1 / 1
カケラ
しおりを挟む
ちっぽけでも、沢山の人でいつも賑やかな町がありました。
そこに住んでる人たちは、皆とても優しく親切な人ばかりでしたが、少しおせっかいな人が多かったように思います。
そんな中で彼はとても珍しい人でした。
人に親切にしてもらうのも、お節介をやかれるのも嫌いみたいでした。話しかけると無表情だったカオが、不愉快そうに歪んでいましたから。
町の人はそれでも、彼に笑いかけたり、話しかけたりしていましたが、彼の態度は一向に変わりませんでした。そのうち誰も見向きもしなくなりました。
彼は、町の人から構われなくなってホッとして、暫くは楽になったと安心して過ごしていました。
でも、今度は町の賑やかさに、イライラしてきてしまいました。こればかりは町の人に文句は言えないと、彼は小高い丘の上に自分だけのお家を建てて、そこの移りました。そこには、人々の話し声や、笑い声など聞こえてはこない静かな所でした。彼は心から満足し、その家の生活安らぎを感じました。
どんなことをしていても、誰に咎められることもなく、周りに気を使うこともなくなり、彼の険しかった表情は、いつの間にか柔らかい表情になっていました。心の穏やかさや優しさ、ゆとりが、表情に表れてきたのでしょうか。
ある日彼は、もうすぐ来る冬の季節に備えて薪を取りに山に入っていきました。普段に必要な薪は、森まで行かなくても何とかなりましたが、冬の季節には雪が降り積もってしまうかもしれません。沢山の薪が冬を越すにはきっと必要でしょう。
森に入るのは初めてで少し不安もありましたが、中は木々からの木漏れ日があちこちから差し、とても穏やかな森でした。森の動物たちも、彼のことを恐れもせず興味の目で草木の間から顔をちらちらと覗かしていました。そんな様子を目の端に見ながら、彼の口元からは笑みがこぼれていました。
彼はしだいに森の動物たちと仲良くなりたいと思うようになりました。言葉を交わしあうのではなく、心の声で話したいと思いました。
でも、彼には解らなかったのです。言葉でも、心でも自分以外に心を開いたことがなかったから、どうすればいいのか思い悩みました。
彼は、もう長い間話をすることしなかったので、言葉も声を出すことも忘れてしまっていました。だから、彼は森の動物たちに笑い始めることをから始めました。
森に出かけた時だけでなく、窓の外に遊びに来た小鳥たちにはパン屑をあげながら、庭に植えた花たちにも水を与えながら笑いかけました。
そんな彼に小鳥たちは美しい声を聴かせてくれるようになりました。彼もまた、小鳥たちの歌声に口笛のハミングで答えるようになりました。
森の動物たちに愛しさを感じ始め薪が小屋をいっぱいに満たした頃には、山は雪が地面を城に塗り変え始めてきました。
家の周りや山も雪で覆われて彼は家から出るのが困難になり始めました。動物たちのことが心配になり始めました。
『こんな雪の中どうしてるんだろう』
彼にもこの時初めて自分以外に気遣う気持ちが生まれ始めたのです。
もう何日も雪がやまない日が続きました。ただシンシンと降り続いていた雪に風が加わり、いつのまにか嵐のような様相に変わっていきました。部屋の片隅にうず高く積まれた薪を眺め
『二、三日はもつだろうか』
そんなことを考えながら暖炉の前でまどろんでいました。
風に紛れて微かな戸を叩く音にソファーから身をお越し聞き耳を立てます。今度ははっきりと聞こえました。彼は、こんな吹雪の日にと不審には思いましたが戸を少し開け外の様子を伺ってみました。
そこには、雪を背中に乗せたウサギが佇んでいました。彼は急いでウサギを家の中に招き入れました。
暖炉のそばにベットの足元に置いていたマットを置き、『おいで』と、手招きするとウサギは嬉しそうに暖炉のそばに蹲りました。
彼は隣に腰をおろしそっと背中の雪を払落し、濡れてしまったウサギの体を乾かすように優しく撫でてあげました。
夜が明けて雪がやむとウサギは森に帰っていきました。ウサギの後ろ姿を見ながら
『また、来てくれるだろうか』と、思ってしまう彼でした。
彼は、天気の良くなった日お日様が高いうちに食料などを町まで調達にと忙しく働きました。夜に来てくれるかもしれないお客の事を思いながら。
夜になると彼は、そわそわと落ち着かない気持ちになります。でも、ドアを叩く音は聞こえてきません。がっくりと肩を落とし、暖炉の前で膝を抱え暖かだったあの夜のことを思い浮かべました。穏やかで優しいひと時を。
そんな彼の耳にかすかにドアを叩く音が聞こえたのです。急いでドアを開けると外にはウサギさんのほかにも沢山の動物たちがいました。彼は嬉しくて彼らを家に入れ暖かい暖炉の側をすすめました。
彼の顔にはとても幸せな笑顔が浮かんでいました。
その夜から彼の家には夜昼問わず動物たちが遊びに来るようになり、彼は優しい気持ちに満たされていきました。
もう、彼は町に下りて行っても誰にでも優しく微笑むことも、笑顔で挨拶することも、されることも煩わしいと思うことはなくなりました。
彼の中に唯一かけていた『おもいやり』のカケラを手に入れたのですから。
