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6.聖女としてだったら。いいんでしょう
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――俺にお前を、ミント・ヴァレンチノを守らせてくれないか
……はい。
***
「あーーーーー、もぅ……。なにやってんの。わたし」
思わずそう答えてしまったことを今になって、後悔していたりする。
雨あがりとはいえまだぐずついた空の下、庭園を歩きながら逡巡していた。
だって、あれって。
「……告白じゃないの、ねぇアメ」
にゃぁ?
わたしの足元をついて回る子猫。そのこの額を指先で撫でる。
その子にわたしはアメと名付けた。
理由は、名づけに悩んでいたときに雨が振り出したからっていう理由なのだけど。
「はぁ……」
ため息が出る。
前世でもあんな告白受けたことなかった。
まして、いまのわたしは15の少女。ろくな恋愛経験なんてない。
なのに、あんな邪気のない瞳で見られてあんなこと言われたら
断れないじゃない。
嘘のひとつでもつければよかったんだけど。
ん?
「そうよ、まだ15なのに、結婚なんてできるの?」
***
「できますよ」
庭園を一望できる縁側に腰をかけ、セキルへと疑問を投げかけてみた。
回答は、ある意味案の定、なものだったのだけど。
「あー。まぁ……平安時代みたいなもんなのね」
「あの、聖女様その平安というのは」
「いや。いいのこっちの話だから。えっとセキル……王子と結婚ってなったら、どうしたら離婚できるの?」
「……?」
「離婚」
「――リコンとはどいういった意味の言葉でしょうか?」
どうやらこの世界では、離婚というのは一般的なものではないらしい。
とはいえすべての夫婦が生涯添い遂げるというわけでもなく、離縁することはあるらしいが、法的に夫婦関係が解消されることはないようで。
「まさか、聖女様。もう王子とのことをご心配されているのですか?」
「心配するに決まってるでしょ。住む世界が違うもの」
「すぐに慣れますよ。何より、クライン様の話をされる聖女様はこんなにも表情豊かなのですから」
「……そんなことないから!」
セキルはそのほうれい線を歪ませて笑う。
「忙しい公務の合間にのぞいてみたら、騒がしいなぁ」
「……クライン! ……王子」
「いいって、クラインで」
先日とは打って変わって煌びやかな服を纏う王子の姿があった。
不安や恐怖があったとはいえ……思わず告白を受け入れてしまったことを思い出し、恥ずかしさで頭に血が上っていくのがわかる。」
「これはこれは、クライン様」
「なんの話をしていたんだ?」
「リイントロイアでの婚礼の法規についてでございますよ」
「ああ、どうせこいつのことだから。やっぱり『願い下げよ!』とか言ってるのだろう」
そこまでは言ってない……。似たようなことは言ったけど。
「いえいえ。婚姻の年齢のお話をですね」
「ああ。たしか十五の齢だったよな。安心しろ、その年でも結婚はできる。が、性交は――」
せ……せいこう?
あ。いや、そうだよね。
夫婦ってそういう……いや、でも。でも!
「や、え。ちょっ! なに言い出すの」
「いいから最後まで話を聞け。やかましい聖女だな」
「なによ……」
なんでそんな澄ました顔できんのよ。
「女児との性交は16まで禁止されているんだよ。だから出来ないし、する気もない」
「……あ。そう。なんだ――、え、でも。それって結婚って言えるの?」
「猿かお前は。それだけじゃないんだよ、対外的には、とくにな」
「さ……さるって!」
あんなカッコつけて守るって言いながら、ちょっと口がすぎるんじゃなくて?
恨めしい気持ちで彼を見ていたら、一つのことに気づいた。
「あれ……なんで帯刀してるの?」
「ああ。近衛兵とともにいまからメトリアの軍に加わるからな。それが先日の交渉の条件だったんだよ。メトリアがさらに西方の族との争いに辟易していたのは知っていたからな。敵の敵は味方というわけだ」
「え? クラインって王子だよね?」
「ああ、一国の王子としては当然だろう。俺が先陣切って戦場に出向かないで、誰がついてくるというんだ」
……そうなんだ。
でもそれって。
『俺はお前を聖女として利用するつもりはない、だからそれを証明したくて』
わたしのために、戦場へ出るってこと?
「そうでしたか、お気をつけていってらっしゃいませ」
「ちょっとセキルなんで止めないの! ……そんな、怪我とかしたらどうするの!? わたしのこと守るって言って、またどっか行っちゃうの?」
心がざわつく。
15年生きてきたヴァレンチノでも、前世の日本でも戦争なんていうのは外のことで……。それこそ本の中の話だったから。
クラインは確かにむかつくところあるし、ずっと結婚して、一緒に生きていけって言われると……絶対窮屈だし。
でもだからって。死なれちゃ困る。
「国のためだからな」
「……じゃあついてく」
「聖女様!」
セキルの焦った声が聞こえるけど。もうわたしは決めたから。
だからもうその声は聞かない。
「……遊びじゃないんだぞ」
「妻として、いいえ、聖女としてだったら。いいんでしょう」
……はい。
***
「あーーーーー、もぅ……。なにやってんの。わたし」
思わずそう答えてしまったことを今になって、後悔していたりする。
雨あがりとはいえまだぐずついた空の下、庭園を歩きながら逡巡していた。
だって、あれって。
「……告白じゃないの、ねぇアメ」
にゃぁ?
