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泣いて泣いて、泣き疲れて声を枯らし、気を失うように眠りに落ちたレニを、躊躇ったものの、私のベッドに寝かせた。
瞼は赤く腫れ上がり、このままでは明日、目を開ける事も出来ないかもしれない。
アネットを呼び出すと、とうに就寝していた筈の彼女は、直ぐにやって来た。
レニが動揺しながら部屋を飛び出したのに、気が付いていたらしい。
「…鎮静効果のある薬草水に浸した布です。瞼を冷やせば、幾分、良くなるかと」
小声で差し出された布と、薬草水の入った器を受け取ると、アネットは、痛ましそうに視線を伏せて、部屋を辞した。
瞼に冷たい布を置いて、疲れ切ったレニの寝顔を眺める。
『ごめ…っなさ…っごめ、ん、な…いっ』
レニは、繰り返し、謝罪の言葉を口にしていた。
誰に、謝っていたのだろう。
望まぬ妊娠をした、母にか。
無実の罪で処刑された、母方の家族にか。
彼女を籍から外す為だけに組まれた縁談に巻き込まれた、ギュンターにか。
…子供の世界は、狭い。
自分が接した人間だけが住人で、自分の足で歩いた範囲だけが国だ。
成長と共に、交友関係も行動範囲も広がっていく。
そして、世界もまた、広がっていく。
だが。
レニの世界は、極めて狭く、閉じたものだった。
言葉を交わす相手は、母だけ。
行動範囲は、屋敷の中だけ。
そんなレニの世界は、バーデンホスト家を出た事で、一気に広がった。
彼女は、今日の夜会を無事に乗り切り、自信を身に付けて…明かされた真実の重さに、激しい衝撃を受けた。
嘗て、世界の全てだった母に、彼女の根幹を成した母に、存在自体を否定されたのだ。
信じていた母が、まさか、彼女を憎んでいたなんて、想像もしていなかった筈だ。
知らなければ良かったのに、とは、思わない。
いつかは、何処かから知れる事なのだろうから。
手紙の内容を、思い出す。
私にとって最大の疑問だった、『バーデンホスト侯爵は、結婚後、何故、直ぐに妾を持ったのか』については、これ以上なく簡潔に理解出来た。
バーデンホスト家からエアハルト家に、政略的に婚姻を申し込んだ場合、エアハルト伯爵はバーデンホスト家の状況を精査し、爵位の差はあれども、縁談を拒否しただろう。
何しろ、当時のバーデンホスト家の財政は火の車。
侯爵家の後ろ盾などなくとも、順調な商いを行っていたエアハルト家に、婚姻を通じて得られる益など全くない。
だからこそ、恋愛結婚を装う必要があったのだ。
政略的に有効ではなくとも、互いの思いで婚約に至った、私とイルザのように。
マルグリット夫人は、マティアスが言っていたように、「気立てがよく、周囲に慕われる」女性には、思えなかった。
私にとって彼女は、恋人に精神的虐待を受け、自身の恋情に振り回され、我が子を不幸にした女性だ。
だが…恋情が理性で制御出来ない事もまた、私は知っている。
どれだけ、兄達に諭されようとも、イルザを諦める選択肢がなかったのは、私自身だ。
レニの受けた衝撃を思えば、マルグリット夫人を責めたくなる。
同時に、恋人を信じたかった彼女の想いもまた、判ってしまう。
その結果が、余りに非情故に、気持ちの収まりがつかないだけで。
過去をどれだけ責め立てようと、終わってしまった事だ、と、溜息を吐いた。
温くなった布を、冷たい薬草水に浸し直して、再び、レニの瞼に乗せる。
彼女は小さく息を吐いて、身動ぎした。
レニの涙を、思い出す。
赤ん坊のように、全身で泣いていたレニ。
全てを吐き出すような、慟哭。
悲しみも、怒りも、嘆きも、全てを押し流してしまえただろうか。
この小さな体で、抱えきれる痛みではないだろう。
レニの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
