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2 男の娘レイヤー視点

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ウィッグネットとテーピングの固定には慣れてきた自分を実感する。

スカイブルーのカラコンを目薬の後に入れると、なんだか気分が高揚する。自分を変身させるんだ、みたいな。

化粧下地はピンクベースのものを愛用している。皮脂吸収もしてくれるタイプ。660円で崩れにくくてヨレにくい、化粧もちのよいプチプラ下地で気に入っている。

リキッドファンデは明るいベージュのものをチューブからちょっと出して、薄く顔に塗り広げる。明るいオークルベージュで、毛穴など素肌のカバーをしてくれる。
クリーム状だけど皮脂崩れしにくくて、サラっとしたテクスチャなのがいい。
コンシーラーで眉や口周りのちょっとした剃り跡や、唇の厚さも少し調整。たまに出来る、憂鬱の塊みたいなニキビの痕もこれで隠す。

パウダーも、白っぽいベージュカラー。柔らかい粉質で、そこそこカバー力もある。
アスファルトに積もる粉状の雪みたいに、肌を包んで整える。

黒のアイブロウペンシル。今日使うのは繰り出し式タイプ。
キャラの意識をして細いタレ眉に書く。最初はただの眉に沿った書き方以外ヘタクソだったけど、こればっかりは慣れるしかない。

ライトブラウンのアイブロウパウダー兼ノーズシャドウのパウダーを薄く、鼻柱の横をなぞるみたいにして、ぼかしてから、次の過程に移る。
クリアマスカラ下地を塗って、少し乾かす間にチークをいれておく。ベージュとピーチピンクで迷って、ピーチピンクのパウダーチークを選んだ。アンドロイド的なキャラの時はチークは塗らないけど、今日は塗る方がいい気がする。
パウダーチークをふわふわの小さなブラシに少しつけて、目の下あたりをふんわり撫でるようにサッと塗る。
血色を足そうと塗りすぎると、後の修正も面倒だし。

シェーディングパウダーも忘れないで、フェイスラインに軽くのせる。

アイシャドウは、アイシャドウパレットの中間色のベージュブラウンを上瞼と涙袋に薄く塗る。
涙袋の影をアイブロウパウダーの細筆で書き足して、ぼかす。黒のアイラインもタレ目がちにひく。
睫毛をビューラーであげてから、黒のマスカラをまつげの先に。睫毛が長く見える繊維入りの黒マスカラだ。べたっとならないようにそっと塗る。
オレンジブラウンのグリッターラメを涙袋の真ん中に置くと、かわいい。

ゴールドベージュのハイライトのキラキラパウダーは、上唇と鼻の間、鼻先と鼻筋に小指で付ける。

メイクキープミストのあとは、着替える。黒いタイツを履いて、メイド風魔法少女コス衣装、白いフリルが袖口とスカートの裾にあしらわれた黒い布地のワンピースに、白のエプロンドレスを結ぶ。膝丈のワンピースには、未だに自分でドキドキしてる。楽しいけど、心臓の鼓動が少し早くなるような、不思議な気分。

衣装は、いつも通販とかで購入出来るジャンルでしている。オリジナルの女装コス含めて、コスプレ衣装は市販派というか、恥ずかしながら、裁縫が出来るタイプではないから。

キャラの髪色にかなり近い、紺色がかった黒髪のウィッグを装着してから、三つ編みに二つ、おさげに結う。前髪やサイドの触覚髪のバランスを確認をしてから、スタイリングオイルのヘアマスカラで仕上げにちょっと整える。

あ、リップ。ふんわりした、青みベビーピンクの色が、ちょっといちごミルクに似てる雰囲気のリップグロス。

黒いリボンと白のふわふわのレースフリルが基調の、垂れたうさ耳付きのヘッドドレスを装着する。

鏡に映る自分は、確かに作り込まれていてよかった。

可愛いものは昔から好きだった。ピンクの兎のぬいぐるみ。白のテディベア。柴犬や猫ちゃん、花畑の風景画等が描かれたイラスト付きのポストカード。レトロ風のステッカー。
そして、ふわふわのフリルレースや、洋服。いわゆる、レディースデザイン。
でも、洋服までは流石に、最初は手を付けられなかった。
特撮やコミックなんかも好きだったけど、可愛いマスコットキャラも好きな幼少期。

正直幼なじみの田中柚季、柚くん以外の友達はあまり出来ない、生まれつき内気で暗い僕には他の男の子達と話すらまともに出来ず過ごした。
自分の白い熊のデザインのペンポーチを見る、なんだか刺さる冷ややかで曖昧な他人の視線。
それがなんだか、鈍く、植物の棘みたいに心が痛む何かに感じて。

自分の好きな世界に何かを刺されるのは嫌いだった。学校が嫌いな時期もあった。
幸い親やお姉ちゃんは僕の好きなものに寛容だったのは救いだったけど。
いや、正直、僕が人間社会で生きていくのが下手くそだったのも悪かったけど。

ネットで知ったコスプレ文化は、その点自分の劣等感を包み隠しながら、好きな漫画や女の子に成りきって、綺麗なコスプレ用の自分を作れるから。

お姉ちゃんが優しいことに、いや、私情込みで撮影や同伴もしているっぽいけど。

でも、柚くんにも、

「それ、株式会社魔法少女のメイだよな!な、可愛い!いやまじでいい!」
「あ、どう、かな、ウィッグ違和感ない?」
「ないない!可愛い!」

純粋な犬みたいな黒目を輝かせて、柚くんはそう返す。
まさか、コスプレバレした時はとうとう終わり、かと思ったのに。

元々僕の好きなこと込みで柚くんは優しかったけど。ここまでノリノリとは。
まあ、悪い気しないどころか、ちょっと照れるくらい、褒められたら嬉しいけど。
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