輪廻

YUKI

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油断

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昔みたいに穏やかな日々が訪れ、俺たちの中にも油断が生まれてたのかもしれない。
闇はそれを待っていたのか・・・
リビングで寛いでいた俺たち、ソファーで寝そべり、本を読んでいた祐樹の手から、本がばさりと俺の上に落ちてきた。
眠ったのかと覗いた俺の目に映ったのは、目を見開き硬直状態の祐樹。
何度呼びかけても反応がない。
見開いた目はガラス玉のように目の前の俺を映すが、見えているものは他のもののようだ。



俺は、水神に意識を飛ばす。あの男なら俺を感じ取るだろう。

「くそオヤジ!!!祐樹が大変だ!!」
俺の叫びのこだまのように水神の怒鳴り声が返ってきた。
「クソおやじだと~~~」
「そんなことはどうでもいい!!祐樹の様子が変だ!!そっちに何かあったのか?」
「変?解った!!すぐ行く。呼びかけてろ!!」

俺は、水神の言う事を聞いたわけじゃないが、呼びかける以外何も出来ない自分がいた。
祐樹に呼びかけ、顔を舐め、少しでも俺を見てほしい一心で。

どれだけの時間がたったのか解らない。
リビングに駆け込んできた水神が俺を押しのけ、祐樹の鳩尾に当身を。
その様子に俺は我に帰り
「何してるんだ!!祐樹に手を出すな~~」
「お前は馬鹿か!!意識があるほうが引きずり込まれ易いだろうが!!」
水神のあまりの剣幕に俺は息を呑み、ただ呆然とその場に釘付けになっていた。
「寝室はどこだ」
その声は、もう冷静な水神で軽々と祐樹を抱き上げる姿は頼もしくもあった。
「どうした?寝室に寝かせるから案内しろ」
「あっ!!あぁ・・」
一瞬でもこんな男を認めてしまった自分が惨めで悔しく
「こっちだ!!」
と、強い口調で言い水神の前を歩いた。
「急にあんな状態になったのか?」
「そうだ!それまでは本を読んでた」
「このまま眠らせておいた方がいいかもしれないな」
「解ってる!」
「側についていろよ、俺は署に行って来る。何か情報か・・・まさかとは思うが事件が起きてる可能性があるからな」
「お前に言われなくても側にいるにきまってる。あんな祐樹はもう見たくないからな!!何をやってるんだ!!手がかり一つ掴めてないのか?」
「そう急かすな。俺たちも遊んでるわけじゃない。手がかりがまったくないわけじゃない」

ベットに先に上がり布団を銜えて祐樹を寝かす準備をする俺を見て、今日初めて水神のニタリ笑いを見た。
こいつも緊張してたのか・・・・。
祐樹の側に伏せる俺を心配げに見やり、
「もうすぐ忍が来るから・・・」
そんな言葉を残し部屋を出て行った。

俺たち二人になり、祐樹の静かな寝息を聞いて少し俺も落ち着いたのか、ふと水神がリビングに飛び込んできた時のことを思い出していた。
(あの男、鍵のかかった家にどうやって入ってきたんだ? )
こんな時に俺はそんな疑問を抱いていた。 

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