いや、涙だけではない。ありとあらゆる体液が出ていたと思う。
そこには、普段の落ち着いた姿はなく、顔を歪め、震える指先で、必死に私にしがみついていた。
決して、美しいとは言えない泣き顔。
――…イルザが流した涙とは、全然違う。
イルザの涙は、零れ落ちる宝石のようだった。
悲しいのだ、と、一粒一粒、頬に転げ落ちながら私に主張する涙を見るのが辛くて、彼女の「お願い」を随分、聞いた気がする。
だが、レニの涙は、私に悲しみを訴える為のものではなかった。
寧ろ、悲しみを押し隠そうとして、隠しきれずに溢れ出したものだった。
「…全然、違うんだね」
どちらが正しいとか間違っているとか、そう言う問題ではないのだろう。
イルザは、世界が破壊される程の悲しみに襲われた事がないだけだし、レニは、私にお願いを聞いて欲しかったわけではない。
けれど。
私には…レニの涙こそが、命そのものに見えた。
イルザの涙は、美しかった。
美しかったからこそ、彼女を泣かせたくはなかった。
でも、私の全てで守らなくてはならない、と、強く感じたのは、レニの涙だった。
「私を、頼ってくれて有難う」
白い敷布に、レニの柔らかな栗色の髪が広がっている。
思わず、その髪に手を伸ばし掛けて、触れる直前に手を握り締めた。
レニに抱く思いに、私はまだ、名を付けられずにいる。
彼女を見つめていると、また自然と手を伸ばしてしまいそうで、意識して目を逸らす。
自分の気持ちを誤魔化すように、マルグリット夫人の手紙を手に取ってみた。
すると、厚みのある長い手紙だったとは言え、予想外の重さを感じた。
封筒の中を検めた所、掌大の真鍮製の鍵が同封されている。
「これは…」
装飾性の高い鍵は、錠前を開ける為のものには見えない。
ランプの灯りの元、じっくりと確認すると、打刻された文字と数字が読み取れた。
「これは、もしや…」
財産を全て、教会に寄付したと言うエアハルト伯爵。
これは恐らく、その教会で、マルグリット夫人とレニの身分を証明する為のものだ。
エアハルト伯爵が教会に寄付をしたのは、娘と孫を、丁重に保護して貰う為。
教会は悩める人々に広く門戸を開いているが、人間は、雨露さえ凌げれば生きていけるものではない。
食料も必要とすれば、衣類も必要とする。
人が生きる以上、そこには金銭が発生するのだ。
無一文で駆け込んだ人間には、清貧を求めざるを得ない。
貴族、それも、裕福な、と頭につく生活を送っていたマルグリット夫人が、幼子を抱えて、清貧生活を送るのは困難だと考えたからこそ、エアハルト伯爵は私財を投じたのではないか。
「確認、しなくては」
もしかすると、亡くなったエアハルト伯爵の思いを、レニに伝えてやれるかもしれない。
いつの間にか、レニを寝かせたベッドの横に置いた椅子に座ったまま、眠り込んでいたらしい。
荒い息が聞こえて顔を上げると、レニが魘されているのが見えた。
昨夜は真っ青だった顔が真っ赤に火照り、額にうっすらと汗を掻いている。
「…熱?」
額にそっと触れると、燃えるように熱い。
慌てて、医師を呼ぶよう、指示を出した。
私が幼い頃から診て貰っている医師による診断は、過労。
バーデンホスト家を出てから半年の間、大きな環境の変化があったのに、体調を崩さなかった事が不思議なのだ。
恐らくは、昨夜の精神的なショックが引き金となったのだろう。
余りに熱が高い為、移動させるのも忍びなく、そのまま、レニは私のベッドで休ませている。
高熱で意識が朦朧としているのか、時折、うっすらと目を開けるものの、会話らしい会話は出来ない。
水分を含ませるのがやっとで、食事など、到底、取れそうになかった。
アネットに、看病は任せて欲しい、と言われたが、レニの事が心配で、とても傍から離れられそうにない。
幼い頃、体調を崩した際、目が覚めて一人きりだった時の心細さを覚えているから、猶更だ。
「旦那様、お仕事は…」