わたしの足元をついて回る子猫。そのこの額を指先で撫でる。
その子にわたしはアメと名付けた。
理由は、名づけに悩んでいたときに雨が振り出したからっていう理由なのだけど。
「はぁ……」
ため息が出る。
前世でもあんな告白受けたことなかった。
まして、いまのわたしは15の少女。ろくな恋愛経験なんてない。
なのに、あんな邪気のない瞳で見られてあんなこと言われたら
断れないじゃない。
嘘のひとつでもつければよかったんだけど。
ん?
「そうよ、まだ15なのに、結婚なんてできるの?」
***
「できますよ」
庭園を一望できる縁側に腰をかけ、セキルへと疑問を投げかけてみた。
回答は、ある意味案の定、なものだったのだけど。
「あー。まぁ……平安時代みたいなもんなのね」
「あの、聖女様その平安というのは」
「いや。いいのこっちの話だから。えっとセキル……王子と結婚ってなったら、どうしたら離婚できるの?」
「……?」
「離婚」
「――リコンとはどいういった意味の言葉でしょうか?」
どうやらこの世界では、離婚というのは一般的なものではないらしい。
とはいえすべての夫婦が生涯添い遂げるというわけでもなく、離縁することはあるらしいが、法的に夫婦関係が解消されることはないようで。
「まさか、聖女様。もう王子とのことをご心配されているのですか?」
「心配するに決まってるでしょ。住む世界が違うもの」
「すぐに慣れますよ。何より、クライン様の話をされる聖女様はこんなにも表情豊かなのですから」
「……そんなことないから!」
セキルはそのほうれい線を歪ませて笑う。
「忙しい公務の合間にのぞいてみたら、騒がしいなぁ」
「……クライン! ……王子」
「いいって、クラインで」
先日とは打って変わって煌びやかな服を纏う王子の姿があった。
不安や恐怖があったとはいえ……思わず告白を受け入れてしまったことを思い出し、恥ずかしさで頭に血が上っていくのがわかる。」
「これはこれは、クライン様」
「なんの話をしていたんだ?」
「リイントロイアでの婚礼の法規についてでございますよ」
「ああ、どうせこいつのことだから。やっぱり『願い下げよ!』とか言ってるのだろう」
そこまでは言ってない……。似たようなことは言ったけど。
「いえいえ。婚姻の年齢のお話をですね」
「ああ。たしか十五の齢だったよな。安心しろ、その年でも結婚はできる。が、性交は――」
せ……せいこう?
あ。いや、そうだよね。
夫婦ってそういう……いや、でも。でも!
「や、え。ちょっ! なに言い出すの」
「いいから最後まで話を聞け。やかましい聖女だな」
「なによ……」
なんでそんな澄ました顔できんのよ。
「女児との性交は16まで禁止されているんだよ。だから出来ないし、する気もない」
「……あ。そう。なんだ――、え、でも。それって結婚って言えるの?」
「猿かお前は。それだけじゃないんだよ、対外的には、とくにな」
「さ……さるって!」
あんなカッコつけて守るって言いながら、ちょっと口がすぎるんじゃなくて?
恨めしい気持ちで彼を見ていたら、一つのことに気づいた。
「あれ……なんで帯刀してるの?」
「ああ。近衛兵とともにいまからメトリアの軍に加わるからな。それが先日の交渉の条件だったんだよ。メトリアがさらに西方の族との争いに辟易していたのは知っていたからな。敵の敵は味方というわけだ」
「え? クラインって王子だよね?」
「ああ、一国の王子としては当然だろう。俺が先陣切って戦場に出向かないで、誰がついてくるというんだ」
……そうなんだ。
でもそれって。
『俺はお前を聖女として利用するつもりはない、だからそれを証明したくて』
わたしのために、戦場へ出るってこと?
「そうでしたか、お気をつけていってらっしゃいませ」
「ちょっとセキルなんで止めないの! ……そんな、怪我とかしたらどうするの!? わたしのこと守るって言って、またどっか行っちゃうの?」
心がざわつく。
15年生きてきたヴァレンチノでも、前世の日本でも戦争なんていうのは外のことで……。それこそ本の中の話だったから。
クラインは確かにむかつくところあるし、ずっと結婚して、一緒に生きていけって言われると……絶対窮屈だし。
でもだからって。死なれちゃ困る。
「国のためだからな」
「……じゃあついてく」
「聖女様!」
セキルの焦った声が聞こえるけど。もうわたしは決めたから。
だからもうその声は聞かない。
「……遊びじゃないんだぞ」
「妻として、いいえ、聖女としてだったら。いいんでしょう」
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