輪廻

YUKI

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傷跡

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どのくらいの時間がたったのか目の前が真っ赤に染まり、俺は強い腕に現実に引き戻されたようだ。
クラクラと眩暈の残る俺の横で、規則正しい祐樹の寝息が聞こえる。
安堵とともに俺を穏やかな空気が包む。このまま何も起こらないといい、二人で穏やかに・・・。



玄関の戸が開く音がしたような気がする。部屋の入り口、そしてその向こうの気配に耳がピクピクと反応する。
近づいてくる気配に全身の筋肉が張り詰め、緊張する。
「戸を開けた途端、襲われそうだね」
そんな声とクスクスと笑い声が聞こえた。
戸をあけて入ってきたのは、前に水神と一緒に来た真田という男だった。
「祐樹君の具合はどう?」
「大丈夫そうだ。静かに眠っている」
ベットの傍に膝をつき祐樹を覗き込む真田に場所を譲り、ベットを降りた。
真田は、祐樹の首筋に指を滑らせ、そして脈を取るため布団の中から祐樹の腕を取り出した。
「祐樹君、怪我でもしてるの?」
怪訝そうに俺に問いかけながら、布団を祐樹から取り除く。
祐樹の服は赤く染まっていた。
「どうゆうことだ!これは・・・」
服を取り除いた祐樹の体にはナイフで切られたような傷跡。
喉下から下腹付近まで真っ直ぐに伸びる縦の傷。
胸の下に脇から脇に伸びる傷、まるで十字架のように。
俺たち二人がその傷に目を奪われている間にも、祐樹の身体に新たな傷が浮かびだし、そして裂け血を流し、シーツに赤いシミを作る。
その光景に瞠目する俺たちの頭に水神の声が響く。
「新たな犠牲者が出た。今度は猫でも犬でもない。若い女性だ」祐樹の傷を舐め取ろうと俺がベットに上がると
「傷の手当てをする前に写真を撮らせてくれないか?」
真田の真剣な眼差しにこの傷には今度の事件に関係あると確信する。
「解った・・・」
真田は足元においてあった鞄からデジカメを出し、血だらけの祐樹をまるで鑑識官が死体写真を撮るような感じでシャッターをきる。
シャッター音が緊張した空気の中、何度か響いていた後
「手当てをするから救急箱どこ?傷自体はそんなに深い傷はないから安心して」
俺に優しく微笑みかけ俺の行動を促す。
真田に救急箱のある場所を教えながらも、俺の頭の中は祐樹の身体に刻まれた傷が離れなかった。まるで体の内から湧き出してきたような傷。白い身体に流れる血の色が・・・そして、浮き出した傷の意味することは何かと言う事が・・・・。

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