色いいわね……もしかして……食べたことあるの?」
「…………」
茉莉はじっと俺のことを見た。目線は「言ってもいいの?」と言っているように感じるがそもそもその目線と無言が肯定していると変わりないのでは?
春奈さんもその視線に気付いて、目線の先である俺を見る。
「ははーん」
といったように何か納得した様子だった。
そういうこともあって本日の夕飯は俺が作ることに決まった……まあいつも通りなのだが。
本日のメニューは一人一品ずつ案を出してそれを基にメニュー作る予定だったのだが、意外にも茉莉はから揚げ、父さんは豚汁、春奈さんは煮物といったようにメイン、汁物、そして煮物。後はここに足りなさそうな野菜の品目を加えれば少し豪華めな夜ご飯の完成である。
「じゃあ、さすがにこの品目作るにも材料必要だから買い物につれてってよ父さん」
「そのくらいはさすがにするさ、今すぐでいいのか?」
「うん、今行っちゃおう」
俺は茉莉じゃないからな、今といえば今なのだ。
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