「休む。マティアスに言伝をつけるから、呼んでくれ」
「ですが、マティアス様に、奥様がお休みになっている寝室に入って頂くわけには参りません」
「…判った。マティアスが来たら、声を掛けて欲しい。居間に行くから」
「畏まりました」
玉のような汗を拭い、直ぐに温くなる布を氷水で冷やして、額に乗せる。
きんきんに冷えた氷水で、指先が凍えた。
今日ほど、病弱だった過去に感謝した事はないかもしれない。
何をすると楽になるのか、自身の経験で覚えているから、侍女の手を借りずとも、何とか看病が出来そうだ。
「旦那様、マティアス様がお見えです」
「今行く。アネット、代わりにレニについていてくれ」
「はい」
「おはようございます、ジークムント様。…レニ様が、ご体調を崩されたとか…」
「あぁ。高熱で意識が朦朧としている。だから、彼女の熱が下がるまで、傍についていてやりたい」
「お気持ちは判りますが…恐らく、今日は何件か、面会の申し込みがあるかと」
私が、レニを同伴している姿を見て、接触を図る者がいるだろう、と、予測はしていた。
「疲労から来る発熱だそうだから、そう長くは続かない筈だ。用件次第だが、出来れば一週間程度、先の日程で組んで欲しい」
「畏まりました」
頷きながらも、何か聞きたそうなマティアスに、目で問い掛ける。
「…何か、あったのですか?確かに、夜会は社交界にお出になった事のないレニ様にとって、大きな負担だったとは思いますが…私の見た所、随分と落ち着いておられたようだったので…」
王命による縁談が持ち込まれた当初、マティアスはレニの悪評を心配していた。
けれど、真実を探る中、レニの置かれていた状況に、憤慨していたのもまた、マティアスだ。
「夜会も、原因の一つかもしれないが…私達が調べた以上に、現実は残酷だった、と言う事だ」
「それは…」
私の匂わせた言葉で、マティアスは、それがバーデンホスト家に関わる内容だと気づいたらしい。
「王宮に私の欠勤を伝達すると同時に、従兄上に面会の申し入れをしてきてくれないか」
「承知致しました」
瞼は赤く腫れ上がり、このままでは明日、目を開ける事も出来ないかもしれない。
アネットを呼び出すと、とうに就寝していた筈の彼女は、直ぐにやって来た。
レニが動揺しながら部屋を飛び出したのに、気が付いていたらしい。
「…鎮静効果のある薬草水に浸した布です。瞼を冷やせば、幾分、良くなるかと」
小声で差し出された布と、薬草水の入った器を受け取ると、アネットは、痛ましそうに視線を伏せて、部屋を辞した。
瞼に冷たい布を置いて、疲れ切ったレニの寝顔を眺める。
『ごめ…っなさ…っごめ、ん、な…いっ』
レニは、繰り返し、謝罪の言葉を口にしていた。
誰に、謝っていたのだろう。
望まぬ妊娠をした、母にか。
無実の罪で処刑された、母方の家族にか。
彼女を籍から外す為だけに組まれた縁談に巻き込まれた、ギュンターにか。
…子供の世界は、狭い。
自分が接した人間だけが住人で、自分の足で歩いた範囲だけが国だ。
成長と共に、交友関係も行動範囲も広がっていく。
そして、世界もまた、広がっていく。
だが。
レニの世界は、極めて狭く、閉じたものだった。
言葉を交わす相手は、母だけ。
行動範囲は、屋敷の中だけ。
そんなレニの世界は、バーデンホスト家を出た事で、一気に広がった。
彼女は、今日の夜会を無事に乗り切り、自信を身に付けて…明かされた真実の重さに、激しい衝撃を受けた。
嘗て、世界の全てだった母に、彼女の根幹を成した母に、存在自体を否定されたのだ。
信じていた母が、まさか、彼女を憎んでいたなんて、想像もしていなかった筈だ。
知らなければ良かったのに、とは、思わない。
いつかは、何処かから知れる事なのだろうから。
手紙の内容を、思い出す。
私にとって最大の疑問だった、『バーデンホスト侯爵は、結婚後、何故、直ぐに妾を持ったのか』については、これ以上なく簡潔に理解出来た。