そこに住んでる人たちは、皆とても優しく親切な人ばかりでしたが、少しおせっかいな人が多かったように思います。
そんな中で彼はとても珍しい人でした。
人に親切にしてもらうのも、お節介をやかれるのも嫌いみたいでした。話しかけると無表情だったカオが、不愉快そうに歪んでいましたから。
町の人はそれでも、彼に笑いかけたり、話しかけたりしていましたが、彼の態度は一向に変わりませんでした。そのうち誰も見向きもしなくなりました。
彼は、町の人から構われなくなってホッとして、暫くは楽になったと安心して過ごしていました。
でも、今度は町の賑やかさに、イライラしてきてしまいました。こればかりは町の人に文句は言えないと、彼は小高い丘の上に自分だけのお家を建てて、そこの移りました。そこには、人々の話し声や、笑い声など聞こえてはこない静かな所でした。彼は心から満足し、その家の生活安らぎを感じました。
どんなことをしていても、誰に咎められることもなく、周りに気を使うこともなくなり、彼の険しかった表情は、いつの間にか柔らかい表情になっていました。心の穏やかさや優しさ、ゆとりが、表情に表れてきたのでしょうか。
ある日彼は、もうすぐ来る冬の季節に備えて薪を取りに山に入っていきました。普段に必要な薪は、森まで行かなくても何とかなりましたが、冬の季節には雪が降り積もってしまうかもしれません。沢山の薪が冬を越すにはきっと必要でしょう。
森に入るのは初めてで少し不安もありましたが、中は木々からの木漏れ日があちこちから差し、とても穏やかな森でした。森の動物たちも、彼のことを恐れもせず興味の目で草木の間から顔をちらちらと覗かしていました。そんな様子を目の端に見ながら、彼の口元からは笑みがこぼれていました。
彼はしだいに森の動物たちと仲良くなりたいと思うようになりました。言葉を交わしあうのではなく、心の声で話したいと思いました。
でも、彼には解らなかったのです。言葉でも、心でも自分以外に心を開いたことがなかったから、どうすればいいのか思い悩みました。
彼は、もう長い間話をすることしなかったので、言葉も声を出すことも忘れてしまっていました。だから、彼は森の動物たちに笑い始めることをから始めました。
森に出かけた時だけでなく、窓の外に遊びに来た小鳥たちにはパン屑をあげながら、庭に植えた花たちにも水を与えながら笑いかけました。
そんな彼に小鳥たちは美しい声を聴かせてくれるようになりました。彼もまた、小鳥たちの歌声に口笛のハミングで答えるようになりました。
森の動物たちに愛しさを感じ始め薪が小屋をいっぱいに満たした頃には、山は雪が地面を城に塗り変え始めてきました。
家の周りや山も雪で覆われて彼は家から出るのが困難になり始めました。動物たちのことが心配になり始めました。
『こんな雪の中どうしてるんだろう』
彼にもこの時初めて自分以外に気遣う気持ちが生まれ始めたのです。
もう何日も雪がやまない日が続きました。ただシンシンと降り続いていた雪に風が加わり、いつのまにか嵐のような様相に変わっていきました。部屋の片隅にうず高く積まれた薪を眺め
『二、三日はもつだろうか』
そんなことを考えながら暖炉の前でまどろんでいました。
風に紛れて微かな戸を叩く音にソファーから身をお越し聞き耳を立てます。今度ははっきりと聞こえました。彼は、こんな吹雪の日にと不審には思いましたが戸を少し開け外の様子を伺ってみました。
そこには、雪を背中に乗せたウサギが佇んでいました。彼は急いでウサギを家の中に招き入れました。
暖炉のそばにベットの足元に置いていたマットを置き、『おいで』と、手招きするとウサギは嬉しそうに暖炉のそばに蹲りました。
彼は隣に腰をおろしそっと背中の雪を払落し、濡れてしまったウサギの体を乾かすように優しく撫でてあげました。
夜が明けて雪がやむとウサギは森に帰っていきました。ウサギの後ろ姿を見ながら
『また、来てくれるだろうか』と、思ってしまう彼でした。
彼は、天気の良くなった日お日様が高いうちに食料などを町まで調達にと忙しく働きました。夜に来てくれるかもしれないお客の事を思いながら。
夜になると彼は、そわそわと落ち着かない気持ちになります。でも、ドアを叩く音は聞こえてきません。がっくりと肩を落とし、暖炉の前で膝を抱え暖かだったあの夜のことを思い浮かべました。穏やかで優しいひと時を。
そんな彼の耳にかすかにドアを叩く音が聞こえたのです。急いでドアを開けると外にはウサギさんのほかにも沢山の動物たちがいました。彼は嬉しくて彼らを家に入れ暖かい暖炉の側をすすめました。
彼の顔にはとても幸せな笑顔が浮かんでいました。
その夜から彼の家には夜昼問わず動物たちが遊びに来るようになり、彼は優しい気持ちに満たされていきました。
もう、彼は町に下りて行っても誰にでも優しく微笑むことも、笑顔で挨拶することも、されることも煩わしいと思うことはなくなりました。
彼の中に唯一かけていた『おもいやり』のカケラを手に入れたのですから。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる