Making

ちゃん

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Making…

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部屋のドレッサーの前に座る。数年前一目惚れして、セール品だったのもあり購入したもの。ピンクの可愛いアンティーク調の化粧台。
でも、そこに映る素顔の私は、肌はくすんでいて、目は小さくて、正直目を逸らしたくなる。

でも、お化粧とカラコンさえすれば、まだマシになる。生きる意味すら見当たらない、高校も中退したような社会不適合者ブスメンヘラからちょっと普通の女っぽくなれる。

今日はあの子とお出かけする日。薬もちゃんと効いてくれたから、多分大丈夫。眠剤が合ってるのか最近はよく眠れるし。
あの子は、バイト先で知り合った私みたいな心療内科に現在進行形でお世話になってるフリーターと仲良くしてくれてる人。私の好きな人。
栗色の柔らかそうな髪をよくポニーテールに結って、明るくて、快活で優しくて、気遣いが出来て、足がシュッと長い、少し私より背が高い子。飄々とした、澄んだ声色。…胸も結構大きい。
目はすっぴんでも優しげで色気のあるタレ目。綺麗な形のつり眉。長くて、緩くウェーブした睫毛。

思い出すだけで、惚れ惚れするような彼女の姿を脳裏に呼び起こしながら、ヘアピンをして前髪を一旦退けて、透明なボトルから化粧水を取り出して、掌で広げて顔にパシャパシャ塗った。

肩肘貼らないと生きられないような不器用で不出来な私に『真正面から事細かに悩まなきゃいけないって決まりはないし、偶にはゆるく場当たりに考えてみてもいいと思うよ~。ひなちゃんの結構真面目なとこは私みたいなのはマジでリスペクトって感じだけどさあ、何でもかんでも完璧にって常に考えて自分に否定的になるよか、たまには逃げたり楽したいって思っても罰は当たらないもんだよ。』と言ってくれた、本当に優しい人。

最初は、明るい人は何となく敬遠しがちだから、バイト先が一緒でも彼女とは最低限のことしか話さなかった。なんなら、ああいう陽キャ大学生って苦手だな、くらいに思ってた。今思うと、そういうネットスラング的な分別で毒されてたのは私だったような気もする。シンプルにトラウマがあるから人間関係で傷つくのがもう面倒くさかったのもあるけど。

でも、向こうは歳が近いのもあってか、そんな内気でどうしようもない喪女にも会話を時折してくれた。彼女は本当に社交的な子なようで、私のように趣味も性格も合わない、別人種のような子とも話してくれた。彼女は私のことを一人の人間として対等に話してくれる人だった。
どこに行っても学生時代は爪弾きにされていた私にとってこれは本当に嬉しいことだった。
そんな彼女を、私は好きになった。でも多分、ああいうタイプは私以外にも優しいから、私が特別どうとかって話でもないし、レズばらしする気も今はない。怖いし、正直。

グリーンの化粧下地を顔に塗りながら、そんな臆病風を心にぴゅうぴゅう吹かせた。

というか、多分、私以外の子ともこうやって二人で出かけてるよね。あの子友達多いみたいだし。もしかしたらあの子はバリバリのノンケで、今日彼氏の話をサラッとされたりするかもしれない。…だめだ、いつも一人で悩んでるとこうどんどんネガティブの坩堝に嵌る。

今はとにかく、彼女に会う支度をまずしなくてはいけない。

ライトベージュのパウダーファンデーションをパタパタ肌に叩くと、マットな感じに肌が綺麗になった。

次に淡いピンクのラメ入りアイシャドウを上下瞼にアイシャドウパレットの付属チップで塗り広げる。締め色のチョコレートブラウンのアイシャドウも、目尻と下瞼の際の三角ゾーン、上瞼の際にしっかり書く。明るいブラウンのアイラインを引く。グリッターのピンクラメも涙袋の中央にちょこんとのせる。…このアイシャドウは、あの子に褒められてからずっと使ってる。可愛い色だよね。
あとは下地のクリアマスカラを塗って、少しの間乾かす。ちょっとだけ待って乾かさないと下地として意味が無くなるから。
その後ピューラーで上下睫毛を2回くらいクイッとあげて、ブラウンのマスカラを塗る。
涙袋の影をブラウンのリキッドライナーで書く。目元はこれでだいぶ良くなった。奥行きができて、アイラインやマスカラ、涙袋メイクのおかげかすっぴんより目が大きく見える。…バイト代ちょっと貯まったら涙袋もヒアル入れちゃおうかな。あ、やっぱラメはもうちょいのせよう。

鏡越しに改めて目元を見て思うけど、本当に二重の埋没はして正解だった。一重時代の卒アルなんか最近は物置で埃をかぶってるし。もう思い出したくもない。カラコンも、ピンクで正解だ。少しブラウンが混ざった、縁のないやつ。
派手かもしれないけど、元の顔からイメージを遠くするにはうってつけだし、可憐な色合いだ。

それから、金髪になった自分の髪に合う明るい色のアイブロウペンシルで眉毛を書く。眉毛も脱色はしたけれど、形を整えた方がいい気がするから。
チークはピーチピンクのパウダーチークを、涙袋の下に丸く、小さいブラシで軽くとって、少しだけいれる。本当に少し。
ハイライトのパウダーを頬と鼻筋、人中に少し、細くいれる。
リップはいちごミルクみたいに淡くて、甘いピンクのものを塗る。

最後に、化粧崩れ防止スプレーの小さいプラスチック容器を何回か振ってから、絶対に落ちないでという願いを込めながら5回ほどプッシュして顔に吹きかける。

しばらくそれを乾かしてから、ヘアピンを取って、前髪をくしで整えてから、ヘアアイロンでちょっと巻く。後ろ髪もヘアアイロンで綺麗に真っ直ぐにする。
「よし。」
いつもの私が、ドレッサーの鏡に現れた。綺麗で明るい、太陽みたいなあの子に並んでも大丈夫な私。友達として他者に紹介できる最低限の私。

大丈夫。今日着ていくのは青と白の細かい目のギンガムチェックのワンピース、フリルがついた丸襟に、くしゃっとした袖口が可愛い長袖の、私の一張羅。いつも子供っぽい趣味の服ばかりだとは自分でも思うけど、この間着ていたらあの子にも似合ってると言われた。そういう前例があるものなら。
身長が低くて、足が短い喪女でも、マシになった。リスカ跡もファンデーションテープでいつものチラ見え防止をした。大丈夫。大丈夫。

そう鏡越しの自分に言い聞かせながら、手荷物の点検に、私は移った。
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