バーデンホスト家からエアハルト家に、政略的に婚姻を申し込んだ場合、エアハルト伯爵はバーデンホスト家の状況を精査し、爵位の差はあれども、縁談を拒否しただろう。
何しろ、当時のバーデンホスト家の財政は火の車。
侯爵家の後ろ盾などなくとも、順調な商いを行っていたエアハルト家に、婚姻を通じて得られる益など全くない。
だからこそ、恋愛結婚を装う必要があったのだ。
政略的に有効ではなくとも、互いの思いで婚約に至った、私とイルザのように。
マルグリット夫人は、マティアスが言っていたように、「気立てがよく、周囲に慕われる」女性には、思えなかった。
私にとって彼女は、恋人に精神的虐待を受け、自身の恋情に振り回され、我が子を不幸にした女性だ。
だが…恋情が理性で制御出来ない事もまた、私は知っている。
どれだけ、兄達に諭されようとも、イルザを諦める選択肢がなかったのは、私自身だ。
レニの受けた衝撃を思えば、マルグリット夫人を責めたくなる。
同時に、恋人を信じたかった彼女の想いもまた、判ってしまう。
その結果が、余りに非情故に、気持ちの収まりがつかないだけで。
過去をどれだけ責め立てようと、終わってしまった事だ、と、溜息を吐いた。
温くなった布を、冷たい薬草水に浸し直して、再び、レニの瞼に乗せる。
彼女は小さく息を吐いて、身動ぎした。
レニの涙を、思い出す。
赤ん坊のように、全身で泣いていたレニ。
全てを吐き出すような、慟哭。
悲しみも、怒りも、嘆きも、全てを押し流してしまえただろうか。
この小さな体で、抱えきれる痛みではないだろう。
レニの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
いや、涙だけではない。ありとあらゆる体液が出ていたと思う。
そこには、普段の落ち着いた姿はなく、顔を歪め、震える指先で、必死に私にしがみついていた。
決して、美しいとは言えない泣き顔。
――…イルザが流した涙とは、全然違う。
イルザの涙は、零れ落ちる宝石のようだった。
悲しいのだ、と、一粒一粒、頬に転げ落ちながら私に主張する涙を見るのが辛くて、彼女の「お願い」を随分、聞いた気がする。
だが、レニの涙は、私に悲しみを訴える為のものではなかった。
寧ろ、悲しみを押し隠そうとして、隠しきれずに溢れ出したものだった。
「…全然、違うんだね」
どちらが正しいとか間違っているとか、そう言う問題ではないのだろう。
イルザは、世界が破壊される程の悲しみに襲われた事がないだけだし、レニは、私にお願いを聞いて欲しかったわけではない。
けれど。
私には…レニの涙こそが、命そのものに見えた。
イルザの涙は、美しかった。
美しかったからこそ、彼女を泣かせたくはなかった。
でも、私の全てで守らなくてはならない、と、強く感じたのは、レニの涙だった。
「私を、頼ってくれて有難う」
白い敷布に、レニの柔らかな栗色の髪が広がっている。
思わず、その髪に手を伸ばし掛けて、触れる直前に手を握り締めた。
レニに抱く思いに、私はまだ、名を付けられずにいる。
彼女を見つめていると、また自然と手を伸ばしてしまいそうで、意識して目を逸らす。
自分の気持ちを誤魔化すように、マルグリット夫人の手紙を手に取ってみた。
すると、厚みのある長い手紙だったとは言え、予想外の重さを感じた。
封筒の中を検めた所、掌大の真鍮製の鍵が同封されている。
「これは…」
装飾性の高い鍵は、錠前を開ける為のものには見えない。
ランプの灯りの元、じっくりと確認すると、打刻された文字と数字が読み取れた。
「これは、もしや…」
財産を全て、教会に寄付したと言うエアハルト伯爵。
これは恐らく、その教会で、マルグリット夫人とレニの身分を証明する為のものだ。
エアハルト伯爵が教会に寄付をしたのは、娘と孫を、丁重に保護して貰う為。
教会は悩める人々に広く門戸を開いているが、人間は、雨露さえ凌げれば生きていけるものではない。
食料も必要とすれば、衣類も必要とする。
人が生きる以上、そこには金銭が発生するのだ。
無一文で駆け込んだ人間には、清貧を求めざるを得ない。
貴族、それも、裕福な、と頭につく生活を送っていたマルグリット夫人が、幼子を抱えて、清貧生活を送るのは困難だと考えたからこそ、エアハルト伯爵は私財を投じたのではないか。
「確認、しなくては」
もしかすると、亡くなったエアハルト伯爵の思いを、レニに伝えてやれるかもしれない。
いつの間にか、レニを寝かせたベッドの横に置いた椅子に座ったまま、眠り込んでいたらしい。
荒い息が聞こえて顔を上げると、レニが魘されているのが見えた。
昨夜は真っ青だった顔が真っ赤に火照り、額にうっすらと汗を掻いている。
「…熱?」
額にそっと触れると、燃えるように熱い。
慌てて、医師を呼ぶよう、指示を出した。
私が幼い頃から診て貰っている医師による診断は、過労。
バーデンホスト家を出てから半年の間、大きな環境の変化があったのに、体調を崩さなかった事が不思議なのだ。
恐らくは、昨夜の精神的なショックが引き金となったのだろう。
余りに熱が高い為、移動させるのも忍びなく、そのまま、レニは私のベッドで休ませている。
高熱で意識が朦朧としているのか、時折、うっすらと目を開けるものの、会話らしい会話は出来ない。
水分を含ませるのがやっとで、食事など、到底、取れそうになかった。
アネットに、看病は任せて欲しい、と言われたが、レニの事が心配で、とても傍から離れられそうにない。
幼い頃、体調を崩した際、目が覚めて一人きりだった時の心細さを覚えているから、猶更だ。
「旦那様、お仕事は…」
「休む。マティアスに言伝をつけるから、呼んでくれ」
「ですが、マティアス様に、奥様がお休みになっている寝室に入って頂くわけには参りません」
「…判った。マティアスが来たら、声を掛けて欲しい。居間に行くから」
「畏まりました」
玉のような汗を拭い、直ぐに温くなる布を氷水で冷やして、額に乗せる。
きんきんに冷えた氷水で、指先が凍えた。
今日ほど、病弱だった過去に感謝した事はないかもしれない。
何をすると楽になるのか、自身の経験で覚えているから、侍女の手を借りずとも、何とか看病が出来そうだ。
「旦那様、マティアス様がお見えです」
「今行く。アネット、代わりにレニについていてくれ」
「はい」
「おはようございます、ジークムント様。…レニ様が、ご体調を崩されたとか…」
「あぁ。高熱で意識が朦朧としている。だから、彼女の熱が下がるまで、傍についていてやりたい」
「お気持ちは判りますが…恐らく、今日は何件か、面会の申し込みがあるかと」
私が、レニを同伴している姿を見て、接触を図る者がいるだろう、と、予測はしていた。
「疲労から来る発熱だそうだから、そう長くは続かない筈だ。用件次第だが、出来れば一週間程度、先の日程で組んで欲しい」
「畏まりました」
頷きながらも、何か聞きたそうなマティアスに、目で問い掛ける。
「…何か、あったのですか?確かに、夜会は社交界にお出になった事のないレニ様にとって、大きな負担だったとは思いますが…私の見た所、随分と落ち着いておられたようだったので…」
王命による縁談が持ち込まれた当初、マティアスはレニの悪評を心配していた。
けれど、真実を探る中、レニの置かれていた状況に、憤慨していたのもまた、マティアスだ。
「夜会も、原因の一つかもしれないが…私達が調べた以上に、現実は残酷だった、と言う事だ」
「それは…」
私の匂わせた言葉で、マティアスは、それがバーデンホスト家に関わる内容だと気づいたらしい。
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